2004年08月15日
今、なぜ特定郵便局が問題なのかから見る田中角栄論
「全国の郵便局を選挙部隊にとりまとめよ。」
農村部から都市部までどの都道府県にも設置されている郵便局。郵便配達員は地域社会に密着している。気軽に声をかけることができ、隅々にまで入り込んでいくことが出来る立場にあった。目の付け所はたしかに優れていた。こうして破竹の快進撃を続けるべく角栄によって全国の特定郵便局が自民党選挙基盤として組織化され確立したのである。緻密な計算と怒濤の破壊力。彼が「コンピューター付きブルドーザー」といわれた所以である。
そもそもこの特定郵便局、沿革を辿ってみて驚いた。何と明治時代にまで遡る。明治政府が地域の有力者らに土地や建物を提供させてこれに郵便の業務を委託したのが始まりである。当時はもちろん、こうした方法が有効だったのであろう。近代化するずっと以前の話であるのだから。この明治時代に採用された方法が今なお基本的な骨格を変えずに脈々と残っているというのはいささか異常な事態である。
特定郵便局のおよそ60%は職員5人以内の小規模局である。2003年12月末現在、1万8937局。局長は国家公務員であったが今は公社になり変わった。局長ポストはその多くが世襲となっている。つい先日までは国家公務員であるというのに世襲であるとは全く驚くべき事である。
郵便局には三種類ある。普通郵便局、特定郵便局、簡易郵便局となっている。本局と呼ばれる大きな郵便局が普通郵便局でありおよそ全国に1300局。全郵便局のたった20分の1に過ぎない。残りのほとんどが特定郵便局である。2000年度末で18916局。街の郵便局の圧倒的大多数はこの範疇に属する郵便局である。
ちなみに、この二つの範疇以外の郵便局が、簡易郵便局である。業務委託形式の郵便局であり、働いている人々はかつても公務員ではない。全国で4500。経費的に考えると特定郵便局より格段に優れた方法である。しかし、全国2万の特定郵便局を、この簡易郵便局に置き換えようとする政策は検討すらされない。特定郵便局ポストが利権であるからである。
普通郵便局と、特定郵便局の違いは何かというとこれが極めて曖昧でわかりにくい。特定郵便局をずばり言い切るならば、局長が「特定郵便局長」という肩書を持った郵政公社の職員として切り盛りしている郵便局ということになる。同語反復(トートロジー)であり、答えになっていないが、これ以上いいようがないのである。ここに特定郵便局というものが巨大な利権として、集票マシーンとして大々的に機能してきた秘密があるわけである。
いくつかポイントを記してみると、
1.郵便局の土地、建物は郵便局長の所有物であり、国が局長に家賃を払う。自宅が郵便局の場合であっても家賃支払はそのまま行われる。
2.局長は給料とともに公務員に準ずる待遇が保証。
3.公務員としての定年があるが、妻や子などに世襲制的にその地位が継承される特権がある。
4.渡切費(わたしきりひ)が支給される。これは給料とは別で年数百万円の経費として支給されるもの。不正流用が絶えない。
5.どんなに業務の成績が悪くても、郵政業務なので公務員に準じており収入が減らない。局の業務成績が悪いと局長会などで気まずいという程度。
今日日、就職難を極めて不況真っ只中。特定郵便局長になりたいという希望者はぞろぞろいるだろう。が、これまでに局長公募という話はない。そのための定期的な国家試験があるわけでもない。特定郵便局長になるためには、厳密にいえばそのための任用試験を通らなければならないが、その試験情報が一般に知らされることがない。一部の関係者のみが知りうる立場にある。いいかえれば、慣習的にみて有資格者と見なされる人(局長の妻や子どもなどの後継者、旧郵政省OB)などだけが実質的に知ることができるという仕組みが利権の囲い込みを可能ならしめているわけである。
この仕組まれた利権の監督官庁こそが、もちろん、旧郵政省=総務省である。「自民党郵政族」が巨大な政治力を保持してきた理由はここにある。こうした族議員群のトップに君臨してきた男こそ、「郵政のドン」、野中広務である。野中は公安調査庁らともつながり後藤田正晴と並ぶ屈指の情報通であり、また、被差別部落出身ということからその人脈をフル活用し土建業で公共事業配分にて力を発揮した(京都市営地下鉄など)が、やはり何といっても郵政族としてのパワーがものをいっていた。選挙に直結するからである。
なぜ、選挙に強いか。特定郵便局長は圧倒的に自民党支持者である。社民、共産などということはありえない。特定郵便局長は元公務員であり、公の選挙運動は不可能だ。しかし、このおよそ2万人の局長が軸となり、その家族、関係者等が少なくとも数十万票規模の集票マシーンとして機能しているわけである。1980年の参議院選挙では、元郵政事務次官の天下り候補が103万票という驚異的な集票を達成し、「全特百万票」が伝説になった。
小泉純一郎が熱を上げる郵政民営化が、自民党の中にあっていかに強烈な抵抗を受けてきた改革かわかる。公社職員=お役所公務員であるがために表面化しない郵政三事業の闇の部分が、民営化と共に噴出するからである。非効率と高コストが言われながら特定郵便局数は旧郵政官僚OBなどの受け皿として増え続けてきた。それらは、数十mしか離れていない隣どうしに作られてもつぶれることはない。郵便局とはつまり、お役所そのものだからである。
前々回の参院選で一般的にはほとんど無名の郵政OBだった高祖憲治衆議院議員(後に大量の選挙違反を受けて辞職)が、初出馬で大量得票を確保した理由は特定郵便局システムをなくして考えられない。元々、「選挙違反は勲章」と言われる業界の体質。恩赦で軽く免除されてしまう前科。名簿の順位は個人名の得票数で決まるという新選挙制度に対する危機感が近畿だけでも軽く2桁の郵便関係者が逮捕されたという異常事態を招いた。
今回は特定郵便局のみをコラムにしてみたが、事ほど左様に田中角栄が作り上げた日本政治の歪んだ仕組みは驚くほど多い。列島改造=公共事業ばらまきの土建国家化、財政悪化=赤字国債の乱発、年金給付引き上げ=高福祉によるナショナルミニマム、議員数の増大=議員定数不均衡・一票の格差の拡大、最高裁事務総局コントロール=司法府の弱体化、著しい環境破壊などなど。目も当てられない「角さん政治」の屍が累々と横たわる。つまり、今の日本の腐敗政治の原型=プロトタイプが田中派、田中型政治にあるといってよい。それを継承してきたのが、竹下登、小渕恵三、野中広務、橋本龍太郎と連なる系譜に繋がってきた。小沢一郎も元は竹下派七奉行といわれた亜流に過ぎない。
今更、郵政民営化の流れが変わるとは自民党、公社、役所も含めてだれも思っていない。郵政族の夕暮れの時期が訪れている。今後、十分な力と能力がある、クロネコヤマトら民間企業が本格的に参入できるように参入規制を緩和することが重要になってくる。たかが葉書一枚に50円、定形郵便に80円もかかるという異常な高値の郵便料金もどんどん利用しやすいものとなってくるだろう。
写真は明治時代の飛騨河合郵便局。当時の服装は外勤は明治時代からの名残りで半天を着ている人と最新の詰襟服を着ている人とがいる。
内勤は黒の事務服を着ている。足元はまちまちである。ゴム短靴にゲートルを巻いている人。股引きに藁草履を履いている人など。帽子だけはお揃いで統一されている。帽子の白カバーはサマーシーズンにつけていた。この白いカバーなど今復活したらレトロの雰囲気いっぱいでかなり良いと思うのだが。
内勤は黒の事務服を着ている。足元はまちまちである。ゴム短靴にゲートルを巻いている人。股引きに藁草履を履いている人など。帽子だけはお揃いで統一されている。帽子の白カバーはサマーシーズンにつけていた。この白いカバーなど今復活したらレトロの雰囲気いっぱいでかなり良いと思うのだが。