来春卒業予定の医学生らの臨床研修先を決める「マッチング」の結果が公表されたが、鳥取県内の研修病院を選ぶ学生はことしも定員を大幅に割り込んだ。全国的にも新人医師が地方病院を敬遠する傾向は改善されず、勤務医不足は深刻化。研修医争奪戦が激しさを増している。
 
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内視鏡手術のトレーニング器具を操る中学生ら。人材確保に向け試行錯誤が続く=ことし8月、米子市西町の鳥大病院
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 ことし三月、インテックス大阪(大阪市)。民間企業が主催した医学生向けの合同セミナーには、研修医を一人でも多く確保しようと全国から約二百の病院が参加し、学生千人が集まった。二〇〇四年に研修が必修となってから、同様の説明会は各地で開かれている。
地方を敬遠
 鳥取県と県内の研修指定七病院も共同出展したが、訪れたのは十人ほど。有名病院のブースに行列ができたのに比べると寂しい限りだが、県医療政策課の都田和彦副主幹は「アピールしなければ鳥取に関心がある学生も来なくなる」と訴える。
 〇九年のマッチングでは県内七病院で計六十七人の募集に対し、応募は二十九人。過半数割れは〇六年から続く。この影響は勤務医の高齢化という形でも表面化している。
 研修医のマッチングは「超売り手市場」だ。毎年医学部を卒業するのは約八千人にすぎないのに、定員は全国で約一万千人超。新人医師が自由に研修先を選べるため、山陰など地方からの新人医師流出が止まらない。
 そこで鳥大病院や県は、研修プログラムの充実や地元出身者への働き掛けを強めるなどして人材確保に躍起だ。
 大学病院の研修は「専門的な症例が多く、一般的な病気を診る機会が少ない」と敬遠されがち。鳥大病院は地元病院と一年ずつの「たすき掛け」研修を導入した。関西の病院との連携も模索中だ。また米韓両国での海外研修も組み込んだ。小川敏英・卒後臨床研修センター長は「一度は山陰の外に出たいという人材を吸収したい」と意図を説明する。
進む「青田買い」
 県内出身者や医学生を県内にとどめようという取り組みは早期化が進む。県は「サマーセミナー」を昨年から実施。県外進学者が夏休みに県内医療機関を見学したり、往診に同行する試みで、ことしは約五十人が参加した。「研修先を決める参考になった」と期待できそうな反応もあったという。
 鳥大病院は、夏休みに小中学生を対象とした外科手術体験セミナーを開催。実際に手術室を開放する例は全国的にも珍しく、ことしは広島市からの参加もあった。
 県は地元出身者を対象とした鳥大医学部の地域枠や、医学生向けの奨学金制度を設けたが、効果が表れるまでまだ時間がかかる。
 国は医学部定員増の方針を打ち出したが、新人医師の「青田買い」ともいえる状況はしばらく続きそうだ。