午前7:00

目覚ましの音なく起きた少年は、ベットから起き制服に手をかける。
場所は浅見ヶ丘高校の男性寮。
本来相部屋だったそこは、“何故か”“偶然”一つ余っていたところを少年が借りているものだ(その際あった出来事はどこにも資料が残っていない)

キュッとネクタイを閉め、髪を整える。
そこまでの行程に10分、いつも通りの動作である。
寮母の佐々木(30歳、独身)が起きて朝食を作り出す時間だ。

少年はもう一度鏡で身なりを正すと、ドアを開け廊下へと出た。


不知火・大河の一日の始まりである。 














COLORS
Code - 1 : 有限の世界へと ^to the limited world^













1.不知火・大河という少年
















12月18日・午後3:20

「失礼する!!」

バンッと大きな音を立てて白髪に赤眼の少年が「生徒会室」と銘うたれた部屋へと入っていく。
ツカツカと歩を進め、窓際に置かれた机に座る少年のところで止まった。
机には「副会長」と書かれたネームプレートがはめ込まれている。

「不知火!なぜ早く高嶺・悠人を退学にさせない!!」

と大声を上げるのは秋月・瞬。
ここ一体を収めている秋月家の一人息子だ。
そして朝倉と呼ばれた少年は、書記に淹れて貰ったのであろうコーヒーを机に置くと、口を開いた。

「退学?なぜそのような事をする必要がある。確かに成績はよくないし、生活態度もよろしくないようだが、他の生徒からの評判は悪くない。そのような対処をする必要性は感じられないな」
「あいつは佳織をたぶらかす存在だ!そんな奴を―――」
「この学園には置けないと?すまないが秋月君。そのような私的な理由で生徒会は動かせない。“開かれた生徒会”がここのキャッチフレーズだからな」

開かれた生徒会の生徒会室に六つも鍵をかけてあるのには疑問を禁じえないが。
更に言うとこの生徒会になってから生徒会への予算が増えていたりする(反論する者もいたが、生徒会室に入室した後、何故か大人しくなっていた)

「どうしても、というなら会長に言え。俺はそもそも副会長だ」

と言われて一番日当たりのいいところに机が置かれた生徒会長の方を向く秋月・瞬。
そこに座っているのは大きな机に不釣合いな小さな体をチマチマと動かし、ツインテールをユラユラとさせながら作業をする我等が生徒会会長「神楽・みなと」。
作業はハンコを押すだけ、他の仕事は副会長が行っているということから、実質的な権力は副会長の不知火・大河が持っている。
なら何故会長になったかというと、まず容姿。
何だかんだ言って大抵の生徒は第一印象で人を判断するものだ。
そしてそれに加え、彼女は非常にさばさばとした性格で物事をはっきりと言う。
そのことが生徒たちにとっていい評価になったようだ。

「五月蝿い黙れ、そして腐れ」
「な、なに!?」
「まあまあ、落ち着け秋月君。今度医者を紹介してやろうか?ニ、三日記憶が飛ぶが、終わった後には十年来の親友のようになれるそうだ」
「…………失礼する!」

そう言うと元来た方向を歩き出し、乱暴にドアを閉めた。
その拍子にカップに入ったコーヒーがこぼれてしまう。

「全く、もう少しオブラートに包め湊君。秋月君は性格はアレだが、彼の家はもっとアレだ。気を付けないと一家離散にもなりかねないぞ?」
「バカに媚びへつらって生きていくよりよっぽどマシ。大体あいつのせいでハンコの位置がずれちゃったじゃない!」

悔しそうに手足をバタバタさせる湊に、微笑みながら大河はコーヒーを淹れ手渡した。

「砂糖」
「きちんと三つ入れてある。安心して飲め」

そしてこぼれたコーヒーをハンカチで拭き取ると、自分の席に座る。
ニコニコしながらお茶請けに手をつける湊を楽しそうに見つめながら、大河はもう一度冷めてしまったコーヒーをすすった。




Ψ    Ψ    Ψ




「ということがあって数時間後。何故このような事になっているのか」

額に手をつけながら思案する。
その後四時きっかりに下校。
そしてコンビニに立ち寄り、久しぶりに宮司に顔見せしようとしたところいきなり光に飲み込まれ……

「携帯も通じないか。ここはどこだ?参ったな」
【ねえねえ】
「まさか副会長の座を狙う者が仕掛けた罠か!?くっ!湊君の至福の顔見たさにこのような事をする輩がいたとは、この不知火・大河、一生の不覚!!」
【ねえってば】
「あの副会長シートは、湊君の愛らしい姿を見るのに最適だったというのに……なんとしてでも帰らなければ」
【話を聞け〜〜!!】
「何だ、さっきから騒がしい。少し黙れ」

そう言って振り向くが、その先には何も無い闇夜が広がるばかり。
再び大河は思案し始める。

「幻聴まで聞こえ出したか。俺の思考を纏めない為の罠だというのか?そこまでするほどの敵が―――」
【いいから下を向け、下を!】
「幻聴のくせに俺に指図するとはいい度胸だ。その度胸を買って、絶対に下は向かん」
【あーもー!お願いします向いてください!!】
「そこまで言うなら仕方がないな。俺も鬼ではないからな」

そう言うと大河は下を向いた。
そこにはつやの無い金色の大剣が置かれている。
思案する事数秒、大河は口を開いた。

「まさかこの剣が喋っているのではないだろうな。いや、俺も焼きが回ったか。このようなことを言い出すとは、やはり湊君のファンによる仕業か」
【トリップってるとこ悪いんだけど、誰か来るよ】
「聞こえない、俺には何も聞こえない」
【いいから私を持って構えんか!!】
「この俺に指図【お願いします〜!!】―――仕方が無いな」

ヤレヤレ、と手を挙げる。
そしてそばにあった身の丈はあろう両刃の大剣を手に取った。
予想以上の重さに多少驚きながらも、それを表情に出さず構える。
剣を通して何かが近付いてくるのを感じ、そちらを向いた。
そして……

[おわ、ホントにエトランジェじゃないの!]
[だから最初からそう言ってるじゃないですか、エレナ姉さん。]

ガサガサと草木を掻き分けて現れたのは、緑と黒の髪をした二人の少女。
どちらかと言えばどちらも西洋よりの顔つきをしている。
しかし大河にとって顔は今どうでもよかった。

(言っている事が分からない。おい珍剣、お前訳せ)
【誰が珍剣か!!】
(珍妙な剣、略して珍剣だ。言葉を解すお前にはお似合いの名だろう。ありがたく思うがいい)
【誰が感謝するか!大体私には永遠神剣第■位・十束とつかって名前があるの!!】

その言葉に大河はホウッと感心したように剣を見る。

(神話に出てくる神剣【十束】か)
【そうよ。どう、少しは見直したでしょ?】
(だがあれはヤマタノオロチの中に入っていた【草薙】とぶつかって欠けたそうだが)
【………通訳するわね】

そう言ってあれこれと話している二人の言葉を大河に伝える。

【ええっと、大人しくついて来い。来るなら命の保障はする。来ないなら―――】
「殺す、か?ずいぶんと強引な勧誘もあったものだな。………しかし、伝えようにも言葉が話せねば」
【訳せても、あっちには伝えられないわよ?】
「失望した」
【何でよ!?】
「それしきも出来んお前に失望した。もう少しできる奴だと思っていたが」
【出会って一時間もしないうちにあんたの私に対する評価って?】
「言葉を解する珍剣、それだけだ」
【…まあいいわ。それより、話したきゃ私と契約しなさい。そうすれば最低限会話は出来るようになる】
「すまないが、宗教の勧誘ならお断りなんだ」
【いいからさっさとし……契約してください!!】
「理解が早くていいな。そうゆう奴は嫌いではない」

はいはい、と溜息をつくと【十束】は大河との契約を完了させた。
体から力がみなぎる感覚。
持っていた剣も、今は軽くさえ感じられる。

【契約完了。これで大丈夫よ】
「つまり、これでこちらの言葉も通じるんだな」

急にこちらの言葉で話し始めたのを警戒したのか、二人のスピリットは大きく後退した。
小柄なショートカットで黒髪の少女は二振りの小太刀に手を掛け、ストレートのロングヘアーの女性は巨大なブーメランを手にする。
それを見た大河は、微笑みながら話しかけた。

「安心しろ、今何かするつもりはない」
「では、交渉しだいでは何かすると?」
「保障はしない」

黒髪の少女に対して大河は言う。
その少女の前に立つようにして、先程エレナと呼ばれていた少女が口を開いた。

「お願いよ、ついて来てくれない?無駄な争いはしないが吉でしょ?」
「そうだな。…だが、断る」

この会話の間に、【十束】から永遠真剣なる物の知識はある程度引き出した。
それを実行すべく、大河は体内のマナをオーラへと転換させる。
金色のオーラが大河を包み、宵闇を照らし出した。
それに対しエレナはシールドハイロゥを展開し、黒髪の少女「フィオナ」はウイングハイロゥを展開する。

【え、投降しないの?】
「何故ついて行く必要が?大体あれが人に物を頼む態度か」
【その台詞、そっくりそのままお返しするわ】
「心外だな。俺はきちんと頼む時は頼むぞ。さあ【十束】、お前の力を持て余すことなく発揮しろ」
【今この瞬間自分の言ってる事が矛盾してる事に何で気が付かないの……】

そう言っている間にも、二人は今にも臨戦態勢に入ってる。
二対一か、厄介な……と思いながらも大河は油断なく【十束】を構えた。
しかし、そこで【十束】が大河へと話しかける。

【あのさ】
「何だ、気が散るから早くしろ」
【私たち神剣がマナが無いと力を発揮できないのは知ってるわよね】
「知識は先程引き出した。それがどうした」
【じゃあ、私の内在マナが今限界ギリギリだってのは?】
「……………」

見る見ると黄金のオーラはしぼんでいく。
いくら展開しようとしても出てこないオーラ、大河は【十束】を見て溜息をつくと、剣を下ろして両手を挙げた。

「投降しよう。それが最良の選択肢だ」




Ψ    Ψ    Ψ




グリーンスピリットのエレナ、ブラックスピリットのフィオナについて行き、大河は巨大な城へ連れてこられていた。

「ここは?」
「イースペリアよ。…て、言っても分からないか」
「生憎異世界は不慣れでね、聞き覚えがないな」

ここに連れてこられる途中、【十束】からある程度の情報は聞き出していた。
主たる情報は、異世界であること、スピリットの存在、そして永遠神剣。
自分と同じようにこの世界に連れてこられたものが後五人はいるらしいということだ。

(参ったな、まさか湊君のファンが此処までするとは)
【まだそのネタ引きずってたんだ……】
(違うのか!?)
【当たり前でしょうが!!】

取り上げられた【十束】が、エレナに背負われたまま叫ぶ。
オーラが展開できないとはいえ、エトランジェと神剣を引き離す事が最善と判断されたからだ。

【取りあえず、恐らく私たちはこのまま謁見の間へ連れて行かれるわ。悪いこと言わないから協力しなさい】
(協力?一体何の)
【行けば、分かるわよ……】





「フィオナ・ブラックスピリット、エレナ・グリーンスピリット。エトランジェ及び高位神剣を捕獲。連行してきました」
「お疲れ様。どう、彼は?」
「一時は抵抗を試みようとしたようですが、マナが足りないらしく直ぐ降伏しました」
「………そう。ありがとうフィオナ、エレナに彼を連れてくるよう」
「了解しました」

そう言うとフィオナは謁見の間を出て、扉の前に待機していた大河とエレナのほうを向く。

「どうぞ」
「はいはい、ついて来てねー」
「安心しろ、俺は逃げも隠れもしない」
「何度となく逃亡しようとした挙句、思いっきり縄で縛られてる人が言う台詞ですか……」

フィオナは溜息をつくと、エレナから【十束】を受け取った。
そしてズルズルとエレナに引きずられ、大河は謁見の間へと入っていく。

「……大変ですね、あれが契約者だなんて」
【……………】

とてもじゃないが言い返せない【十束】だった。







連れてこられた先、そこには黒のドレスに身を纏った一人の女性。
歳は二十代前半だろうか、黒髪に切れ目がちな紫の瞳を輝かせ大河を見る。

「貴方が、エトランジェですか」
「そう言うらしいな。それで、縄で縛り付けてまで連れてくる用事とはなんだ?生憎そちらの趣味はないのだが」
「………エレナ、彼の拘束を」
「いいんですか?」
「構いません、此処まで来て逃げるなどという事もないでしょうしね」

そう言われてエレナはブーメランで縄を切る。
パンパンッと服の汚れを払うと、大河は立ち上がった。

「全く、酷い扱いだ。教育体制の改変を要求する」
「ごめんなさい。それで、大体の事情は?」
「理解している。だが、ここに連れてきた訳は分からないな」

そうですか、と言うと椅子から立ち上がり大河へと近づく。

「私はアズマリア・セイラス・イースペリア。イースペリアの女王です。ここに連れてきた理由、それは今この世界では大きな戦争が始まろうとしているのです」
「俺にこの国のために戦え、と?」
「理解が早くていいですね。それで、答えは」

【十束】の言っていたのはこれか、と思案した後、大河は口を開いた。

「ふざけるな、と言っておこう」




Ψ    Ψ    Ψ




ピクリ、と大河の言葉にアズマリアは反応を示す。

「戦えないと?」
「戦うのは構わない。どうせこう言うのだろう?『ここから逃げても他の国で戦わせられることになる』、と。しかしなアズマリア君。俺は自分を偽ったものと会話をするのがこの上なく嫌いなんだ」

気が付けば周りの重臣たちはざわめき、周囲のスピリットは剣に手を掛けていた。
しかし大河は怯むことなく話を続ける。

「己を偽り、仮面を被る。愚かしいとは思わないか?何故自分をそうまでして抑え込む必要がある。少ない命、自分に素直に生きるほうが楽しめるとは思わないか?」
「私が…そうであると?」
「偽った人間は、偽りの表情で微笑み、偽りの声で喋り、偽りの動作を行う。気が付かないはずがないだろう」

そこまで言うと大河はアズマリアを見た。

「……分ーった分ーった、あたしの負けだ。降参」

溜息をつくとアズマリアはティアラをはずし、床に届きそうなスカートを膝丈で破りだす。
重臣たちは驚いて止めようとするが、アズマリアはそれを一睨みで黙らせた。
そして、腕を組んで喋りだす。

「これでいいだろ?改めて名乗るか。あたしはアズマリア。ここの一番偉い奴だ」
「そうか、俺は不知火・大河。君とは仲良く出来そうだよ」
「てことは?」
「国の王が本音で話すと言ってくれたんだ。こちらもそれ相応の態度で望ませてもらう」

そして、そう言うと大河は身だしなみを整え、片膝をついて彼女を見た。

「要求に従おう、偽りなきイースペリアの女王。俺はこの国の剣となり盾となる」

大河の言葉にアズマリアは驚いて大河を見る。

「いいのか?そんな簡単に決めて」
「なに、どうせどこへ行っても同じなら、馬の合う人間と組むほうがいいと思っただけだ」

そりゃありがたい、と言いながらアズマリアは腕を腰に当てて話し始める。

「ま、言ってもうちは他所と喧嘩するつもりはないし、言うならあんたは護衛みたいなもんだ。それなりに優遇するし、生活の保障も心配要らない」
「それはありがたい。馬小屋のようなところで生活させられたのでは敵わんからな」
「取りあえず、あんたにはそこにいる副隊長のエレナと、さっき一緒にいた参謀のフィオナのいたアマテラス隊の隊長になってもらう」

それを聞いて大河は後ろにいた緑色の綺麗なストレートヘアーの女性、エレナのほうを向く。
ヒラヒラと手を振りながら「よろしくね〜」と笑っているエレナに微笑んで会釈した後、大河は再び前を見た。

「了解した。いい付き合いをしよう、アズマリア君」
「………仮にも女王に君付けはどうかと思うぞ?」

その日、イースペリアに一人のエトランジェが加入。
大いなる戦いの火蓋が切られようとしていた。









<後書き>

始まりました、「COLORS」
色んなキャラクターの書き分けが苦手なおしょうは、この小説、ほとんどオリキャラを出さないつもり。
具体的に言うと四人ぐらい(十分多いという声も
Intruderとは別物です、というのはアズマリアを見たら分かると思います。
ていうか誰だこのヤンキーは(ぇー

不知火・大河は真夜と大きく違ったキャラ付けにしています。
こういうキャラはクセが多いんで好き嫌いが激しいかとも思いますが、彼は全編通してこんな感じなので(汗

Intruder主体でいくんで更新は遅れ気味になりますが、生暖かい目で見守っててください。
お暇があったら感想もお願いします(`・ω・´)

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