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土方は真っ青になった。

外では日が上がり始めていて、目覚めの鳥が鳴き声を響きあわせては歌う。
朝日に照らされた体は何も身に着けてはおらず、明らかに情事の後という気だるさが全身を包んでいた土方は今のこの状況にまさしく魂を抜かれた状態になっていた。

「・・・・・・・・あれれ。もう目が覚めたんですかィ・・・?いつもながら早いねィ・・・・」

その眠そうな声に土方は心臓が止まりかけるほどに驚いた。
隣では自分と同じように裸で寝転がっていた沖田が、欠伸をして見上げてきた。呆然としている土方に気がついたのか、意地悪げな目で面白そうに笑みを浮かべて土方の手を握る。その腕が帯で一緒にくくられていた。
「今日は一緒の朝をと思いましてね」
「・・・・・・・っ」
つっと這わせられた指に土方はビクッと体を震わせて立ち上がろうとする。だが、がくっと腰が抜けてまた布団の上で座り込むことになった。・・・・・信じられない事だがありえない場所がかゆみを持った鈍い痛みを訴えてくる。それがなおさら土方を恐慌へと陥れた。
しかも寝違えでもしたのか顎が疲れている。土方は混乱の中自分の頬骨を抑えるように手を当てた。

これはいったい何事だ!!!?

沖田は自分が付けた赤い痕を満足そうに眺めた。土方の綺麗に筋肉の付いた体には情事の証を見せ付ける赤い花びらが散っていてひどく扇情的だ。
羞恥に身を染める土方はふるふると震えるだけで沖田の視線には全く気がつかない。
「昨日あんたがもっとって泣いて言うから俺も夢中になっちまって何度も気をやりすぎちまったかもしれないですねィ・・・・」
沖田が寝っ転がったままうっとりとした目で手を伸ばす。ぎょっとした土方はその手を振り払った。

「俺はそんな事言った覚えは無いっ!」

完全な拒絶に沖田も眉間に皺を寄せる。
「あんたいったいどうしたんで?縛ったのが気にいらないんですかい?でもこうでもしないとあんたすぐ自分の部屋に帰っちまうでしょ。だから・・・・」
「帰るも何も何で俺はここにいるんだっ?しかもなんだこれはっ。いや、いい。何も言うな。何も聞きたくない」
現実を認識したくなくて土方は目を閉じて耳を両手でふさいだ。
何があったかなんて聞かなくてもわかる。情事の後の体を襲う気だるさと、何より人には言えないようなところに感じるわずかな痛み。
だけどなんでよりによって自分が下なんだ。いったい何があった。
混乱状態の土方の手を沖田が引く。

「は?・・・・昨日の夜あんたが尋ねてきて色っぽくねだるから抱いてやったんでしょーがィ。あんた今更何を言ってるんですかィ?これが初めてって訳でもないでしょーに」

「!!!!?」

沖田の言葉に土方は絶句した。その様子に沖田も何か感じたものがあったのか片眉を上げた。
心なしか機嫌が悪くなっている。
「あんたが何考えてるか知らねーが、俺はあんたの冗談に付き合う気はねーからねィ」
「俺だって冗談言ってる余裕なんてねーよっ。昨日はちゃんと自室で布団引いて寝たんだ。それなのになんで俺はここにいてしかも何でお前なんかと一緒に寝てんだよっ」
沖田でなくても同じ事を言っただろう。だが沖田にとってそれが免罪符になるかといえばなるはずがない。

「・・・・・・お前なんか・・・・・?・・・・へぇ・・・・・」

沖田は完全に目を据わらせた。ひやりとした冷気に気がついて土方は漸く自分の言葉がまずかったことに気がついた。沖田の沸点は意外と高い位置にある。どうでもいいとふざけた態度がそうさせるのだろうが、その一点を超えたときの沖田は時に土方をしても止められない時がある。特に今回は怒らせた理由は自分にあるのだ。
「俺はあんたに弄ばれたってわけですかい」
「なっ、何だその言い草はっ」
「だってそうでしょーが。誘ったのはあんたなんですぜ。それも一度や二度じゃあない。いまさらすっとぼけてなかったことにしようだなんてひどすぎるじゃねーかィ」
「だから俺は全く覚えが無いんだって言ってるだろうが!!!」
沖田は土方の言葉を完全に信用していない。
「昨日フェラさせて飲ませたこと怒ってるんで?でもあれはあんたがしてくれた事で、俺はいいって言ったでしょ?それにあんたあんなに一生懸命してくれたのに」
「!!!!???」
土方は一気に血の気が引いた。
思わずこみ上げてきた吐き気を口を抑える事でこらえる。
その様子に沖田は漸く何かがおかしいと感じたようだった。

「あんた・・・まさか全く覚えてないんで?」

「・・・・・覚えてない・・・・」

青を通り越して真っ白になっている土方に、沖田はきつく眉を潜めた。そして信じられないように目を見開く。
シーツを掴んだ指が白くなり、小さく震える。
しんとした静けさが逆にいたたまれない。
沖田はやがて怒りを押し殺したように呟いた。

「・・・・・・おかしいとは思ってたんでィ。毎晩あんなに甘えてくるあんたが昼間はまるっきりそんなそぶりは見せない。仕事中だからだろうと自分を納得させてみたけど・・・・・まさか、本気でこんなこと・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・そうかィ」

沖田は土方と自分を繋いでいた帯を乱暴に解いた。ふとんの横にちらかったままの浴衣を羽織り、簡単に帯を巻いて部屋を出て行った。
声をかけようにもどうかければいいのか迷ったまま、土方はその背中を見送る事しかできなかった。










眠り姫は目覚めない











屯所の庭を横切って道場に向っていた土方は、いきなりぞわっと総毛立ち反射で右に避けた。自分がいたそこを鈍色の風が切った。
「ちっ・・・・・・しくじったか」
「総悟!!!また、てめぇか!!!むやみやたらに真剣振り回すんじゃねぇぇぇ!!!!」
真剣を振り下ろしたままの形で舌打ちする沖田の胸倉を掴む。沖田はいつものように眠そうな顔でいつものごとく言い訳を口にする。
「いえ、土方さんの肩に蜂がいたもんで。あぶねーと思いまして」
「あぶねぇのはてめえだろうが、この野郎!!!どこに蜂がいるんだ!!!どこに!!!いい度胸だな。てめえはいつもいつもっ」
「・・・・・・いい度胸なのはあんたの方でしょ」
冷気をまとい眇められた瞳に、土方はビクッと腕を振るわせた。
忘れかけていた今朝の出来事が蘇ると、分が悪くなるのは土方の方になる。
「どうせ今夜も来るんでしょう?毎晩抱かれてきたあんたの淫乱な体が、一日も堪えられるはずなんて無いでしょうからねィ。俺はかまいませんけど・・・・・来たら来たで抱くだけですから」
「っ」
だが沖田はそれ以上何も言わずに土方の手を振り解いた。

「まーたやってんのか。お前らは」

「近藤さん」
沖田はいつもの眠そうな顔で真剣を鞘に収めた。
「自分これから見回り行って来ますねィ」
「おう。ごくろーさん」
沖田は土方のほうは見ずに屯所の玄関の方へ歩いていった。土方は苦々しくその背中を見送る。近藤も同じように見ながら心配そうに呟いた。
「今日はまた、総悟の剣が荒かったな」
「ん?」
「気がつかなかったか?雑念が入ってるように見えたんだが。何かあったのかな」
「・・・・・・・知らねーよ」
土方はタバコを噛んで沖田の背中から視線をそらした。
「あいつも毎日毎日俺の命狙いやがって・・・。そんなに副長になりたいのかね。あのガキ」
「総悟にも思うところがあるんだろう。遅まきの反抗期とでも言えばかわいいもんじゃねーか」
「それで済ませてたら俺は命がいくつあっても足りねーんだがな、近藤さん」
「ちゃんと避けてるんだからいいじゃないか」
豪快に言う近藤に土方は諦め気味のため息をつく。
それでもいつもより苦々しく顔をゆがめるのは今朝の件があるせいだ。

あれはなんの冗談だ。自分が沖田に毎晩抱かれていた?

沖田の言う事に嘘が無いか必死になって考えてみたが、どれもこれも肯定する材料にはなっても否定する材料にはならない。
「トシ、そういや体の方は大丈夫なのか?」
「へ!?」
ぎょっとする土方に近藤が驚いた。
「・・・・いや、最近疲れ気味だって言ってたろ・・・・?どうしたんだ、おまえ」
「あ、ああ。いや、原因がわかったから・・・・問題ない」
実際は問題がないどころではないのだが、まさか近藤に言うわけにもいいかない。
「そうか。ちゃんと寝ろよ。やっぱ人間寝て食ってないと体に悪いからな」
「あ・・・・ああ・・・・。そうだな・・・・」
寝てる。自分的には・・・・。
最近は疲れが溜まっているからと早めに寝るようにしていたのだ。それなのに起きたら余計疲れていて不思議に思っていた。
まさかその原因がこんなことだったなんて・・・・。
近藤がいなければがっくり肩を落としたい気分である。
しかし、自分には本気で記憶が無いのだ。自分の部屋と沖田の部屋とは空き部屋を一つはさんだだけの近さである。沖田の言葉ではそこを自分で歩いてやってきて、自分で帰っていたらしい。

「・・・・・・近藤さん・・・。夜意識が無いままふらふら歩いてたりすることって無いよな・・・やっぱ」

「は?何だそりゃ、夢遊病か?」

「夢遊病・・・・・」

聞いた事は会ってもそんなこと本当にあるのかと思っていた病名がでてきて土方は眉をひそめる。
「どうした。誰か隊士達の中に・・・・」
「いやいや、違う。町でな、そういう話を聞いたもんだから・・・・それって、何が原因なんだろうな」
さりげなく聞いたつもりでも、実際はタバコの先が震えている。
だが近藤は気がつかずにうーんと唸った。
「・・・・そういや前に聞いたことあるな。小さな子供が夜中ふらふらと歩き回って困ったって母親の話。生まれたばかりの次男にかかりきりで、それで長男が夢遊病になったんだとか。長男もなんかあまり口に出さない子供でな。夢遊病ってのは潜在的なもので内に溜めるタイプに出やすいんだと。まぁ、ストレスからなんだろうなぁ。両親も驚いて長男ともよく話すように心がけたらしばらくしないうちに収まったらしいぞ」

「・・・・・・・・」

ストレス?自分が?
確かに仕事に対してのストレスはあるだろうが、気になるほどでも無い。むしろやりがいのある仕事だと思っている。
言いたいことは割と言う方だし、暴れたい時は暴れるし、そういった意味でのストレスなど感じた事はない。
となると近藤の話を聞く限りでは自分は夢遊病ではなく別の何かなのだろうか。
しかし、病院に行って調べてもらうのも気分が悪い。

「まぁ、子供に多いって聞くしな。はははは」
「はは・・・・はははは・・・」

人には絶対言えねぇっ。と、心に誓う土方だった。





その日の夜、散々悩んで土方は自分の手と部屋にある平机の脚とを手錠でつないで寝ることにした。鍵は反対側にかけてある自分の制服の中にある。いくら夢遊病とはいえ無意識の行動なのなら机を持ち上げてまでその鍵を取りにいこうとは思うまい。
土方は安心して眠りについた。

そして夢を見た。

自分は子供のようにぼろぼろと泣いていた。布団の上に座ってしゃっくりを繰り返す。声を上げて泣かないのは、声を殺して泣くことを先に覚えたためで。
控えめに襖が空いた音がして、土方は顔を上げた。
「・・・・・どうりで来ないはずでィ・・・・」
「・・・・・そうごっ」
会いたかった人物に会えて、だけどそこに行けなくて舌っ足らずの声がその人物を呼ぶ。そして手錠のかかっていない方の腕を伸ばした。
「そうご・・・・っ」
来て欲しい。ここに。自分からじゃ行けない。
沖田は迷ったように一瞬躊躇したが、自分が何度も自分の名前を呼ぶのに諦めたように中に入ってきてくれた。
ゆっくりとやってくる沖田に指先が触れる。引っ張るようにしてその体に抱きついた。
「おれ・・・いけなく・・て・・・・ひっく・・・・そうご・・・・そうごぉ」
「そりゃ、これじゃ無理でしょうねィ・・・・・。自分でしたんでしょ」
「してない・・・・・おれ・・・してない・・・・」
土方は何度も首を横に振る。邪魔な拘束具をはずそうと腕を振るが、かちゃかちゃ音がなるだけでそれは外れなかった。土方はそれにまたぼろぼろと涙をこぼす。

なんでこれは自分を邪魔するんだろう。
誰がこんな事をしたんだろう。それがわからなかった。

沖田はそんな土方を悲しそうに見た。
「・・・・・本当・・・なんですねィ・・・・・。やっぱり、あんた何も覚えてねーんだ・・・・」
「・・・・そうご・・・・?」
「・・・・・・・・・」
沖田は土方を両腕できつく抱きしめる。土方はうっとりと夢心地でされるがままにその体にもたれる。
それでもそれ以上何もしないので、不思議に思いながら沖田の頬を鼻先でくすぐる。
「・・・・・」
沖田がそれに気がついて顔を上げる。土方の目には確かな情欲があって、沖田はそれがわかったようだったが苦笑して首を横に振る。
「・・・・・・なんで?」

そうごは もう じぶんのことが きらいになったのだろうか。

とても悲しくて止まった涙がまたこぼれた。それを沖田がぬぐう。
沖田は土方を布団に横にさせてそっと髪を撫でた。
「あんた、本当はセックスとかしたいわけじゃねーんでしょ・・・・?・・・・・・寝なせェ・・・・眠るまでこうしててあげますから」
「・・・・・・・・・・そうご・・・・おれのこと・・・きらいになった?・・・・いかなかったから・・・・?」
「・・・・・・・・・・」
沖田は苦笑して何も言わなかった。
自分は空いた手で沖田の浴衣を握りながら悲しくてまた泣いた。


やっぱり そうごは おれのことが きらいなんだ。






翌朝無事に自分の部屋で目が覚める事ができた土方は、ほっとしながらも一日中頭痛に悩まされる事になった。
「・・・・・・・・・」
次の仕事の書類を見ながら、こめかみ当たりを押さえてため息をつく。薬を飲んでも効かないどころか、午後になってからますますひどくなってくる。
「夢見悪かったせいか・・・?」
自分が泣きながら沖田にすがるだなんてありえない。だがそれ以上に沖田があんな優しい目で自分を見ることがもっとありえない。
沖田とは長い付き合いだ。それなりに仲良くやってきたと思っていた。だが最近では沖田は自分を気に入らないのか命まで狙う始末。仕事中はさすがにわきまえているのか自分の言う事は聞くものの、ちょっと油断すれば襲ってくるのだ。しかも何でか隊内ではここの風物詩と受けとめられているふしがある。近藤でさえ注意はするもののそれ以上は何も言わない。
「・・・・・・・・・・・・」
瞬間に襲ってきた冷気に土方は体をこわばらせた。
「!!!」
いつの間にか顔の横にあった鋭い刃に、ぞくりと体を振るわせた。その拍子に肩に当たった刃が、弾かれたように上げられた。
「・・・・・・何でィ・・・・・」
振り返ると沖田が驚いたように目の前に立っていた。土方は全く気がつかなかった。
「危うく本当に斬るところでしたぜ。あんたらしくもねェ」
「・・・・・・・」
隊服の肩の所がわずかに切れていた。沖田が止めなければ自分は肩から真っ二つになっていただろう。沖田の剣の腕は自分が一番良く知っている。
その事に今更ながら体を振るわせた。もうありえない事の連続にくわえてその原因が目の前にいることで、恐怖が怒りに変わる。
「・・・・・・・・・お前・・・そんなに副長になりたいのか・・・・?それとも俺の事を殺したいほど嫌いなのか?」
「・・・・・・・土方さん?」
「もういい!!!お前なんざ知らん!!!!」
土方は沖田に背を向けて足取りも荒くその場を去った。沖田が引きとめるように自分の名前を呼んだが、もう声だって聞きたくなかった。

好かれたいと思っていたわけじゃない。
隊を動かすのに情などいらない。好き嫌いで動かすわけには行かない。

ただ、驚いただけだ。
殺したいと思うほどに嫌われていたとは思っていなかったから。
それだけじゃない。あの事が原因で沖田は自分を軽蔑している。男に抱かれに行くような淫乱な人間だと。なぜ沖田がこんな自分を抱いていたのかは知らないがそれもまた嫌がらせの一貫なのだろう。

『・・・・・・寝なせェ・・・・眠るまでこうしててあげますから』
夢で見た沖田。もしかしたらあれが自分の願望なのだろうか。優しく髪を撫でられたような錯覚までおこしそうで土方は首を振った。

土方は重くなる足を止めて、片手で顔を覆った。

どうして、こんなに辛いと思うのか。
どうでもいい人間なら土方だってこんなに苦しくならない。

だけど認めるわけにはいかない。

自分が沖田のことをどう思っていたとしても、もうそれは叶うはずの無い想いだ。

ならせめて、もうこれ以上沖田に自分の恥ずかしい姿を見せたくなかった。










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眠り姫=『とーしろーたん』(笑うとこですぜ、お嬢さん方)
とーしろーたんは幼稚園児くらいの気持ちで書いてます。今時の幼稚園児はもっとしっかりしてますが、ほら。夢遊病だし。