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社説

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若者と大麻―興味本位の代償の大きさ

 きっと初めは興味本位だったのだろう。不良っぽく見えてスリルがある。そんな気持ちもあったかもしれない。

 だが、許されることではない。

 大麻を売買したなどとして慶応大生が逮捕された。大学によると04年以降、ほかに5人の学生が逮捕され、退学などの処分を受けていたという。

 大麻の所持や譲渡は、法律で規制されている。今回の学生も知らなかったはずはない。それなのに、よりによって大学のキャンパス内で売買していたというのだから、あまりにも思慮に欠ける。

 このところ大麻に手を出す若者が目立っている。つい最近も、同志社大の4年生が大麻草を自宅に隠し持っていたとして起訴された。

 今年は関西大や法政大の学生らも逮捕された。いずれも大学構内の広場や図書館が、売り渡しや吸引の場だったとみられる。仲間と顔を合わせやすい上、警察の目も及びにくいとの思いがあったのだろうか。昨年には関東学院大ラグビー部員が寮で大麻草を育てていたという事件もあった。

 芸能界やスポーツ界の大麻にからんだスキャンダルも相変わらず目につくが、すそ野は確実に広がっている。

 昨年、全国で大麻に関係して3282件が検挙された。過去最多だ。ほかの薬物と比べて若い世代に広がっているのが特徴で、検挙されたうち7割近くを未成年と20歳代の若者が占めた。大学生ばかりでなく高校生も28人、中学生まで1人いたというから驚く。

 背景にあるのはネット社会だ。

 たとえば大麻の種子を手にいれようと思ったら、ネット経由で販売業者から購入できてしまう。栽培のマニュアル本も出回っている。素人が大麻に近づきやすくなっているのだ。そして一人が手を染めると、まわりに一気に拡散しやすい。

 大麻取締法では所持や栽培は規制されているのに、使用についての規定がない。そんな事情に加え、大麻が違法とされていない国もあるせいか、そもそも罪の意識に乏しい若者も多い。

 今回の慶応大生もそんな若者の1人だったのかもしれない。しかし、待っていたのは逮捕という重い現実だ。

 自分の人生の歯車に狂いが生じるだけではない。もし友人を誘っていたとすれば、その罪は深い。大学も謝罪会見を開いて頭を下げるはめになった。法律を守らなかった代償は、はかりしれないほど大きい。

 さらに心配なのは、大麻がほかの不正な薬物への入り口になるケースがあることだ。たとえば大麻の売人から、依存性の強い覚せい剤などを勧められることもある。そこで手を出してしまったら、取り返しがつかない。

 大麻の先に、そんな落とし穴が待ち受けていることも忘れてほしくない。

保険証取り上げ―払えぬ人に適切な減免を

 保険証1枚で誰もが安心して医療を受けられる「国民皆保険の国」はどこへ行ったのか、と言いたくなる。

 市町村の国民健康保険で、世帯主が保険料を1年を超えて滞納しているために保険証を取り上げられた世帯が全国で33万あり、その世帯には子ども(中学生以下)が3万3千人いる、と厚生労働省が公表した。

 保険証がないと、かかった医療費の全額をいったん病院の窓口で払わなければならない。原則7割の保険給付分はあとで戻ってくるが、滞納が1年半を超えていると、保険料にあてられて戻ってこない場合もある。

 なかには年収が1千万円以上もあるのに滞納している人もいる。「病気にならないから払いたくない」といったわがままを許せば、国民皆保険は成り立たない。「払えるのに払わない人」には厳しい措置が必要だ。

 問題は「払いたくても払えない人」がいることだ。

 本来は、病気やけがで仕事ができない、収入が激減した、といった特別の事情があれば、保険証は取り上げないことになっている。だが自治体によって、事情についての相談をていねいにしている所としていない所がある。

 今回の調査でも、滞納世帯のうち保険証を取り上げられた世帯が2割を超す自治体があれば、1%未満の所もあり、ばらつきが目立つ。滞納者と接触しようと電話連絡や訪問をしている自治体は約7割にとどまり、休日もそれをしている所は2割台しかない。

 調査を受けて厚労省は、子どもが病気で、かつ医療費の支払いが難しいと申し出があった場合は、短期間の保険証を出すよう都道府県に通知した。一方、民主党は、18歳未満の子どもからは保険証を取り上げないようにする法律改正を準備している。

 だが、保険証がなくて困るのは、お年寄りや他の家族も同じだ。保険料を払えない世帯には支払いを減免する制度をきちんと機能させることが、本質的な解決策ではなかろうか。

 そのため、市町村は滞納者と必ず面談し、払えない特別な事情があるか、保険料を減免すべきかを確認しなければならない。これには人手がいる。公共料金の徴収部門や福祉担当の部署と相談・判定を一本化するなど、作業の効率化に努める必要がある。

 また、本当に払えないのかどうか判定に迷うケースが実際は多いだろう。合理的で説得力のある判定方法を工夫していくことも大切だ。

 国民健康保険には、保険料を負担しにくい非正規労働者や失業者が増えた。それによって、払える人の保険料が上昇してサラリーマンの健保より国保の方が負担感が重くなり、「払わない人」を増やす要因にもなっている。この点の改善も今後の検討課題だ。

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