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2008年10月31日 (金)

最高裁が依拠した行政実例について

News & Lettes128/

本年4月の東洋町・町会議員リコール請求は実際には完全に成立していた。
農業委員がリコール請求代表者に名前を連ねていたから、その関与した署名簿は全部無効だと言うことで、町の選管は法令上何の瑕疵もないこのリコール請求を無効とした。
今裁判で争われていて、12月5日に高知地裁で第一審の判決が出る。
この町選管の無効決定は、昭和29年の最高裁の判例に基づくという話である。

ところで、最高裁の記録によると最高裁のこの判例というのは、直接請求の解職投票に準用される公選法の規定は、住民投票の段階だけではなく資格証明交付申請から始まる「一連の行為」に適用される、したがって公選法で立候補が禁じられている農業委員は請求代表者とはなれない、というものである。これは、昭和29年度の「最高裁判所判例解説民事編」によると、昭和28年1月28日の自治省の出した行政実例によったものと解説されていた。

ところで、
「最高裁判所判例解説民事編昭和29年度82頁」引用されている「昭和28・1・28自丙選発第17号山口選挙管理宛自治省庁選挙部長解答」は、必ずしも、農業委員が請求代表者になっていることによる署名簿の有効無効を判断したものとは解することは出来ないものである。むしろ全くそう言う趣旨のものではなかったというべきである。
そもそも、この行政実例は、請求代表者証明書交付申請の申請時間または受付時間に関する東京都選管の問い合わせ(公選法第270条の選挙関係文書の届け出の受付時間の準用の可否)に対して、その準用を可とするものであるが、

①昭和27年12月のその問答は次の通りである。
「問 地方自治法第85条により、公職選挙法第270条の2・・・が、同条は賛否投票告示以前の請求代表者証明書交付申請の当初から準用されるものであるかどうか。
「答 当初から準用される。」(昭和27、12・13 自丙選発第137号)
というものであった。

結論として請求代表者の資格証明交付の時間を公選法関係の書類の受付時間と同様とするという点では、公選法を準用するで何も問題はないが、この回答については、明らかに回答の範囲を超える可能性のある粗雑なものであった。

②そこで、翌月昭和28年1月、山口県選管が「同件」で疑義を申し出た。
「問 地方自治法第85条は解散の投票、解職の投票に限利公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用されるという法意で回答の如く「当初から準用される」事はないと思われるが御教示願いたい。」と。

この当然の質問に対し、自治省選挙部長は、
  答「地方自治法第85条にいう解散の投票及び解職の投票とは、請求代表者証明書交付の手続きに始まる一連の手続きをいうものと解せられる。」
(昭和28、1・28自丙選発第17号)
と回答した。自治省選挙部長は前回と同じく極めて粗雑な回答を繰り返した。
ここでいう「一連の手続き」とは何か明らかにしてはいないが、「一連の手続き」とは、あ
くまでも「手続き」であって、必要書類の届け出その他直接請求にかかる選管が取り扱う事務上の手続きのことであって、これが、請求代表者の資格や署名収集等解職請求の活動全体を指して言っていないことは容易に推察される。

③そこで、この問答の数年後、福岡県選管からいくつかの質問が出された。そのうち中心的な問いは以下のとおりであった。
すなわち、
「問一 地方自治法の規定による解散又は解職の請求における賛成又は反対の運動は解散又は解職の投票運動と、その前提である署名の収集を成立させ又は成立させない運動とに判然と区別されるべきものであり同法85条で準用される公職選挙法第13章の選挙運動に関する規制は、投票運動についてのみ適用するものと解してよいか。」
「問四 公職選挙法第135条から137条の3の規定により、投票運動を禁止又は制限される公務員等は、他の法令で規制される場合を除き、署名の収集又は署名の収集反対運動を行うことは可能であると解してよいか。」
          (昭和32、11・18自丙管発90号)

これらに対して昭和32年自治省選挙局長の見解では、いずれも「お見込みのとおり」という明快な回答があったものである。
ここにおいて、①②で「一連の手続き」が何を意味するのか、我々の推定(選管の事務取扱上の手続きにすぎない)が正しいことが判明するであろう。

③の昭和32年の選挙局長の見解では、
第1に、地方自治法85条の規定による解散又は解職の請求における賛成又は反対の運動は、解散又は解職の投票運動、その前提である署名の収集を成立させ又は成立させない運動とに「判然と区別」されるべきものであり、同法85条で準用される公職選挙法13章の選挙運動に関する規制は、「投票運動についてのみ」適用するものとはっきり説明されている。

第2に、また、公職選挙法で運動に制限のある公務員は、「署名の収集又は署名の収集反対運動を行うこと」は可能であること、が闡明されている。
以上の通り、最高裁や他の裁判が依拠したとされる行政実例(昭和28、1・28自丙選発第17号)は、自治省当局といくつかの県選管との一連の応答の一部であり、それは、届け出や申請書の受付時間など事務手続き上の範囲の話であるのに、それが拡大曲解されて「一連の手続き」(行政実例)を「一連の行為」すなわち請求代表者の資格やその活動全体の話にまで付会されて解釈されたことは明らかである。

昭和29年段階で最高裁判事達の判断のために用意された材料は、②だけであったが、判事達は事案の裏付けとなる法令とその趣旨、自治省の行政実例の限界をよく分別せず、受付時間などの些末な手続き上の質問に対する回答を飛躍翻転し、国民の参政権を侵害する野蛮な判断をでっち上げたのである。
それは、法の定める「成規の手続き」を経て提出された本件東洋町議員解職請求の署名簿の有効無効には何の関係もないものである。

本年12月5日の判決が、我々東洋町住民が日本国民への権利擁護のための第二の大きな貢献の日となるよう祈る。

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