桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙(4)-事故原因と被ばく影響の究明は永遠のテーマ-
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私は、前々回の手紙で、運転時のチェルノブイリ4号機とそれ以外のRBMKの炉物理的相違点を吟味してみましたが、どのような原子炉でも、何をしても安全が保証されるわけではなく、チェルノブイリ4号機の場合、規則だけで、制御棒がすべて炉心上端まで引き抜ける機構であったことは、不適切な設計であって、マニュアルで定めたり、オペレータに注意を喚起しただけでなく、工学的に引き抜けないようにロックする安全対策が不可欠であって、そうしていなかったのは、ポジティブスクラム特性と共に、技術欠陥と位置づけられると思います。1991年に刊行されたソ連政府事故再調査報告書「シテインベルグ報告書」には、確かに、AZ-5を押す前には、著しい異状はなかったと記されており、初期の政府事故調査委員会報告書とは、正反対の記載内容になっており、改めて、真の事故原因と破壊のメカニズムを吟味する上で、大変有用な資料です。炉物理特性の検討をしたKarpan(私のセミナーに参加していただいた時にいただいた資料「キエフ・チェルノブイリ旅行(2008.5.23-6.1)メモ」のp.13に彼の写真が掲載されており、確認しましたが、誠実な人のように受け止めました)のロシア語の著書の一部をいただきましたが、これから、じっくり、解読してみようと思っております。私は、圧力管がいつ破損したか等まで詳細に解明しようと思いませんが、誰しもできないでしょうが、印加された反応度から、実際の破壊規模を定量的に説明できるか否かを吟味してみたいと思っております。日本の原子力界は、スリーマイル島2号機の炉心溶融事故やチェルノブイリ4号機の反応度事故は、歴史に刻まれた過去の事故と位置づけておりますが、特に、後者は、過去の出来事ではなく、真の事故原因と詳細な破壊のメカニズムさえ解明されておらず、さらに、被ばくの影響は、現在進行形であって、決して、過去の出来事と位置づけられるほど軽い事故ではありません。先生は、何度も現地を訪れ、事故の真実を解明しようとしておりますが、そのような研究姿勢に心より敬意を表し、そのような研究は、他のいかなる研究論文に優る内容であると位置づけたいと思います。チェルノブイリ4号機の反応度事故については、まだ、真実の半分も解明されていないのでしょう。すべてはこれからです。
桜井淳