産科医療が危機的状態にあることを痛感する結果だ。全国の一般病院や大学病院に勤める産婦人科医が、診療や待機などで拘束されている時間(在院時間)は月平均で三百時間を超えていることが、日本産科婦人科学会の行った初の勤務実態調査で分かった。
一般に勤務実態調査では、労働時間が指標とされるが、当直や待機の時間は算入されていないため、勤務実態に即していないとの指摘があった。今回の調査は勤務医の労働実感に近いといえるのではないか。
調査によると、最も拘束時間が長いのは、多くが一般病院でアルバイトもこなす大学病院の勤務医で、月平均三百四十一時間在院していた。三十代前半の医師は最高五百五時間だった。
一般病院では、当直体制のある病院で平均三百一時間。当直のない病院は平均二百五十九時間だったが、お産があると必ず呼び出される「病院外での待機時間」も含めると平均三百五十時間にもなった。四十代後半の医師は、待機も含め最高七百六時間在院していた。学会では「過酷な勤務の一端が数値で示された」として、厚生労働省に報告した。
東京都立墨東病院などで受け入れを断られた妊婦が死亡した問題で、産科医不足の深刻さがあらためて浮き彫りになった。訴訟リスクの高さも医師不足に拍車を掛けている原因だが、こんな労働環境では医師を希望する若い人が増えないのも当然である。
病院の産科医が疲れ果てて辞め、残された医師はさらに忙しくなり辞めていく悪循環に陥っている。交代勤務制や新しい勤務シフトを導入することで当直回数を減らすなどの対策がまずは求められるだろう。
その上で多忙な医師を支えるため、開業医や助産師らによる支援が必要だ。岡山大病院では開業医が妊婦を健診し、病院設備を使って出産を行っている。助産師が正常出産を担当し、リスクが高いケースは産科医が受け持つ試みも、負担軽減策として有効だ。病院と助産院が連携したり、病院内に助産師外来を設けるなどの方法がある。
産科の割合が高い女性医師の支援も欠かせない。院内保育所の整備など女性に働きやすい環境整備が重要だ。出産や子育てで現場を離れていた女性医師の復職のためには女性医師バンクを充実させ、再研修などの対策も必要だろう。
過酷な勤務は産科医だけの問題ではない。小児科や救急医などでも医師不足が深刻となっている。国は医師の労働環境の改善に力を入れねばならない。