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Gmail については、前項でも言及した。そこでは、「野口式よりももっとうまい方法がある」と示した。
ただ、よく調べてみると、野口式というのは、著作の“ 超「超」整理法”で提唱されている方法だ。それは、単に Gmail を使うだけでなくて、他の方法も提唱されている。特に Gmail をストレージサービスのように使う方法だ。
ただ、彼の提唱する方法は、どれもこれも、あまり大したことがない。そこで、個別に論じよう。
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(1) 基本
まず、基本としてあげられるのは、彼固有の事情だ。それは、「複数の仕事場で複数のマシンを使う」ということだ。
この場合には、確かに、マシンに依存しない環境を構築することが大事だし、通信によって統一環境を整備することが必要だ。すると、Google のサービスを利用して、場所に依存しない作業環境を整備することができるだろう。
たとえば、地方のホテルに出張するときも、いちいちマシンを持ち運ばなくても、地方のホテルでマシンを借りて、Google にアクセスするだけで、自分のデータを操作できる。データがもともとテキストファイルなら、メーラーを使って加工することもできる。こうして、「日本のどこにいても、原稿書きができる」という便利さを獲得できる。
しかし、それは、彼のような特殊な事情にある人に限られる。つまり、「常にあちこちに出張し続けていて、しかも、自分のノートパソコンを使わない」という人だ。
当然、次のような人は、別である。
・ せいぜい一つか二つの仕事場。
・ または、自分のノートパソコンを使う。
(携行可能な仕事場が一つあり、それを移動させる。)
だから、たいていの人は、野口式は不要だ。自分の机上パソコンまたはノートパソコンを使えばいい。あるいは、会社のシン・クライアントで USBを差し込んで使えばいい。(ただし USB には、操作環境だけを入れる。)
以上の方が普通だろう。
(2) メール管理
メールについては、前項で述べたとおり。Gmail を使うよりは、有料のメールを使う方がいいだろう。Gmail はバックアップにするだけでいい。そこでたまに検索すればいい。
野口悠紀雄は「分類するな、検索せよ」と言うが、メールの検索なんて、そんなにしょっちゅうやるもんじゃないと思いますけどね。面倒臭いし。
通常は、一覧画面を見るか、一覧画面で差出人で整理し直すか、一覧画面でタイトルで整理し直すか、そのいずれかで済む。たまに、スレッドを見る。……これで済むのだから、いちいち検索なんかしていられないですよ。面倒臭い。
Gmail なんて、レスポンスも遅いんだから、使いたくないですね。イライラする。
(3) データ管理
データの管理として、野口悠紀雄は次のことを推奨している。
「 Gmail を使って、添付ファイルとして、自分宛に送信する」
まあ、それはそれで可能だが、面倒臭いですねえ。それなら、どこにいても利用できるのは確かだが、自分用のパソコンを使うなら、(有料の)ストレージサービスを使う方が楽だ。
ストレージサービスなら、いちいち添付する必要がない。また、いちいち該当メールを探す手間もない。通常のコピー・貼り付けふうの操作だけで済む。ファイル操作として行なうので、直感的に自然であり、メールを使うという変な面倒さに巻き込まれないで済む。
( ※ 私が思うに、野口悠紀雄はストレージサービスを使ったことがないのだと想像する。あれは便利なんですけどね。月額数百円をケチって、不便な Gmail を使っているのかな? あんまり知的生産には向いていないですね。)
ま、ストレージサービスも、けっこう面倒かもしれない。( Gmail よりはマシだが。)
そこで、私だったら、USB を使う方がいいですね。紛失の危険もあるが、そのためには、ときどきバックアップを取ればいい。最大でも、1日分ぐらいの仕事を失うだけで済む。しかも、その危険度は、非常に少ない。万一の危険を考えて、無駄な手間をかけるよりは、無駄な手間なんかかけない方がいい。
( USBをなくす危険はあるが、そんなことはめったにない。財布をなくすのと同じ程度の危険度。……ちなみに、私はこれまで、財布をなくしたことはいっぺんもありません。)
( USB の紛失対策も可能だ。その USB に、「連絡してください。1万円を差し上げます」と書いておけばいい。万一落とすことがあっても、発見されて、すぐに戻ってきます。経済学的な頭は、こういうふうに使うべきだ。 (^^) )
(なお、データ漏洩が心配かもしれないが、他人の仕事なんか、誰も興味がないから、いちいち心配しなくていい。心配するとしたら、恋人のエッチ画像ぐらいだ。 (^^); )
(4) パソコン内の検索
パソコン内の検索として、野口悠紀雄は Google デスクトップ検索を推奨している。
しかし、いちいち推奨しなくても、たいていの人は知っている。また、どうせなら、「Googleデスクトップ」「Windowsデスクトップサーチ」で比較 した上で、優劣を論じるべきだ。それによると、どうやら、「Googleデスクトップ」よりも、「Windowsデスクトップサーチ」の方が、ちょっといいらしいですよ。( → 比較サイト )
(5) フォルダによる分類
野口式のキモは、「分類するよりも並べよ・検索せよ」という方針だ。しかし私は、パソコン内では、その方針は取っていません。パソコン内では、ファイルを分類しています。その方がずっと有効なので。
野口式が有効なのは、時系列の仕事をしている場合に限られる。一方、私みたいに、数カ月前の仕事と現在の仕事がつながっているような場合には、時系列にするわけには行かない。かといって、検索するほど、細かな仕事がたくさんあるわけじゃない。
私の場合、主要な仕事は、数個のフォルダにまとめることができる。とすれば、フォルダ分類にする方が、ずっと楽である。つまり、それぞれのフォルダにアクセスしてから、フォルダ内で作業するわけだ。一方、これらをすべてひっくるめて、ごちゃ混ぜにしてから、時系列で探したり、検索したりするのは、馬鹿げている。
比喩で言おう。寿司、フランス料理セット、中華セット、という三つの料理がそれぞれの皿に盛りつけられているとする。だとすれば、それぞれの皿を見てから、適当なものを選べばいい。一方、これらの料理をすべてごちゃ混ぜにして、一つの皿にバラバラにおいてから、時系列や検索で探すとしたら、面倒で仕方ない。
(6) パソコン内の分類と検索
野口悠紀雄の「超整理法」は、根本的な間違いを犯している。彼は、
「分類するな」
と述べる。だが、パソコンでは、通常、分類なんかもともとしないのだ。
分類する必要があるとしたら、「他人から得た情報」である。そして、それについては、「分類するな、検索せよ」と言える。
しかし、「自分の作った情報」ならば、もともと分類する必要がない。最初にフォルダを選んで、フォルダ内で作業している限り、自動的にフォルダ内に保存されるからだ。そのあと、「過去ログ」や「倉庫」や「バックアップ」という名前のフォルダに入れたりしてもいい。
こういうふうに、一つの仕事は一つのフォルダ内にまとめるのが、最も便利な方法だ。あえて手間をかけて、ごちゃ混ぜにする必要はないのだ。
(7) ファイルによる分類
そもそも、「分類するな」という命題自体が、自己矛盾に満ちている。なぜなら、彼は必ず、仕事を分類しているに決まっているからだ。それは「ファイル」による分類である。一つのファイルを用いている限り、そのファイルに内容を分類して書いているはずだ。
たとえば、雑多なメモならば、「メモ」というファイルに書く。授業の仕事ならば、授業のファイルに書く。そういうふうに、内容をファイルで分類しているはずだ。
仮に、彼が本当に「時間順」や「検索」に頼っているのだとしたら、時系列のファイルだけを作っているはずだ。次のように。
2008-10-26_09.txt
2008-10-26_11.txt
こういうふうに時系列のファイルをつくって、そのあとで、上書き保存した時点で並べ替えたり、作成日時で並べ替えたり、あるいは、内容で検索したりする。
しかし、そんなことをやるとしたら、いちいち内容を思い出して検索する必要があり、面倒なこと、この上ない。
私はどうしているか?
通常は、エディタを起動して、エディタの履歴からファイルを見つける。たとえば、
ブログ用の原稿.txw
というようなファイル名を、エディタのファイル履歴から見つけて、それを呼び出す。
一方、特定の仕事(や趣味)をするときは、特定フォルダにアクセスして、そこにある数個のファイルのなかから、めざすものを見つける。たとえば、
電磁波のモデル.txt
というようなタイトルのファイルを見つけて、それをクリックする。この場合、主要なファイルはフォルダ内に数個しかないから、見つけるのは簡単だ。一瞬で見つかる。(他のファイルはサブフォルダに入っている。)
一方、サブフォルダに入っている資料ふうのフォルダもひっくるめて、いちいち検索したり、いちいち時間順に並べ直すのでは、見つけるのに手間がかかって仕方ない。
もしフォルダ分類をしていないと、そういう多数のファイルを全部そっくり検索対象にするわけだ。やってられんわ。(比喩的に言えば、特定サイト内で検索したいときに、ネット全体で検索するようなもの。他人の仕事を調べるときには、それでもいいが、自分の仕事を調べるときには、それでは非効率だ。)
(8) パレートの法則
要するに、私のやり方は、「パレートの法則」に従っている。「よく使う2割のもので、頻度の8割を占める」というやつだ。
私の場合はもっと極端で、「よく使う1割のファイルで、頻度の9割を占める」となるだろう。
だから、この1割の重要なファイルについては、フォルダ分類で十分。それでいいのだ。いちいち検索なんかしない。探さなくても簡単に見つかるものを、いちいち探す手間はかけない。
なお、残りの分(あまり使わない9割)については、検索やら時間順やら、あれこれの方法を使う。そして、その発見の仕方は、一通りではない。あまり使わないファイルというのは、見つけ方もそれぞれとなる。(ただ、検索よりは、サブフォルダから見つけることが一番多いと思う。検索は、最後の手段である。たいていは、ヒットするものが多すぎて、何十にも検索するハメになるか、検索語が不適当で、間違ったものが見つかる。うろ覚えだから。 (^^); )
結論。
超整理法や超超整理法なんて、たいして役立たない。それが役立つ人もいるだろうが、あくまで野口悠紀雄のような場合だ。つまり、次の場合だ。
・ 仕事場を変える
・ 時系列の仕事をする
他方、それ以外の場合には、野口悠紀雄の方法は役立たない。
結局、各人、自分に適した方法を探り当てればいい。「超超整理法を真似れば、仕事能率が大幅アップ」と思うのは、早計だ。むしろ、たいていの人は、「超超整理法を真似れば仕事能率が大幅ダウン」となるだろう。(少なくとも、私はそうだ。)
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[ 余談 ]
私は周辺(東大の同窓会:大半が情報系の仕事)で調査をしたことがある。アンケートふうに。「ファイルはどう整理していますか?」と。
すると、ほぼ全員が超整理法の「時間順」を知っていたが、誰も実行していなかった。誰もが「フォルダ分け」の分類をしていた。ま、そんなものであろう。
だいたい、フォルダ分けしたって、デスクトップサーチで検索できるのだから、フォルダ分けを禁じる必要はないのだ。野口悠紀雄の「分類するな」というのは、ちょっと自己矛盾に満ちている。
【 追記 】
どうせ Gmail を使うのであれば、GMail Drive というソフトの方がよさそうだ。
これは、Gmail をネットワークドライブのように使うもの。データを ネット上( Google 提供)に保存するという目的は同じだが、いちいち添付ファイルにするのは面倒臭いから、その操作を省略して、Gmail をストレージサービスのようにエミュレートする。
ユーザーは、ネットワークドライブを操作する感覚で、自動的に Gmail を使う。きわめて楽ちん。
要するに、無料のストレージサービスだ。
ただし、Google はこれを嫌がって、しきりに妨害する。そのたびに、GMail Drive の側がバージョンアップして、対処する。
( ※ その途中ではどうなるのか? Gmail の添付ファイルを手動で開けば、データを戻せるのかもしれないが。……よくわからない。それまでは、自分のパソコン上にあるデータで我慢するしかないのかも。)
( → 調べたら、こちら に解説がある。)
ま、いくらかは問題があるようなので、誰にでもお勧めできるというわけではないのだが、同じ目的のためであれば、Gmail よりは、こっちの方がずっと便利だろう。
ただし、野口悠紀雄は、これを紹介しないようだ。……と書いたのだが、あとで調べると、そうではなかった。著作の第2章でちゃんと紹介していた。
とすると、本項で述べた評価も、いくらか変わりそうだ。「 Gmail は駄目だが、Gmail Drive ならばいい」という形で、評価し直せるかもしれない。ま、Gmail Drive は、野口悠紀雄にとっては、結構便利そうですね。(私は使わないけど。)
とはいえ、どうせ使うなら、仕事のためには、有料のストレージドライブの方がいいと思いますよ。数百円をケチる必要があるとは思えないので。
だから、結論は、
「 Gmail を利用した GMail Drive を使おう」
ではなくて、
「不便な Gmail や、安定しない GMail Drive なんかやめて、まともな有料ストレージサービスを使おう」
ということでしょう。
【 注記 】
ただし、「仕事場が移動する人ならば」という条件が必要だろう。
この条件を付けないと、すべてが無意味になりそうだ。同じパソコンしか使わないのならば、2台目HDや、フラッシュメモリ・ドライブを使えば、バックアップも済む。検索ならば、デスクトップ・サーチで済む。あえて Gmail や GMail Drive を使う必要はない。
だから、「仕事場が移動する人ならば」という条件が、あらかじめ前提として必要だろう。
そして、その女受けのを満たさない人にとっては、「そんなの関係ねえ」となる。おっぱっぴー。
[ 蛇足 ]
野口悠紀雄について、2ちゃんねるからの引用。
(悪口を探すには、ここが便利。 (^^); )
(1)
東大工学部→大蔵省という経歴を持つ経済学者野口悠紀雄氏って
専門家からはどのような評価が与えられているんですか?
素人から見ると、大蔵省キャリア→エール大学博士というだけで
すごいと思ってしまうのですが。
(2)
官僚や銀行からの留学は一般の留学とは完全に別扱いで
単なる経済支援の人質だからね
(3) = (1)
たとえば、フルブライト奨学金取ってエールに留学したなんて
すごい話だと思っていましたが (2) さんが種明かしをしてくれたので、
いまは「ああ、そうなのか」と淡々と受け止めています。
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※ フルブライト奨学金を正式に取ったとしても、別に、大したことじゃない。フルブライト奨学金は、官僚を養成するのには役立っているが、学者を養成するのに役立っているとは言えない。独創性というものは、海外留学によって養われるものではないのだ。
どちらかと言えば、留学ではなくて、米国移住組の方に、優秀な人がたくさんいる。(南部さんや利根川さん)
日本に戻ってくる人に、ろくなのは残っていないようだ。なぜなら、日本というのは、独創性のある人には、とても住みにくい国だから。
ま、野口さんも、(米国では業績を上げられなかった)落ちこぼれのうちの一人なのでしょう。彼を批判するよりは、彼に同情する方がいいかもしれない。