
ゆうちょ銀行は、2009年1月5日より全銀ネットへ接続し、一般銀行との振込サービスを開始する。これに伴い、口座保有者に対して口座番号の配布が郵送で開始されているのだが、(聞いていた話のとおり)酷い仕様で落胆してしまった
そもそも、わが国の内国送金サービスである全銀ネットの仕組みは、諸外国と比べて異様なシステムを取っている。金融機関コードと、口座番号がある点は同じなのだが、これらに加えて口座を開設した支店番号がキーになっている。つまり、
金融機関コード(4桁)-支店番号(3桁)-口座番号(7桁)
例)みずほ銀行新潟支店 新潟県災害対策本部の場合
001-400-1822115
という仕組みになっている。基本的に、個人が銀行に口座をあまり持たず、引越しなどもないから取引支店を変更することもなかった古い時代の名残である
これに対し、旧郵政省時代の郵便貯金口座の仕組みは非常にシンプルで、5桁の記号と最大8桁(これより短い桁数もある)の番号の組み合わせで、基本的に支店という考え方がない。かつて、郵貯の口座は各県に設置された郵便貯金事務センターごとに管理するシステムで、銀行でいう勘定系システムも貯金事務センターか、複数の貯金事務センターを統括するシステムによって管理されていた
#現在は、郵貯の貯金事務センターは統合され、システム自体も東西にシステムセンターが置かれ、東日本と西日本の貯金事務センターを総括し、相互バックアップシステムが構築されている
ところが、郵貯が民営化され、全銀との接続が決定されると、桁数の少ない全銀フォーマットに支店と言う概念がない郵貯の口座番号をあわせる必要がでてきた。全銀システムとの接続前にも、便宜的にABCDE-12345678という郵貯の口座番号をBCD-2345678という全銀風の口座番号に置き換える処理は行われていたが、「支店名」と言う概念を解決するにはこの方法が使えないため、新たに全銀風の口座番号を、全銀ネットとの接続に限って振りなおす必要が出てきた
今回通知が開始された口座番号は、既存の口座番号のうち、最大8桁の「番号」だけを流用し、記号部分は新たに番号を振りなおしたものになっている。例えば、日本赤十字社新潟県支部の口座番号でいくと
郵貯口座番号
記号00510-5-番号26
全銀ネット用口座番号
銀行コード9900-支店番号059-口座番号0000026
口座種別当座預金
支店名〇五九店
という番号になる。
番号が最大8桁なのに、この口座の場合は2桁しかないが、郵貯の古い口座やこの口座のような郵便振替口座の場合には、番号が8桁に満たない場合には郵貯フォーマットでは省略が可能である。全銀フォーマットの場合にも店頭で振替養子を使った場合には、右詰で省略可能な場合があるが、基本的には右詰で番号がないところは0で埋める必要がある。郵貯の全銀口座番号も、これに倣って埋める形式で7桁化している
一方で、支店番号は記号とは全く関係ない数字が振られている。郵貯の記号番号の2桁目が0の場合は郵便振替口座、1の場合には、通常貯金がそれにあたる。おそらく、8桁の番号を7桁の口座番号に押し込めるため、足りない口座番号を支店番号に押し込めるための苦肉の策なのだろう。(
変換規準が公開されている)
酷いなあと思うのは、支店名。数百もある支店に、いちいち、ジャズ支店だの、いちご支店だの、イモロック支店だのと、地名など固有名詞に関係ない支店名をいちいち振るのは不可能に近いのはわからなくもないが、支店番号がそのまま支店名になるとは思わなかった。しかも、0は半角0でなく大文字〇で、読みはレイではなくゼロというのが意味不明である。基本的に、ATMやネットバンキングなどでは、支店番号ではなく支店名を選択するのが普通だと思うが、数字のような支店名だと、押し間違いや勘違いで誤振込みが大量に発生する危険が生じる
しかも、単純に既存の口座番号とは相互に互換性のない番号で、振り込むには対照表が必要になるような採番方法なので、誤振込みだけでなく、大量の口座振替依頼を行う企業や行政機関にとって、民間金融機関を経由した郵貯への全銀振込みには、システムの改修など負担が大きく、当分の間は使用される可能性が低いと言えるだろう
今のうち予言しておくが、来年1月5日の全銀システム接続開始は、何らかのシステムトラブルや、誤振込みなどの混乱が確実に発生するだろう。郵貯のシステムは、これもまた非常に素直なシステムで、業務系システムが銀行で言う勘定系システムを担い、業務系システムが相互接続する一種のクラスタ構成になっている。一般的な銀行の基幹系システムから見れば、「情報系システムがない勘定系システム」と言いかえることもできるが(郵貯の情報系システムは非常に貧弱でお世辞にも誉められたものではない)、1台のメインフレームで勘定系処理を一本化しているような地銀の前時代的なシステムに比べると、過去のしがらみがない分非常にシンプルな構造になっている
しかし、全銀ネットとの接続一つとってみても、従来対外接続系システムが存在しなかった郵貯の機関系システムに、そのまま対外系システムを追加して全銀との接続を行うことはできない。そこで、旧大和銀行の勘定系システムNEWTON(りそな銀行は旧あさひ銀行のCAPを採用したために廃棄)をベースに既存システムとの接続を行い、段階的に旧UFJ銀行が開発した勘定系システムに移行する予定である
段階的には、現在の記号-番号方式の郵貯フォーマットは廃止されるのだろうが、全銀との接続のために、既存システムを残しながら、一旦仮想的な口座にデータを流し込み、それを既存システムに変換すると言う複雑な方式は、過度に複雑なシステムである。過渡的なシステムとはいえ、大きな混乱が予想されるだろう