2008年11月03日 【朝刊】 政治
座談会 県立病院のあり方を考える/民間との機能分担を現場の目で制度設計
二百十六億円の累積赤字を抱え経営が逼迫する県立病院の民営化を検討する「県立病院のあり方検討部会」の審議が今年八月始まった。これまでに三回の会合を終え、具体的な民営化への提案も出ている。全国で公立病院の破産・廃院が後を絶たない状況で、県民の暮らしを守る視点から、県立病院はどうあるべきか。患者や家族、医師、識者を交え「県立病院のあり方」と「県民が望む医療」をテーマに語ってもらった。
座談会出席者
儀間小夜子氏(NPO法人こども医療支援わらびの会理事)
玉城信光氏(那覇西クリニック理事長)
照喜名通氏(NPO法人アンビシャス事務局長)
伊関友伸氏(城西大学経営学部准教授)
親富祖勝己氏(県公務員医師管理職労働組合執行委員長)
司会=山城紀子氏(フリージャーナリスト)
かかわり
機器購入に5年も・玉城氏
本庁が中身知らず・親富祖氏
山城 それぞれの県立病院とのかかわりについて。
儀間 心臓に疾患のある子の親として、一九九六年から「こども病院」の設立運動に携わった。当時、難病の子どもたちは県外で手術や治療をせざるを得なかった。県内で十分な医療を受けることができるよう、設立を求めて県民二十万人の署名を県に提出。二〇〇六年「県立南部医療センター・こども医療センター」が開院した。
玉城 開業して十三年。以前は県立那覇病院で十七年勤務していた。同病院の医局長だったころ三年間黒字経営にした経験がある。現在、県立病院で高額医療機器の買い替えができず治療の中断が問題になっているが、当時から、超音波医療機器を購入するにも五年かかった。県病院管理局(現在は県病院事業局)に必要性を説明しても財政難でなかなか採用されなかった。
照喜名 十一年前に難病の一つであるクローン病を発症した。難病の人々を支援するNPO法人を立ち上げ、働く場所や情報交換の場を提供してきた。二〇〇五年から県の委託で難病相談支援センター事業を実施。現在は「患者力」について勉強している。個人的には県立病院を利用したことがなく、赤字問題は最近報道で知った。
伊関 埼玉県庁で十七年間勤め、最後の三年間に同県立病院を担当した。その後行政評価の専門家として、市の財政破綻で経営が立ちゆかなくなった北海道の夕張市総合病院の再生を手伝った。沖縄では現在、県立病院のあり方検討部会の委員を務めている。
親富祖 県立病院には管理職と一般医師の二つの医師労組がある。県が医師暫定手当を廃止するのをきっかけに、二〇〇〇年に組織。加入者は管理職六十二人、一般医師百八十九人。労組として県とやりとりし、事業局や本庁が病院の中身を知らないと実感している。
赤字問題
大変さ外に見えず・照喜名氏
看護師減り病床減・儀間氏
山城 赤字問題を背景に県立病院の運営形態が見直されようとしている。県立病院の課題は。
儀間 こども医療センターの設立で小児循環器疾患は県内で治療が可能になった。しかし看護師不足で病床数が減り、成人病棟に子どもが入院している。医師や看護師の疲れた顔を見ると心配になる。なぜ看護師が集まらないのか。
玉城 十年前と比較すると診療科によって患者数の増減に大きな違いがある。患者が減った診療科を整理できず赤字になった。民間に任せられる部分は診療科の選択も柔軟にシフトするべきだ。中堅医師がリーダーシップをとった病棟ごとの改革が必要だ。
照喜名 組織の中身が全然見えない。医師の大変さも入院すれば分かるだろうが、外にいると見えてこない。風通しの悪さで、県立病院の役割が十分県民に浸透していない。
伊関 お役所的なマネジメントが疲弊を招いている。例えば、職員定数条例の縛りで看護師やほかの専門職が増やせない。それが収益に影響し一時借入金は約百億円になった。累積赤字を加えて総額四百億円の借金を抱え、いつ破綻してもおかしくない。財政難で再投資できず、病院職員のモチベーションは下がる一方。悪循環だ。
医療と財政
赤字で見直し疑問・山城氏
山城 東京都では先日、都立病院が救急車の受け入れを拒否した後に患者が亡くなった。しかし県内では県立病院を中心とした救急体制がたらい回しを防いでいる。赤字問題だけでの運営形態の見直しは疑問。
親富祖 たらい回しがないのは全国で沖縄ぐらい。それを支えているのは県立と民間病院による救急体制だ。県立病院が変われば、全国並みの脆弱な体制になる可能性もある。
山城 財政難が強調されるあまり、必要なことにお金を使わない懸念は。
伊関 救急を担う急性期病院は、専門スタッフを多く雇用して患者を短期間で治療し退院させることでもうける仕組み。人材を投資しなければ運営が回らない。理学療法士を一人雇えば年間千五百万円の増収が見込めるのに、自治体は人を採用したがらない。そういうことが、赤字や職員不足を招く。
マネジメント
職員定数枠撤廃を・玉城氏
親富祖 人事院が公立病院の医師確保にかんして、初任給調整手当の引き上げを勧告した。国もようやく公立病院問題に本腰を上げたが、県はこれに乗じて今ある手当の廃止を提案している。離島で働き、研修医を育てるベテラン医師の給与が減額される仕組みで納得できない。
伊関 沖縄の実情にあった対応が必要だ。他県に比べて研修医が多く、離島病院を抱える沖縄は現状の手当でいいのでは。人事院勧告に従う必要があるのか。
山城 県は、医師を増やすときも職員定数枠をほとんど変えず事務職やほかの専門職を減らして充てている。しかし現場は「ほかの専門職を減らしては意味がない」と指摘している。
玉城 本来は定数枠を取り払う必要がある。看護師が増えてもほかの専門職が減れば看護師の仕事は増え、過重労働の一因となる。
儀間 県の人事のあり方は問題。こども医療センターの設立活動をしていた時、病院建設の中心となる職員が全員異動になった。せっかく積み上げた関係や知識が一気になくなり大きな損失だった。
山城 かつては病院管理局長も一―二年で異動していた。
伊関 改革には情熱が必要だが、情熱は引き継げない。病院経営には長期的視野が必要だ。
県立の役割
医師の育成も担う・親富祖氏
山城 自治体だからできないのではなく、自治体にこそやってほしいこともある。現状や課題を踏まえて、これから県立病院はどうあるべきだろう。
儀間 県が病院ごとのビジョンを示してほしい。高度・救急・周産期医療は公立で担うべきだ。こども医療センターでは病院ボランティアを導入しているが、コーディネーターが不在でうまく活用できていない。県民との協力体制がつくれるようにして。
玉城 離島では県立病院が総合的な役割を担う一方、本島内では病院ごとの医療機能を特徴づけてはどうか。研修医の育成は大学や民間病院とも連携すべきだ。職員は、県や管理職が悪いというだけでなく「こうしたら変わる」と前向きに行動してほしい。私はかつて自身の病院を広げるため、資金ショート状態を避ける目的で、職員のボーナスを一時的にカットした。経営が軌道に乗った一年後には臨時ボーナスを出した。改革には一定の負担も必要だ。
照喜名 問題点を具体的にするために、現場とトップが忌憚なく話し合える場が必要だと思う。魅力ある病院にするには患者からも学ぶべきだ。報道の責任もある。育てる姿勢で報道してほしい。
親富祖 県立病院の役割は医療提供だけにとどまらない。医師の育成や離島への医師派遣の役割もあり、運営形態が変われば、その仕組みが滞る危険性もある。地域の保健活動の一端を担う内発的な動機は、先輩医師から引き継がれており、沖縄の県立病院に全国から研修医が集まるのも、そんな動機付けによる。病院の制度設計には現場の視点が必要だ。
県民の支援
一人一人が当事者・伊関氏
儀間 県立病院に一次救急が集中し、医療スタッフの過重労働の原因となっている。県民はコンビニ感覚の受療をなくし、地域でかかりつけ医を見つける工夫をしたい。
伊関 県はもちろん、県議会も市町村も、必要ならば具体的な支援で県立病院を支えるべきだ。島根県では県立病院の医療機器を買うため、県民・経済界が一丸となって、バナナを一房買うと五円寄付する仕組みをつくって七億円を集めた。県立病院を残したいなら、一人一人が当事者となり具体的に行動することだ。
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