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世界の森林面積は陸地の3割を占めている。木々が織りなす緑は生物の宝庫であるだけでなく、二酸化炭素(CO2)を吸収して地球の温暖化を防ぐ役割も果たす。この恵み多い森林の破壊が加速度的に進んでいる。
国連食糧農業機関(FAO)によると、05年までの5年間に日本の面積に近い35万平方キロの森林が失われた。木材生産のための伐採や森林火災、プランテーションなどの大規模な農地への転換が原因だ。
そうした森林破壊などで大気中に排出されるCO2は、車の排ガスなど世界全体の人為的な排出量の2割、米国の年間排出量に匹敵する。光合成で蓄えられていた炭素が、樹木が燃やされるなどして放出されるからだ。
地球上の生物種は約1千万種との推定があるが、その半分以上は熱帯林に生息している。生物多様性を守るには熱帯林の保護が鍵を握るが、現実には破壊がとどまるところを知らず、今後30年間で熱帯林に生息する種の5〜10%が絶滅するとの予測もある。
■資金足りない途上国
国際社会は、森林減少に目をつぶってきたわけではない。
92年の国連環境開発会議(地球サミット)では、森林を持続的に利用するための「森林原則声明」が採択された。条約と違って法的拘束力はないが、森林に関する初めての世界的な合意だ。これに基づいて森林を守る方策が積み重ねられてきた。
たとえば、こんな試みがある。温帯林か熱帯林か、北半球か南半球かなど自然条件や社会背景が似た国や地域が世界で九つのグループをつくる。グループごとに生物の多様性や土壌、水資源の保全などについて基準を設け、持続可能な森林経営への切り替えをめざしている。
149カ国が、九つのグループの少なくとも一つに参加している。その成果もあって、日本を含む東アジアや欧州の温帯林では植林などで森林面積は増加に転じている。
だが深刻なのは、南米・アマゾンや東南アジア、アフリカの熱帯林で減少に歯止めがかかっていないことだ。
温帯林帯の先進国は資金もあって有効な政策をとる力がある。一方、熱帯林が集中する途上国では新たな森林経営をしようにも、それを実行に移すための資金に乏しい。
森林保全に必要な資金をどのようにして途上国に回すか。先進国や国際機関による援助のほか、いま注目されているのが「途上国における森林減少の防止(REDD)」という構想だ。
■ポスト京都で知恵を
京都議定書には、先進国が途上国の森林を植林で増やせば先進国のCO2削減量に算入できる仕組みがある。しかし、森林が減らないようにする対策を支援しても、この仕組みを適用できない。それを改めて、森林減少の対策も排出削減量に加えられるようにするのがREDDだ。
2013年からの「ポスト京都議定書」の枠組みにREDDを組み込めば、森林保全への資金援助の意欲も強まるだろう。途上国自身が森林減少の対策によるCO2削減量を排出量取引市場で売ることができるようにすれば、森林を守った方が経済的にも得になるという意識がいっそう広まる。
とはいえ、実行に移すには、いくつかの難問を解かなければならない。森林の減少を食い止める対策をどのように排出削減量に換算するのか。どんな制度設計をすれば、森林保護のための資金が途上国に安定的に入るのか。
世界銀行は今秋、REDDの効果などを調べるプロジェクトを始め、日本も加わっている。日本は「ポスト京都議定書」の枠組みで、REDDを生かす知恵を絞っていきたい。
森林破壊を加速させているもう一つの大きな原因が、違法伐採だ。多くの生産国では伐採や輸出の許可制度などによって伐採の総量を規制しているが、そうした規制をくぐっておこなわれる伐採や取引のことである。
世界の森林減少の4分の1を占めるインドネシアは99年、生産国で初めて国内で違法伐採があることを認め、英国と共同で調査した。その結果、5割を超える木材が違法伐採によって生産されていた。
違法伐採を放置しておくと、せっかく総量規制をしていても意味がない。輸入国にとっても、違法伐採の安い木材が国際市場で流通すれば、国内の森林経営を続けることが難しくなる。
■違法対策を助けよう
日本は木材消費の8割を外材でまかなっている世界有数の輸入国だ。
その主要な輸入相手国であるインドネシアで、日本は人工衛星の画像を使って伐採状況を監視する方法を開発した。広い熱帯林のどこで、違法伐採が進んでいるかを知る手段になる。
さらに、木材の流通経路をつかむ追跡システムづくりも進めている。合法的に切り出した木材にラベルをはって、違法伐採の木材が混入するのを防ぐのがねらいだ。
こうした試みを含め、違法伐採追放で日本ができる技術的支援は少なくない。アジアでまず効果を上げ、改善を重ねながら世界に広げるべきだ。
知恵と技術で、途上国での森林破壊に歯止めをかける。この待ったなしの仕事を日本の環境外交の太い柱にしていきたい。