
双日の前身である日商岩井は、ベトナムが市場開放政策を採択する3ヶ月前の1986年9月、西側企業として初めてベトナムに駐在員事務所を設立。以来、対ベトナムビジネスで総合商社随一の実績を誇ってきた。一方、ニチメンは2002年、100%出資の現地法人ニチメンケミカルタンクサービス社を設立。4基のタンクを建設し、液体化学品の物流・販売の歴史を刻み始めていた。
タンクを満たすことになる化学品を生産・供給していたのは奇しくも日商岩井。ニチメンと日商岩井の合併により、製造から物流・販売に至るバリューチェーンが構築されたことになる。2006年11月、社名を双日ケミカルディストリビューションサービス(SCDS)社と変更。タンクも8基に増設された。
その8ヶ月後、本社にいた入社4年目の向井陽平にベトナム赴任の命が下る。
「入社以来いつ駐在に行けるかと待ちかねていましたから、驚くというより、やっと辞令が来たという思い。嬉しかったですね」
向井は単身ベトナムに飛んだ。
経済活動の発展に伴い、化学品の需要は伸びていく。塗料や接着剤、インクなどの原料として液体化学品は欠かせない。家具、食品パッケージをはじめ様々な用途があり、その需要の伸びはGDPの伸びの2倍に達するといわれている。タンクの増設は、そうしたベトナム経済のさらなる成長を見越した、大いなる挑戦でもあった。
とはいえ、SCDS社は設立以来双日の100%子会社でありながら日本人マネージャーは非常勤体制。向井は初めての常駐マネージャーとなる。
「甘い仕事ではない。課せられた使命がいくつもありました。しかしチャレンジングな仕事に就きたく双日に入った。プレッシャーより期待感の方が勝っていたと思います」
ベトナムの首都ホーチミン市で、若き常駐マネージャー向井陽平の果敢な挑戦が始まったのである。
ベトナムの経済発展を見越してのタンク増設ではあったが、その量に見合う新規客先の開拓が向井に与えられたミッションの一つだった。首都から離れたローカルへの販路も求められたが、ベトナムは南北に長い国。客先に向かう多くの場合、飛行機に頼らざるを得ない。
「東京での輸出業務しか経験がなかったため、ベトナム人ばかりでなく、中国・台湾人、韓国人などを相手に、細かい交渉ごとに決めていくのは、非常にハードルの高い仕事でした。結局は人間対人間のやりとりがカギになる。いい勉強をさせてもらったと思います」
おぼつかなかった交渉も次第に慣れ、向井は客先をそれまでの60社から86社に増やしていった。
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