中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索

神石三和病院の町立化 過疎地の医療どう守る '08/11/3

 医師不足の中でも、過疎地域の状況は深刻だ。広島県神石高原町の県立神石三和病院は、来年四月からの町立化を前にスタッフ確保という難題に直面している。町は、財政上の理由もあって「公設民営」方式を選んだ。地域医療の拠点を守るには、住民の理解や県の支援も得た上で、設置者の責務をどう果たすかが鍵を握る。

 来春以降も続けて勤務してほしい―。病院職員に対する要望書を牧野雄光町長らが九月末、原田亘院長に出した。「要望は聞いているが、それぞれの判断に委ねたい」が答えだった。それから一カ月。十分な医師確保のめどはまだ立っていない。

 人口一万二千人、高齢化率42%の町で唯一の病院。八年前まで九人いた常勤医は六人に減り、医師らに疲労の色は隠せない。手術も難しくなり、患者減少が響いて収益も悪化。赤字は年間三億円を超す。県は、患者が町内にほぼ限られ広域的な役割も薄れているとして地元への移管を打ち出した。

 病院経営のノウハウのない町が、公設民営を選択した背景には財政難もある。赤字補てんの余力はなく、効率的な経営努力が期待できる民間で運営をとの発想だ。九月中旬には福山市の医療法人を指定管理者に選定。県からの助成金十三億二千万円を施設改修や当面の運営支援などに充てる。

 九十五床で五つの診療科があり、救急医療や人工透析も。町民の声を受け、今の医療水準をほぼ維持するのが町の目標だが、スタッフがそろってこそ。「この地の医療を破たんさせたくない」と言う常勤医もいるが、来春に転出を予定する人もいる。

 過疎地域の病院はどこも医師確保に悩む。派遣元の大学医局をはじめ自治医大を卒業した医師も不足し、「一カ所が充足すれば、ほかに穴が開く」ともいわれる。地元移管で県とのパイプが切れるのを機に、最悪の場合、医師の引き揚げや不補充となる恐れもある。

 町や法人は当面、県の支援も得て医師確保に手を尽くすしかない。だが非常勤も含めて実質七人の現状を下回れば、病床数は削られる。確保数によっては、救急などへの影響が出かねない。

 法人は、在宅支援を含めた総合的な高齢者医療の拡充を目指すという。一方、町民には多様な医療への要望も強い。町移管を機に、適正な規模や機能をめぐる議論も必要になってくるだろう。赤字が出れば、町財政から補てんせざるを得ない。自分たちの病院をどうするか。町民に判断材料を提供するのは町の責任である。

 県は近く、首都圏から医師を呼び込むためのイベントを東京で開く。医師の県外流出に歯止めがかからない。四年前から始まった新臨床研修制度で、研修医が自由に研修先を選べるようになったからだ。国はやっと医師増員へかじを切ったが、育つまで十年かかる。医師不足への対応は、地元だけでは限界がある。国レベルで、研修医の目を地域医療に向けさせるような制度の見直しも急務である。

【写真説明】来年4月から町立に移管する神石三和病院




MenuNextLast
安全安心
おでかけ