今年の犯罪被害者白書は策定から3年が経過した犯罪被害者等基本計画の施策が、おおむね順調に推移していると報告している。
確かに犯罪被害者等給付金の支給対象を広げ、支給額を引き上げたことなどは、被害者らの経済的支援を手厚いものにした。せめて自賠責保険並みに増額すべきだと主張してきただけに、支給格差が是正されたのは一歩前進と評価したい。
身体的、精神的に打撃を受けた被害者らに経済面でも苦痛を味わわせるのは酷で、今後も施策の充実を図らねばならない。その点、司法解剖後の遺体搬送費用に公費を支出するのは、遅きに失したが妥当な改革だ。遺族に負担させていた従前は、無神経の極みとのそしりも受けたからだ。
課題の一つは、被害者らの相談を受け付ける自治体の窓口の整備、充実だ。すでに都道府県の約6割が窓口を設置しているが、市区町村は2割弱にすぎない。白書が「最も身近な市区町村では理解・認識が十分でなく取り組みが低調」と指摘するのはもっともで、早急な対応が必要だ。
施策に掲げられていないが、変死体の検視体制の強化も喫緊の課題だ。他殺を病死や事故死と誤判していたのでは、被害者は浮かばれない。全体の約1割しか解剖されていない現状はお寒い限りだ。解剖医の育成などが不可欠だが、長期的な対策として取り組むべきではないか。
重要なのは、被害者の痛みを共有する姿勢と、被害を社会で救済する必要性への理解だ。最近は通り魔型の犯罪が増えており、昨年は殺人で検挙された993件のうち134件で加害者と被害者に面識がなかった。顔見知りによる犯行で、被害者側にも落ち度が認められる事件が少なくなかった一昔前とは事情が違う。自分が被害に遭ってもおかしくない、といった考え方も時には求められよう。
白書が紹介する大阪・池田小事件で小学2年の女児を失った遺族の手記も示唆に富む。この遺族は、大阪府警が飛散した血痕のDNAから女児の行動を解明したため、女児が最後まで懸命に生きようとしていたことを知り、自分たちの人生に新たな意味を見いだす契機になった、と記している。鑑識活動を徹底しただけで遺族の気持ちを癒やせたというばかりでなく、遺族の個別の期待に応える施策が大切だと言えるだろう。
今年12月には、被害者らが加害者の刑事裁判に参加できる制度や、刑事裁判で民事上の損害賠償を請求できる制度もスタートする。が、被害者参加制度にはかえって精神的に打撃を受ける、と反対を唱える被害者団体もある。権利を一律に保障すべきは当然だが、運用に際しては個別の事情を酌み、可能な限り被害者側の希望に沿って、きめ細かく展開されねばならない。
毎日新聞 2008年11月4日 東京朝刊