「11兆円企業」再編呼び水──パナソニック、三洋買収交渉

 
              
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「11兆円企業」再編呼び水──パナソニック、三洋買収交渉

2008/11/02配信
 パナソニック(旧松下電器産業)が三洋電機の買収交渉に乗り出す。「10年後に世界の電機業界で首位になる」(大坪文雄社長)という目標を掲げるパナソニックは、金融危機で世界景気が減速するなか、リスク覚悟で成長路線を加速する。国内電機最大の「売上高11兆円企業」が誕生すれば、新たな再編の呼び水になるのは確実で、業界勢力図が一変する可能性もある。

 激烈な価格競争を背景に電機業界では再編が加速している。昨年末にはパナソニック、キヤノン、日立製作所が薄型パネルで提携。今春には京セラが三洋の携帯電話事業を買収した。ただ、これまでは事業部門ごとのM&A(合併・買収)や提携が主流。売上高1兆円超の電機大手が国内に10社前後もひしめく「過剰企業数」の状態は温存されたままだった。

 今回の買収は従来とは次元が異なる。連結売上高9兆円強のパナソニックが2兆円強の三洋を買収すれば、前例のないスケールの再編になる。初の電機大手同士の組み合わせとなり、大手が1社減るという意味でも画期的だ。成長志向をむきだしにした11兆円企業と戦うには何が必要か。ライバルたちが経営戦略や再編シナリオを練り直すのは必至だ。

 パナソニックが大型買収に踏み出す背景には、金融危機で世界経済が急減速するなか、「今のままでは年率2ケタ成長など夢のまた夢」(パナソニック幹部)との強い危機感がある。

 パナソニックは現在、営業利益率10%、自己資本利益率(ROE)10%という高い経営目標を掲げる。08年3月期の営業利益率は5.7%、ROEは7.4%。国内ではトップクラスだが、ライバルの韓国サムスン電子は営業利益率9%、ROE15%。米ゼネラル・エレクトリック(GE)も同15%、同19%だ。パナソニックが目標を達成してもまだ手が届かない。

 世界で戦うために何が足りないのか。その解が三洋買収だった。

 パナソニックは家電から半導体まで幅広く手掛けるが、急成長する環境エネルギー機器で勝ち抜く道筋はまだ見いだせていない。同分野を制するカギは「発電」と「蓄電(充電)」の技術。同社は「発電」では家庭用燃料電池を手掛けるものの、太陽電池は持っていない。「蓄電」も主力のリチウムイオン電池で世界5位にとどまる。リチウムイオン電池で世界首位、太陽電池で同7位の三洋を取り込めば、弱点を一気に補える。

 パナソニックは今年10月に社名を変更、「家まるごとパナソニック」(大坪社長)を新たなキーワードに据えた。いったん撤退した太陽電池を品ぞろえに加えることは「家まるごと」を追求する上でも悲願といえた。

 三洋の優先株を保有する三井住友銀行、大和証券SMBCグループ、米ゴールドマン・サックスグループの金融3社と、パナソニックがこのタイミングで交渉に入るのは、未曽有の金融危機に背中を押された面もある。

 金融3社は06年に三洋の優先株を計3000億円で取得した。現在の株価で計算すると、この優先株は計6200億円の価値を持ち、今なら「含み益」がある。ただ世界的株安の中で、三洋の株価も下落。5月の年初来高値(297円)から10月31日には145円まで下がった。三洋は08年3月期に4年ぶりに最終黒字転換したが、今下期以降は世界景気減速の影響が避けられない。金融3社が早期に株式を売却したいと思っても無理はない。

 パナソニックも08年4―9月期に過去最高益を記録したものの、大坪社長は「下期は極めて厳しい」とみる。金融危機の逆風下で「09年度に売上高10兆円」という目標を達成するためにも、大型買収に踏み出す腹を固めた。
 ただ今後の交渉にはハードルも少なくない。

 パナソニックは今週にも三洋の資産査定に着手する。三洋の時価総額は2714億円で、有利子負債は5000億円弱(今年3月末時点)。パナソニックは9730億円の手元資金(9月末時点)を持つが、保有株を高く売りたい金融3社と価格で折り合えるかは、今後の交渉次第だ。パナソニックと重複する三洋の白物家電事業や、半導体事業をどう扱うかも焦点になる。

 三洋はパナソニック創業者・松下幸之助氏の義弟にあたる井植歳男氏が設立した。大阪府にある両社の本社は徒歩で15分程度だが、資本や業務でのつながりはなかった。パナソニックの傘下に入ることで「重複事業の合理化が進む」などと不安を持つ従業員もいるといわれる。技術や従業員をどう融合するのか。買収実現後の課題も多い。
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