2008年10月26日

◆ Gmail と超超整理法

 野口悠紀雄が Gmail を推進している。特に、著作の「超超整理法」で。だが、「おお、すばらしい」と信用するべきではない。

 ──

 Gmail については、前項でも言及した。そこでは、「野口式よりももっとうまい方法がある」と示した。
 ただ、よく調べてみると、野口式というのは、著作の“ 超「超」整理法”で提唱されている方法だ。それは、単に Gmail を使うだけでなくて、他の方法も提唱されている。特に Gmail をストレージサービスのように使う方法だ。

 ただ、彼の提唱する方法は、どれもこれも、あまり大したことがない。そこで、個別に論じよう。


 【 前口上 】

 以下では、各論を述べる。ただ、書いたあとで気になったことがあったので、注釈しておこう。
 本項は別に、野口悠紀雄の悪口を言うことが目的ではない。また、彼の著作の売上げを妨害することが目的でもない。買いたければ買ってもいいだろう。実際、私は彼の著作をたくさん買った。(とはいえ、それに従うからではなく、反面教師のつもりで。)

 本項の目的は、「偉い大学教授が推奨したからといって、それをそのまま鵜呑みにするな」と読者に警告することだ。大衆はやたらと肩書きというものを信用しがちで、「偉い大学教授が推奨したから、それに従おう」と思う人が多すぎる。そのせいで、大失敗しがちだ。
( ※ その典型は、野口悠紀雄が大きく推奨した「金融工学」だ。彼の言葉を真に受けて、金融工学をやらかした金融機関は、莫大な損失をこうむったはずだ。また、そのとばっちりで、日本全体は今やとんでもない経済状況にある。野口悠紀雄は今では知らぬ顔の半兵衛だが。)

 野口悠紀雄が超超整理法で推奨していることは、そのほとんどが、誰でも知っているような常識的なことだ。そして、たいていの人は、「こんなの、たいして便利でないな」と感じて、捨て去っているはずだ。
 しかしながら、野口悠紀雄が「私は便利だったから、あなたにも便利です」と推奨すると、人々は「あれ? 自分が間違っていたのかな?」と思い直して、いったん「不便だ」と感じたものを、改めて使い出すことになりそうだ。 
 そんなことはしなくていいのである。試すだけなら、試してもいいだろう。しかし、そのあとは、自分自身の価値観で決めるべきだ。「野口悠紀雄が勧めたから」というような利用で採用するべきではない。
 要するに、他人は他人、自分は自分。── それが、本項で言いたいことだ。やたらと「他人の真似をして能率アップ」などと思わない方がいい。たしかに、野口悠紀雄の方法を採用して、能率アップできる人もいる。しかし、かえって能率ダウンをする人もいる。人それぞれなのだ。
 「あれを真似すればたちまち能率アップ」などという「うまい話」には、引っかからない方がいい。他人の話を鵜呑みするよりは、自分の頭で考えよう。── それが本項の趣旨だ。
( ※ この趣旨のもとで、以下、各論を示す。)





 (1) 基本

 まず、基本としてあげられるのは、彼固有の事情だ。それは、「複数の仕事場で複数のマシンを使う」ということだ。
 この場合には、確かに、マシンに依存しない環境を構築することが大事だし、通信によって統一環境を整備することが必要だ。すると、Google のサービスを利用して、場所に依存しない作業環境を整備することができるだろう。
 たとえば、地方のホテルに出張するときも、いちいちマシンを持ち運ばなくても、地方のホテルでマシンを借りて、Google にアクセスするだけで、自分のデータを操作できる。データがもともとテキストファイルなら、メーラーを使って加工することもできる。こうして、「日本のどこにいても、原稿書きができる」という便利さを獲得できる。
 しかし、それは、彼のような特殊な事情にある人に限られる。つまり、「常にあちこちに出張し続けていて、しかも、自分のノートパソコンを使わない」という人だ。
 当然、次のような人は、別である。
  ・ せいぜい一つか二つの仕事場。
  ・ または、自分のノートパソコンを使う。
   (携行可能な仕事場が一つあり、それを移動させる。)


 だから、たいていの人は、野口式は不要だ。自分の机上パソコンまたはノートパソコンを使えばいい。あるいは、会社のシン・クライアントで USBを差し込んで使えばいい。(ただし USB には、操作環境だけを入れる。)
 以上の方が普通だろう。

 (2) メール管理

 メールについては、前項で述べたとおり。Gmail を使うよりは、有料のメールを使う方がいいだろう。Gmail はバックアップにするだけでいい。そこでたまに検索すればいい。
 野口悠紀雄は「分類するな、検索せよ」と言うが、メールの検索なんて、そんなにしょっちゅうやるもんじゃないと思いますけどね。面倒臭いし。
 通常は、一覧画面を見るか、一覧画面で差出人で整理し直すか、一覧画面でタイトルで整理し直すか、そのいずれかで済む。たまに、スレッドを見る。……これで済むのだから、いちいち検索なんかしていられないですよ。面倒臭い。
 Gmail なんて、レスポンスも遅いんだから、使いたくないですね。イライラする。

 (3) データ管理

 データの管理として、野口悠紀雄は次のことを推奨している。
 「 Gmail を使って、添付ファイルとして、自分宛に送信する」
 まあ、それはそれで可能だが、面倒臭いですねえ。それなら、どこにいても利用できるのは確かだが、自分用のパソコンを使うなら、(有料の)ストレージサービスを使う方が楽だ。
 ストレージサービスなら、いちいち添付する必要がない。また、いちいち該当メールを探す手間もない。通常のコピー・貼り付けふうの操作だけで済む。ファイル操作として行なうので、直感的に自然であり、メールを使うという変な面倒さに巻き込まれないで済む。
( ※ 私が思うに、野口悠紀雄はストレージサービスを使ったことがないのだと想像する。あれは便利なんですけどね。月額数百円をケチって、不便な Gmail を使っているのかな? あんまり知的生産には向いていないですね。)

 ま、ストレージサービスも、けっこう面倒かもしれない。( Gmail よりはマシだが。)
 そこで、私だったら、USB を使う方がいいですね。紛失の危険もあるが、そのためには、ときどきバックアップを取ればいい。最大でも、1日分ぐらいの仕事を失うだけで済む。しかも、その危険度は、非常に少ない。万一の危険を考えて、無駄な手間をかけるよりは、無駄な手間なんかかけない方がいい。
( USBをなくす危険はあるが、そんなことはめったにない。財布をなくすのと同じ程度の危険度。……ちなみに、私はこれまで、財布をなくしたことはいっぺんもありません。)
USB の紛失対策も可能だ。その USB に、「連絡してください。1万円を差し上げます」と書いておけばいい。万一落とすことがあっても、発見されて、すぐに戻ってきます。経済学的な頭は、こういうふうに使うべきだ。  (^^)  )
(なお、データ漏洩が心配かもしれないが、他人の仕事なんか、誰も興味がないから、いちいち心配しなくていい。心配するとしたら、恋人のエッチ画像ぐらいだ。  (^^); )

 (4) パソコン内の検索

 パソコン内の検索として、野口悠紀雄は Google デスクトップ検索を推奨している。
 しかし、いちいち推奨しなくても、たいていの人は知っている。また、どうせなら、「Googleデスクトップ」「Windowsデスクトップサーチ」で比較 した上で、優劣を論じるべきだ。それによると、どうやら、「Googleデスクトップ」よりも、「Windowsデスクトップサーチ」の方が、ちょっといいらしいですよ。( → 比較サイト

 (5) フォルダによる分類

 野口式のキモは、「分類するよりも並べよ・検索せよ」という方針だ。しかし私は、パソコン内では、その方針は取っていません。パソコン内では、ファイルを分類しています。その方がずっと有効なので。
 野口式が有効なのは、時系列の仕事をしている場合に限られる。一方、私みたいに、数カ月前の仕事と現在の仕事がつながっているような場合には、時系列にするわけには行かない。かといって、検索するほど、細かな仕事がたくさんあるわけじゃない。
 私の場合、主要な仕事は、数個のフォルダにまとめることができる。とすれば、フォルダ分類にする方が、ずっと楽である。つまり、それぞれのフォルダにアクセスしてから、フォルダ内で作業するわけだ。一方、これらをすべてひっくるめて、ごちゃ混ぜにしてから、時系列で探したり、検索したりするのは、馬鹿げている。
 比喩で言おう。寿司、フランス料理セット、中華セット、という三つの料理がそれぞれの皿に盛りつけられているとする。だとすれば、それぞれの皿を見てから、適当なものを選べばいい。一方、これらの料理をすべてごちゃ混ぜにして、一つの皿にバラバラにおいてから、時系列や検索で探すとしたら、面倒で仕方ない。

 (6) パソコン内の分類と検索

 野口悠紀雄の「超整理法」は、根本的な間違いを犯している。彼は、
 「分類するな」
 と述べる。だが、パソコンでは、通常、分類なんかもともとしないのだ。

 分類する必要があるとしたら、「他人から得た情報」である。そして、それについては、「分類するな、検索せよ」と言える。
 しかし、「自分の作った情報」ならば、もともと分類する必要がない。最初にフォルダを選んで、フォルダ内で作業している限り、自動的にフォルダ内に保存されるからだ。そのあと、「過去ログ」や「倉庫」や「バックアップ」という名前のフォルダに入れたりしてもいい。
 こういうふうに、一つの仕事は一つのフォルダ内にまとめるのが、最も便利な方法だ。あえて手間をかけて、ごちゃ混ぜにする必要はないのだ。

 (7) ファイルによる分類

 そもそも、「分類するな」という命題自体が、自己矛盾に満ちている。なぜなら、彼は必ず、仕事を分類しているに決まっているからだ。それは「ファイル」による分類である。一つのファイルを用いている限り、そのファイルに内容を分類して書いているはずだ。
 たとえば、雑多なメモならば、「メモ」というファイルに書く。授業の仕事ならば、授業のファイルに書く。そういうふうに、内容をファイルで分類しているはずだ。
 仮に、彼が本当に「時間順」や「検索」に頼っているのだとしたら、時系列のファイルだけを作っているはずだ。次のように。
   2008-10-26_09.txt
   2008-10-26_11.txt

 こういうふうに時系列のファイルをつくって、そのあとで、上書き保存した時点で並べ替えたり、作成日時で並べ替えたり、あるいは、内容で検索したりする。
 しかし、そんなことをやるとしたら、いちいち内容を思い出して検索する必要があり、面倒なこと、この上ない。

 私はどうしているか?
 通常は、エディタを起動して、エディタの履歴からファイルを見つける。たとえば、
   ブログ用の原稿.txw
 というようなファイル名を、エディタのファイル履歴から見つけて、それを呼び出す。
 一方、特定の仕事(や趣味)をするときは、特定フォルダにアクセスして、そこにある数個のファイルのなかから、めざすものを見つける。たとえば、
     電磁波のモデル.txt
 というようなタイトルのファイルを見つけて、それをクリックする。この場合、主要なファイルはフォルダ内に数個しかないから、見つけるのは簡単だ。一瞬で見つかる。(他のファイルはサブフォルダに入っている。)
 一方、サブフォルダに入っている資料ふうのフォルダもひっくるめて、いちいち検索したり、いちいち時間順に並べ直すのでは、見つけるのに手間がかかって仕方ない。
 もしフォルダ分類をしていないと、そういう多数のファイルを全部そっくり検索対象にするわけだ。やってられんわ。(比喩的に言えば、特定サイト内で検索したいときに、ネット全体で検索するようなもの。他人の仕事を調べるときには、それでもいいが、自分の仕事を調べるときには、それでは非効率だ。)

 (8) パレートの法則

 要するに、私のやり方は、「パレートの法則」に従っている。「よく使う2割のもので、頻度の8割を占める」というやつだ。
 私の場合はもっと極端で、「よく使う1割のファイルで、頻度の9割を占める」となるだろう。
 だから、この1割の重要なファイルについては、フォルダ分類で十分。それでいいのだ。いちいち検索なんかしない。探さなくても簡単に見つかるものを、いちいち探す手間はかけない。

 なお、残りの分(あまり使わない9割)については、検索やら時間順やら、あれこれの方法を使う。そして、その発見の仕方は、一通りではない。あまり使わないファイルというのは、見つけ方もそれぞれとなる。(ただ、検索よりは、サブフォルダから見つけることが一番多いと思う。検索は、最後の手段である。たいていは、ヒットするものが多すぎて、何十にも検索するハメになるか、検索語が不適当で、間違ったものが見つかる。うろ覚えだから。   (^^); )

 結論。

 超整理法や超超整理法なんて、たいして役立たない。それが役立つ人もいるだろうが、あくまで野口悠紀雄のような場合だ。つまり、次の場合だ。
  ・ 仕事場を変える
  ・ 時系列の仕事をする
 他方、それ以外の場合には、野口悠紀雄の方法は役立たない。
 結局、各人、自分に適した方法を探り当てればいい。「超超整理法を真似れば、仕事能率が大幅アップ」と思うのは、早計だ。むしろ、たいていの人は、「超超整理法を真似れば仕事能率が大幅ダウン」となるだろう。(少なくとも、私はそうだ。)

  ────────────

 [ 余談 ]
 私は周辺(東大の同窓会:大半が情報系の仕事)で調査をしたことがある。アンケートふうに。「ファイルはどう整理していますか?」と。
 すると、ほぼ全員が超整理法の「時間順」を知っていたが、誰も実行していなかった。誰もが「フォルダ分け」の分類をしていた。ま、そんなものであろう。
 だいたい、フォルダ分けしたって、デスクトップサーチで検索できるのだから、フォルダ分けを禁じる必要はないのだ。野口悠紀雄の「分類するな」というのは、ちょっと自己矛盾に満ちている。



 【 追記 】
 どうせ Gmail を使うのであれば、GMail Drive というソフトの方がよさそうだ。
 これは、Gmail をネットワークドライブのように使うもの。データを ネット上( Google 提供)に保存するという目的は同じだが、いちいち添付ファイルにするのは面倒臭いから、その操作を省略して、Gmail をストレージサービスのようにエミュレートする。
 ユーザーは、ネットワークドライブを操作する感覚で、自動的に Gmail を使う。きわめて楽ちん。
 要するに、無料のストレージサービスだ。
 
 ただし、Google はこれを嫌がって、しきりに妨害する。そのたびに、GMail Drive の側がバージョンアップして、対処する。
( ※ その途中ではどうなるのか? Gmail の添付ファイルを手動で開けば、データを戻せるのかもしれないが。……よくわからない。それまでは、自分のパソコン上にあるデータで我慢するしかないのかも。)
( → 調べたら、こちら に解説がある。)

 ま、いくらかは問題があるようなので、誰にでもお勧めできるというわけではないのだが、同じ目的のためであれば、Gmail よりは、こっちの方がずっと便利だろう。
 ただし、野口悠紀雄は、これを紹介しないようだ。……と書いたのだが、あとで調べると、そうではなかった。著作の第2章でちゃんと紹介していた。
 とすると、本項で述べた評価も、いくらか変わりそうだ。「 Gmail は駄目だが、Gmail Drive ならばいい」という形で、評価し直せるかもしれない。ま、Gmail Drive は、野口悠紀雄にとっては、結構便利そうですね。(私は使わないけど。)

 とはいえ、どうせ使うなら、仕事のためには、有料のストレージドライブの方がいいと思いますよ。数百円をケチる必要があるとは思えないので。
 だから、結論は、
 「 Gmail を利用した GMail Drive を使おう」
 ではなくて、
 「不便な Gmail や、安定しない GMail Drive なんかやめて、まともな有料ストレージサービスを使おう」
 ということでしょう。

 【 注記 】
 ただし、「仕事場が移動する人ならば」という条件が必要だろう。
 この条件を付けないと、すべてが無意味になりそうだ。同じパソコンしか使わないのならば、2台目HDや、フラッシュメモリ・ドライブを使えば、バックアップも済む。検索ならば、デスクトップ・サーチで済む。あえて Gmail や GMail Drive を使う必要はない。
 だから、「仕事場が移動する人ならば」という条件が、あらかじめ前提として必要だろう。
 そして、その女受けのを満たさない人にとっては、「そんなの関係ねえ」となる。おっぱっぴー。



 [ 蛇足 ]
 野口悠紀雄について、2ちゃんねるからの引用。
 (悪口を探すには、ここが便利。  (^^); )

(1)
東大工学部→大蔵省という経歴を持つ経済学者野口悠紀雄氏って
専門家からはどのような評価が与えられているんですか?
素人から見ると、大蔵省キャリア→エール大学博士というだけで
すごいと思ってしまうのですが。

(2)
官僚や銀行からの留学は一般の留学とは完全に別扱いで
単なる経済支援の人質だからね

(3) = (1)
たとえば、フルブライト奨学金取ってエールに留学したなんて
すごい話だと思っていましたが (2) さんが種明かしをしてくれたので、
いまは「ああ、そうなのか」と淡々と受け止めています。

 ──

 ※ フルブライト奨学金を正式に取ったとしても、別に、大したことじゃない。フルブライト奨学金は、官僚を養成するのには役立っているが、学者を養成するのに役立っているとは言えない。独創性というものは、海外留学によって養われるものではないのだ。
 どちらかと言えば、留学ではなくて、米国移住組の方に、優秀な人がたくさんいる。(南部さんや利根川さん)
 日本に戻ってくる人に、ろくなのは残っていないようだ。なぜなら、日本というのは、独創性のある人には、とても住みにくい国だから。
 ま、野口さんも、(米国では業績を上げられなかった)落ちこぼれのうちの一人なのでしょう。彼を批判するよりは、彼に同情する方がいいかもしれない。
posted by 管理人 at 09:56 | Comment(1) | コンピュータ_04
この記事へのコメント
野口教授は自分の推奨する方法を、神の啓示だと思っているのでは?はたまた、「貴方とは違うんです」というアピールでしょうか(笑)
Posted by 麻生次郎 at 2008年10月27日 14:49
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