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社説

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社会保障改革―首相の肉づけを聞きたい

 福田前首相の肝いりで始まった社会保障国民会議が、最終報告をまとめた。年金、医療、介護と少子化対策の充実・強化のため、2015年には消費税に換算して少なくとも3〜4%、25年には6%分の増税が必要になる。そういった内容だ。

 麻生首相は、取りまとめを指示した税制改革の中期プログラムにこれを反映させる意向という。社会保障の財源問題に正面から取り組む姿勢を示すことで、いずれにせよやって来る総選挙で民主党との違いを際立たせようと考えているのかも知れない。

 社会保障は少子高齢化が進む日本にとって最大のテーマである。総選挙で争点にするのは大歓迎だ。

 ただしそのためには、中期プログラムの内容を充実させてもらいたい。首相は就任以来、社会保障のあるべき姿について「中福祉・中負担」と標語を言うのみだ。これでは、国民は判断の下しようがない。

 まず、増税と引き換えに、国民の受ける医療や介護のサービスはどう変わるのか。社会保障改革の具体的な姿と、どうやってそれを実現するのかという工程表を示すことが、負担増を考えるうえでの出発点になる。

 また、国民会議の報告にそって社会保障制度を立て直すというのなら、毎年の予算編成で社会保障費の伸びを機械的に2200億円削る政策を今後も続けるのかやめるのかも、態度をはっきりさせてもらいたい。

 基礎年金の財源についても、首相は「全額税方式がいいと今でも思っている」と述べている。ならば必要な増税は消費税3〜4%分では済まない。その点をどうするのか。

 さらに、首相が見直すと宣言した後期高齢者医療制度は、国民会議ではまったく議論がされていない。ここへ税金をもっと投入するというなら、財源は報告よりさらに膨らむ。

 これら積み残しの課題についても、首相は考えをはっきり示してほしい。そのうえで社会保障全体を見渡して、限られた財源をどこにどう使うのか。その優先順位を定めることが、財源論を進めるのには欠かせない。

 福田前首相は当初、民主党にもこの国民会議への参加を呼びかけ、与野党の垣根を越えた議論の場にしようと狙っていた。だが参院では野党が多数を占め、民主党が政権選択の総選挙を求めているなかでは無理だった。

 やはり、各党が社会保障政策をマニフェストに掲げて総選挙を戦うことが先決だろう。政権選択に国民の判断が示されれば、その結果がどうであれ、与野党の間に話し合いの機運が生まれてくるのではないか。

 国の基本を左右する社会保障制度の改革は、与野党間での大枠の合意をもとに進められるのが望ましい。

地域再生―まずは肩寄せ合い自立を

 高齢化と過疎化で町や村はますます住みづらくなり、人口減に拍車がかかるばかり。そんな状況になんとか歯止めをかけようという「定住自立圏構想」が来年度から具体化する。

 小さな町や村、あるいは市でも、自前であらゆる行政サービスを提供するのは難しい。それなら人口5万人以上の市を「中心」にして周辺の市町村と協定を結んでひとつの圏域とし、その内で役割分担しようという構想だ。

 まず18の圏域で来年度から先行的に取り組む。役割分担の中身は自治体側のアイデアに任せ、総務省が財政面や権限の移譲などで支援する。

 中心市に都市機能を集約し、周辺の住民が共同利用することで生活の利便性を高めていく。それによって大都市圏へのこれ以上の人口流出を食い止めようというわけだ。

 この構想を提唱した総務省の研究会は、限界集落をはじめ地方で進行する疲弊の深刻さを強調し、「もはや、すべての市町村にフルセットの生活機能を整備することは困難だ」と認めた。横並びから役割の分担し合いへ、発想の転換が必要だと求めた。

 総務省の公募に応じた30以上の自治体の中から実施が決まったのは、例えばこんなプランだ。

 長野県飯田市などでは、中心市の病院に総合病院の機能を集約し、圏域内の町村には診療所を整備して医師を派遣したり、総合病院には圏域内の住民のための病床を確保したりする医療連携に取り組む。周辺のお年寄りらが中心市に通院や買い物に行きやすいよう、バス路線を整備する。

 岡山県備前市と兵庫県赤穂市のように県境をまたぐ圏域もあり、生活実態に合わせることを優先しているという。滋賀県彦根市では、地域の農産品などを使う学校給食センターを中心市につくり、圏域内の学校に提供するという計画もある。

 いずれも今、町村に残っている住民の安心や暮らしを考えたものだ。

 だが、人口流出を食い止め、さらには逆転させる最大の手だては何といっても雇用、働き場の確保だ。中心市の多くは人口5万〜10万人だが、その規模で新たな雇用を生み出すにはよほど知恵を絞らねば苦しいだろう。

 この構想の限界ではあるけれど、かといって手をこまぬいていれば地域はさらに衰えてしまう。まずは踏みとどまるための足場をつくることの意味は小さくない。合併しなかった小さな町村も地方分権の権限移譲の受け皿になれるという効用もある。

 人口減に財政難、医師や介護の担い手不足など、地方の厳しい現状は一朝一夕に解決できるものではない。分権改革と同時に、自治体の側もそれにあわせて工夫し、変身する。地域の再生はそれなしに進まない。

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