麻生太郎首相は先月30日の記者会見で、追加経済対策の目玉である給付金方式で実施することにした定額減税について、「全世帯について実施します。規模は2兆円。単純に計算すると4人家族で約6万円になるはず」とはっきり語った。
減税ではない給付金に落ち着いたのは、お金やクーポンで全世帯に配るわかりやすさに加え、年度内実施のため、所得の正確な把握など煩雑な事務手続きが省けるからだ。早期に国民に甘いアメを配る手立てとして考えたということだ。首相が公式の記者会見で表明した以上、国民は必要な予算措置や法案が通れば来年3月までに給付金が受け取れると思ったに違いない。
ところが、この給付金の基本的枠組みは詰まってはいなかった。麻生首相の会見の翌日に開かれた経済財政諮問会議では、高額所得者まで給付対象にすることに異論が出された。これを受ける形で、与謝野馨経済財政担当相は、「(年収)1000万円を挟んでいくらかではないか」と、具体的線引きに言及した。中川昭一財務・金融担当相は全世帯が対象と応酬した。
定額減税の実施を福田康夫前政権時代から強く求めてきた連立与党の公明党は年度内実施にこだわると同時に、低所得者への増額などを模索している。
では、麻生首相の本音はどうなのか。
4日になり、所得制限論を肯定した。記者会見時は「具体策がないので、全世帯と言わなきゃだめだった」と言い訳した。与謝野経済財政担当相は自己申告方式を提起した。
これでは麻生首相の記者会見は信用できないということになる。
年度内に定額減税の実施を強く求めてきたのは公明党だった。当初、自民党内では消極論が強く、8月末の緊急総合対策決定時には、規模や方法を決めることができなかった。追加対策を「生活対策」と名付けた段階で、国民受けする施策として前面に打ち出すことが必要になった。
それならば、政府・与党内で給付金にした経緯、その基本的な仕組みの合意を形成した上で、対策に乗せるのが筋だ。甘いアメを配るための詰めも甘かったということだ。
こういった、生煮えの政策提起はこれだけではない。給付金などの財源に財政投融資特別会計の金利変動準備金を振り向けることで、国債の償還や消却に支障が出ることに対して、何らの対策も示されていない。麻生首相が提起した社会保障財源確保のための消費税率引き上げも、財政全体を見据えたものではない。
財政の基礎的収支(プライマリーバランス)黒字化だけを目的化する必要はないが、財政悪化を放置することはできない。理念なき経済政策の結末であり、容認できることではない。
毎日新聞 2008年11月5日 東京朝刊