◎トキの分散飼育 石川への里帰り実現に期待
環境省が来年度概算要求にトキの分散飼育に向けた事業費を盛り込み、飼育地決定が秒
読み段階に入ってきた。石川県は本州最後のトキの生息地であり、トキの繁殖技術は他候補地より優れている。石川への「里帰り」をぜひとも実現させたい。
分散飼育は、鳥インフルエンザの世界的な流行で、佐渡トキ保護センター(新潟県)一
カ所にトキを集中しておくのは危険という考えからスタートした。昨年十二月、多摩動物園(東京)に初めて繁殖ペア二組が送られ、既にヒナが誕生している。
鳥インフルエンザの流行からトキを守るためには、飼育場は最低もう一カ所必要であり
、それも新潟や東京からある程度離れた場所に設けることが望ましい。いしかわ動物園のライバルは長岡市と出雲市とされるが、いずれも動物園がなく、飼育施設も飼育員もいない。三カ所目の飼育地は、いしかわ動物園以外にないはずだ。
いしかわ動物園は四年前にトキの分散飼育の候補地に名乗りを上げ、トキの近縁種であ
るクロトキやシロトキの人工繁殖、ホオアカトキの自然繁殖などに成功するなど地道に繁殖技術を磨いてきた。
なかでもワシントン条約付属書Tで絶滅危惧(きぐ)種に指定されているホオアカトキ
は、神経質で繁殖が難しいとされているだけに、自然繁殖の成功は、大きな自信につながったといえよう。
鳥インフルエンザ対策のマニュアルづくりや繁殖、飼育ゲージの設計・整備、専任飼育
員の育成などについて、ぬかりなく準備を進めたい。トキの受け入れが実現すれば、いしかわ動物園の知名度は一挙に高まるだろうが、当面は「非公開」になることも理解しておきたい。
一九七〇年に穴水町で捕獲された能登半島最後のトキ「能里(のり)」が佐渡のトキ保
護センターに送られたが、二度と古里に帰ることはなかった。県民にとって、トキは特別な鳥である。石川県が失った宝が戻ってくるという精神的な意味は大きい。
谷本正憲知事はきょう環境省を訪れ、分散飼育地の指定を要望する。トキに寄せる私た
ちの強い思いをしっかりと伝えてほしい。
◎住宅の「安全網」整備 広げたい官民協働の手法
民間のマンションやアパートを公営住宅として自治体が借りやすくするため、国土交通
省は自治体に対する補助を来年度から増額する方針を決めた。石川県内では穴水町が能登半島地震の被災者用に、民間事業者が建設する共同住宅を町が借り上げて賃貸することにし、先ごろ事業に着手したばかりである。公営住宅政策に民間の活力を取り入れ、いわば官民協働で住宅のセーフティーネット(安全網)を確保するこうした手法は、自治体の財政が厳しい折、もっと積極的に試みられてよいだろう。
低所得者や災害の被災者、高齢者らの住まいを確保するための賃貸住宅供給促進法(住
宅セーフティーネット法)が昨年成立し、いわゆる住宅困窮者に賃貸住宅を適切に提供する国、自治体の責務が明記された。しかし、格差拡大に伴う低所得者の増加もあって、入居待ちを示す公営住宅の応募倍率は二〇〇六年度で全国平均九・六倍という高さである。
といって大方の自治体は財政難にある。富山県では全国に先駆けて県住宅供給公社の来
年三月解散が決定するなど、官の住宅事業は縮小が大きな流れになっており、公営住宅の建設にはおのずと限度がある。その一方で、廃止される雇用促進住宅の入居者対策が各自治体の課題に浮上している。こうした状況から、住宅政策で官と民がうまく役割分担する必要性が一段と高まっている。民間住宅を借り上げての公営賃貸は役割分担の一つであり、国の補助が増えれば普及に弾みがつくだろう。
老朽公営住宅の改築でも、民間の力を活用したい。公営住宅を民間企業が建て替え、そ
れを自治体が一定期間借り上げた後に取得する場合、国から建設助成金が一部支給されるが、この助成をさらに手厚くすることも考えられる。また加賀市は先ごろ、県宅地建物取引業協会支部と、民間賃貸住宅の情報提供に関する協定を締結した。市営住宅が満杯で新たな供給も難しいため、空室が多い民間賃貸住宅の情報提供に市が協力し、利用を促す狙いである。こうした形の官民協働もあってよい。