◎文化外交の担い手 地域も主用なプレーヤーに
文化外交の推進に政府が力を入れるなか、石川県芸術文化協会はドイツ・ライプチヒで
「ドイツ・日本祭いしかわ」を開催する。近年は経済力や軍事力だけでなく、いわゆるソフトパワーの文化の力を生かした外交が重視されるようになってきた。その担い手は政府や東京に限らず、実際に多様な芸術、芸能の担い手が住み、積極的に活動を行っている地域こそ文化外交の「主要プレーヤー」といってよい。県芸文協の海外公演もそのなかに位置づけることができる。
国際的な文化交流活動には長い歴史がある。しかし、単なる友好親善のレベルを超え、
国のイメージ、地位を高め、異文化の国同士の理解を促して国益や国際平和に役立てる外交的意味が強調されるようになったのは、比較的最近である。政府の文化外交推進懇談会が指針となる報告書を提出したのは二〇〇五年、それを受けて文化外交を明確に打ち出したのは、麻生太郎首相が外相を務めていた〇六年のことである。
県芸文協の海外公演は〇四年のウイーンが最初であり、政府の政策に先んじて独自に文
化外交の一翼を担ってきたことになる。三回目となる今回の海外派遣団には、いけ花、民謡、太鼓、吟剣詩舞、合唱、邦楽、書の七団体・約百人が参加する。文化の総合力で秀でた石川ならではの海外公演であり、それだけ高い文化外交能力を有した地域と評することができる。
また、例えば金沢で開催中の国際色豊かな「アジア音楽祭かなざわ」や、今春行われた
「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日』音楽祭」などは、文化外交の舞台としての金沢の可能性の大きさを示してもいよう。
外交の担い手は政府だけでなく地方自治体、民間団体、企業など多様化している。日本
文化の国際発信も東京経由ではなく、地域それぞれが直接行う時代になって久しく、最近は政府と関係機関・団体が連携した「オールジャパン」の外交強化が叫ばれている。政府には従来の文化政策に加えて、外交政策の面からも地域の国際的文化活動の支援をさらに強めるよう望みたい。
◎介護報酬引き上げ 現場の悩み解消へ工夫を
政府、与党は二〇〇九年度から介護報酬を3・0%引き上げる方針を決め、追加経済対
策に盛り込まれた。介護保険制度では三年ごとに報酬を改定することになっており、来年度のそれは制度施行以来三度目の改定に当たる。過去二回の改定では引き下げが続いたため、引き上げが実施されれば、初めてのプラス改定となる。
総選挙を意識したものであることは否定できないが、報酬抑制策が続いたため、〇六年
度から介護サービス事業者の経営破たんが急増し、低賃金や労働強化から希望が持てないとの理由で離職率も20%、すなわち五人に一人の割合に達した。こうした深刻さから、実現はしなかったものの、改定の一年前倒しも考えられたとの背景があり、引き上げはやむを得ない。
引き上げを機に、現場の悩みが政策に反映されるよう政府には仕組みの改善を求め、事
業者もさらに知恵を出して頑張ってほしい。
介護分野は見方によっては医療分野以上に、さまざまな問題があるのだが、ここではサ
ービス事業者の経営破たんと離職者の増加に論点を絞っている。
まず前者だが、民間初のシンクタンク「ヘルスケア総合政策研究所」の〇八年度版「介
護経営白書」によると、〇四年度から倒産件数が二けた台になり、〇六年度は二十三件、〇七年度は三十五件、〇八年度は一―五月までで二十一件の勢いで、過去最悪だった〇七年度をこえると予測されている。
後者の離職者については、先に挙げた離職率20%は厚労省所管の「介護労働安定セン
ター」の調査(昨年十一―十二月に実施)によるもので、この傾向は人手不足となってさらに深刻化しているといわれる。
介護報酬を決めるのは社会保障審議会介護給付分科会で、これは医療報酬を決める中央
社会保険医療協議会(中医協)に当たる。中医協では医療提供側の委員もいるが、介護給付分科会では業界の営利法人代表が委員にいないため、「現場の声」が伝わらないとする厳しい指摘がある。これなども改めたいことだ。