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涙のマーケティング

2008年11月5日

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 スタジアムに「とんぼ」の旋律が鳴り響く。スタンドを埋め尽くした人たちの視線は、グラウンドの一人の大男に集まる。涙でぐしょぐしょの顔にできるかぎりの笑顔を作り、清原和博選手はファンに別れを告げた。

 近頃、男の涙を見る機会が多い。それも、男らしい人物が涙を見せる。情報化時代の中で、成功すれば、持ち上げられる。一方で、失敗すれば、容赦なくたたかれる。周囲の期待の中、本音を封じ込め、プレッシャーと闘い続け、すべてが終わった瞬間、男の胸には込み上げるものがあるのだろう。見る側の男たちも感情を隠さない男の素直な気持ちに思わず涙する。「男たるもの、親が死んでも涙は流すな」と教えられてきた世代にとっては理解し難い時代であろう。

 ある調査によると、自分自身に「自信があるほうだ」という男性(20〜69歳)は、この10年で7ポイント近く下がっている。また、「自分の将来に明るいイメージを抱いている」男性も7ポイント下がった。男たちの涙の背景には、長引いた不況以降、信じてきたものを打ち砕かれ、ストレスで押しつぶされた痛みからいまだ立ち直れない状況があるからだという見方がある。だから、人の苦労や痛みを自分に重ね合わせ、思わず涙するという。

 そんな大人たちに向けて、涙のマーケティングが盛んだ。映画「武士の一分」は、現代サラリーマン社会に通ずる下級武士の悲哀を描き、多くの人が涙し、話題になった。好調の大河ドラマ「篤姫」も、時代の流れにあらがうこともできぬ若い夫婦の宿命が見る者の涙を誘う。若い世代向けの笑いのマーケティングの向こう側で、大人に向けて涙のマーケティングが続く。(深呼吸)

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