連休明けのきのう、えっと驚くニュースが日本列島を駆け抜けた。ポップスの分野で数多くのヒット曲を手掛けた音楽プロデューサーの小室哲哉容疑者が、音楽著作権の譲渡話などをめぐり兵庫県内の投資家から五億円をだまし取ったとして、大阪地検特捜部に詐欺容疑で逮捕された事件である。
ほかに小室容疑者が役員を務めるプロダクション会社の関係者二人も逮捕された。
小室容疑者といえば、若者はもちろん中高年の間でも存在を知る人は多いだろう。一九八四年にバンド「TMネットワーク」でデビューした。九〇年代に音楽プロデューサーとして活躍し、安室奈美恵さんの曲など百万枚以上のCDを売り上げるミリオンセラーを連発した。
プロデュースした歌手やグループは「小室ファミリー」と呼ばれた。手掛けた作品が何度も日本レコード大賞を受賞するなどカリスマ的な人気を誇り、長者番付の常連だった。音楽を志す若者を中心に、多くの人たちに夢やあこがれを与えていただけに逮捕は残念としか言いようがない。
特捜部の調べによると、小室容疑者らは二〇〇六年八月、これまでの作品八百六曲分の著作権について既に音楽出版社などに譲渡していたにもかかわらず、全部の著作権を持っているなどとうそをつき、十億円で売却する契約を投資家と締結。さらに前妻に差し押さえられていた印税の権利について解除する意思がなかったのに、解除代金として投資家から計五億円をだまし取ったとされる。
問題となった音楽著作権は知的財産権の一つだ。作詞、作曲家が作品の使用を許諾・禁止できる権利だが、自ら管理するのは難しいため通常は音楽出版社に譲渡し、代わりに印税を受け取る契約を結ぶ。小室容疑者のケースもこれに該当する。
小室容疑者は一般にはあまり知られていない仕組みを逆手に取り、悪用したのかもしれない。著名な肩書を利用し、相手を信用させた可能性も高い。
小室容疑者は近年、事業の失敗や離婚の慰謝料支払いなどで多額の借金を抱えていたという。事情はどうあれ、一時代を築いた大物音楽家が著作権をめぐる新手の詐欺容疑で逮捕されたことについてファンの失望は深いはずだ。
調べに対し、小室容疑者は容疑を認め「申し開きすることはない。反省し被害者に謝罪したい」と供述しているという。全容解明に向け、捜査に協力するとともに、機会があれば早急にファンにも謝るべきだろう。
中国と台湾の交流窓口機関のトップ会談が台北で行われ、中台間で長年の懸案だった事実上の「三通」(通信、通商、通航の直接開放)が年内にも実現することになった。台湾海峡両岸の人とモノの往来が活発化するようになり、両岸の安定につながると期待したい。
台湾でトップ会談が開かれるのは初めて。中国側は、対台湾交流窓口機関、海峡両岸関係協会の陳雲林会長で、台湾側は、海峡交流基金会の江丙坤理事長である。中国側トップは、一九四九年の中台分断後、台湾を訪れた最高レベルの中国要人だ。
交流が進んだ背景には、今年五月、対中強硬路線だった民主進歩党の陳水扁政権に代わって中台の対立を避ける国民党の馬英九政権が誕生したことがある。六月にはすでに北京でトップ会談が開催されている。
合意は四項目で、週末に限られていた中台直行チャーター便の数を増やして毎日運航するなどだ。週末直行チャーター便は七月に就航したが、軍事上の理由から香港へ迂回(うかい)していた。今後「中台特殊航路」を設けて航空路を短縮する。台北―上海間の所要時間は現在の半分近い約一時間二十分になるという。
ほかに、船舶直航の解禁と双方の港の開放や、郵便の直接配達なども盛り込まれた。経済的メリットは大きい。中台関係者から「中台間の分厚い氷は打ち砕かれ、道がつながった」「ここまで来るのに約六十年を費やした。歴史的な瞬間だ」といった喜びの声が聞かれる。
北京に続く今回の会談で、双方トップが互いに訪問し合う対話の枠組みが確立したが、台湾社会には「台湾人意識」が根強く、対中融和への反発は消えない。関係を深めていく努力を怠らず、交流の実績をあげていくことが何よりも求められよう。
(2008年11月5日掲載)