リンゴ開発20年水の泡 苗木流出不安広がる 青森県
<怒りで声震わす> 「言葉に表せないほど残念だ」。登録取り消しを公表した10月24日の記者会見で、三村申吾知事は怒りで声を震わせた。無理もない。登録が取り消された新品種は、名称を変えても再登録できないだけでなく、開発に20年という年月が費やされていたからだ。 2種の開発のスタートとなった交配は1980年代前半。県りんご試験場(黒石市)が異なる品種の交配で実った果実から種を採り、農地での育成と果実の選抜を繰り返した。新品種は「数万個の実から選ばれた一個」(県りんご果樹課)という労苦の結晶だ。 ミスの原因は、農林水産部の調査では明確にならず、10月30日、総務部による特別監察の実施が決まるなど異例の事態となったが、生産・流通の現場にはむしろ、2種の先行きに対する不安が広がっている。 「あおり21は長年の悲願だった超晩生種。試食した感じも良かった」と話すのは、流通業者が加盟する県りんご商業協同組合連合会の中村輝夫会長。「夏場の主力商品として期待していた」と残念がる。 <逆輸入の恐れも> 2種の登録取り消しで、苗木の取引に法的拘束力はなくなった。既に県から県内八業者に配布されている苗木は今月から農家らに販売できるようになり、仮に県外に売っても違法ではない。 生産者で組織し、苗木の販売業者でもある県りんご協会の福士春男会長は「流出を完全に止めるのは難しい」とみる。特に心配するのは海外に持ち出され、大量に生産されるケース。「日本に輸入され、脅威になる可能性もある」と話す。 実際、2005年には、山形県が品種登録したサクランボ「紅秀峰」が、無断でオーストラリアで栽培され、県が業者を告訴する騒ぎもあった。 青森県は、長年かけて開発した2種を今後も活用する方針で、現在、県外流出を防ごうと、苗木業者との協定締結の準備を進めている。ただ、農家同士で苗木をやりとりする可能性もあり、実効性には疑問符が付く。 県は2種の商標登録も検討している。親しみやすく、インパクトのあるネーミングで、2種を青森の独自ブランドとして売り出す考えだ。 2種が市場に出回るのは、苗木が成長する3年後とみられる。「気候と、栽培や貯蔵の技術では青森に強みがある」と中村会長。たとえ同じリンゴが市場で競合することになっても、消費者に選ばれるよう、強みをさらに伸ばし、販売戦略を工夫することが重要だ。 <あおり21> 84年に交配。11月が収穫期の晩生種で、長期の貯蔵でも品質が低下しにくい。青森県の生産量の過半数を占める「ふじ」の後継種として期待される。 <あおり27> 交配は83年。10月後半が収穫期。すりおろすなどして果肉が空気に触れても変色しにくく、ジュースなどの加工用に適している。
2008年11月02日日曜日
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