生活者の意識と時代性の加味
1941年にスタートし1946年から本格的に商業化されたアメリカのテレビ放送は、1951年までに大陸横断中継システムを完成して全米を覆う規模に拡大しました。テレビの普及によって、非日常的な「ハレ」の行為であったさまざまなイベントが、日常的な「ケ」の行為へと変わっていきました。
テレビの普及によって、それまで特定の場所へ行くことが必要条件で映画や野球などのエンタテインメントも、非日常な行為から日常生活の一部になりまた。テレビは、事件や事故などを伝える速報性を持ちつつ、日常の家庭環境の中で、生活者の意識や時代の雰囲気を加味しながら、対象にあわせて番組を作り出す文化的な装置になります。
テレビは、劇場という閉鎖的な公共的な空間に完結した作品だけを送り込む演劇や映画とは違って、家庭というプライベート空間ではあっても、外部からのアクセスが可能な空間に雑多な情報を送り込むメディアです。広告の挿入だけでなく、宅配便や電話によって視聴が中断されます。
大衆社会の創造
活字メディアと比較して、テレビはラジオと同じようにコンテンツが話し言葉で理解できるため、ながらでの視聴も可能であり、身構えることなく接することができます。誰にでも理解しやすく、魅力的な内容であるほど視聴者が増え、マスメディアは商業的成功を収めやすくなります。こうして、マスメディアによって等質の情報が生産され、その情報を共有し、消費する大量の人々で構成させる近代の社会は、地球規模の大衆社会(mass society)に向けて動いています。
テレビの視聴は、直接の体験ではなく、間接で擬似的な体験ですが、私たちは、テレビによる映像体験を直接体験以上のものとして受け取ることがあります。また、テレビの映像は、私たちが意識して記憶にとどめたと認識できる範囲だけでなく、無意識の領域にも膨大な情報を送り込んでいます。
テレビ・ジャーナリズムというと、従来、ニュース番組、ニュース解説、国会討論会、ドキュメンタリーなどの報道番組について論じられてきました。しかし、ドラマ、お笑い番組、バラエティショウからイベントの中継など、見られることを意識して制作される番組の方が、テレビの経営を考える上で重要な要素になっています。したがって、ニュース番組でさえ、その事件や事故、出来事が、“絵になる”と判断された場合にのみ、カメラマンが派遣されます。この“絵になる”ということは、視聴者にとって“面白い”ということであり、制作者の番組づくりを一貫して支配しています。
イベントと共に普及したテレビ
日本におけるテレビ放送は1953(昭和28)年2月、NHKの1日4時間の放送でスタートしました。民間のテレビ放送も、同年8月の日本テレビ放送網(NTV)の開局により始まり、日本におけるテレビ広告も同時に登場しました。当時、広告収入だけによる運営で経営が成り立つかどうか不安視されましたが、プロ野球やプロレス、ボクシングの実況中継を盛んに行ったり、それを街頭テレビで流したりして、テレビ人気を高めることに成功しました。
1959(昭和34)年4月の皇太子結婚中継により、一挙にテレビが家庭に普及しました。1960(昭和35)年9月にはカラーテレビ放送が始まり、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックを期に、カラーテレビが普及してきました。1975(昭和50)年にはカラーテレビの普及率が90%を超えました。
テレビと広告
1975年、テレビの広告費は新聞を超え、媒体トップになりました。「食品」「飲料・嗜好品」「化粧品・トイレタリー」広告は、現在のテレビCMの三本柱といえますが、これらは新聞がテレビに完全に奪われた形になっています。
テレビによる広告は、他のマスメディアでは比較にならないデモンストレーション能力とエンタテインメント効果を発揮します。映像と音声を利用して多様かつ多彩な情報を、視聴者へ送れるテレビは、他のマスメディアの追随を許しません。民放連は、テレビの広告特性を@説得性、A信頼性、B親近性・共有性、C強制性、D話題性、E即効性・広範性、F接触性の七項目にまとめています。
生活者に非常に密着した存在となったテレビは、広告メディアとして非常に有効な特徴を備えています。まず、テレビが媒体として持つ特性の一つとして、インパクトの強さが上げられます。テレビの音声と動きのある映像を提供する。これらは、他のマスメディアに比べ、リアルな雰囲気を醸しだし、自然と視聴者を映像の世界へと魅了する力を持っています。
テレビの広告は広告主が提供番組中に流すCMと、ステーションブレークといわれる番組と番組の間に放送されるスポットCMに大きく分けることができます。放送時間の15%から20%を占める広告は純粋な芸術と違いますが、高い文化性も求められます。商品やサービスの販売促進や、企業やブランドのイメージを向上させるなどの目的を達成するための手段で すが、商品やサービスの差異が少なくなる時代における広告作品の制作にあたっては、新しい文化の創造を担い、生活者の共感を得ることがますます重要になっています。
テレビと生活者
テレビは高度に普及したことで、親近性が非常に高いメディアになりました。テレビ視聴は余暇活動の中でも、第1位の座を占めていて、子どもから大人まで、気楽に楽しめるマスメディアとして定着しています。したがって、テレビ画面を通じて、広告商品にも自然に親しみを感じさせることができます。
日本広告主協会による「消費者の媒体別広告評価」1996(平成8)年版によると、「広告の内容に最も関心のある」広告媒体は、男女ともにテレビがトップです。また、若い年代ほどテレビに対する関心は高くなっています。「広告の内容が最も信頼できると思われる」広告メディアでは、女性全体ではテレビが第1位なのに対し、男性全体では新聞がテレビを抜いて第1位となっています。
テレビは地域メディアとしても全国的メディアとしても機能することができ、放送時間、番組内容によっては、特定層にもアピールすることができます。特にテレビは、新聞を読まない若者へ情報を伝えるメディアとして重要です。若者を対象にした商品やサービスの告知であれば、深夜の時間帯を利用することが効果的です。映像と音響を同時に伝えることができ、若者が好むリアリティのあるイメージを伝えることができます。ただし、他のメディアと比較して費用が高いことがデメリットといえます。