「君たちがつよくなって、死んでいってくれたほうがマナをたくさん持ってきてくれるし。

なによりカオスにより強い絶望を与えられるんだ。だから、慈悲なんかじゃない。ははっ・・・シン様らしい」

 

 

「ぐっ・・・!」

「それと・・・お迎えなんだけどね」

「お迎・・え・・・?」

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・!?」

 

俺は自分の腹から突き出ている剣を見る。

この形は・・・っ!!

 

「ウソ・・・だろ!?」

 

 

新星はブレスの手前でとまっていた。

後ろには・・・剣を構えたカナリア。

その剣は・・・俺に突きささっている。

 

 

「くそっ・・・なんで・・・!」

 

 

ブシュッ!

剣を勢い良く引き抜かれる。

 

ブシャァッ!

血が吹き出てマナに還る。

 

 

「お迎え・・・と言ったはずだ」

 

 

俺は倒れ、傷口をブレスにふみつけられる。

 

「ぐぼっ・・・!」

{アスナッ!!}

「お迎・・・えっ・・・?」

 

「そう・・・カナリア様のな」

 

「っ!?」

 

 

ウソだろ・・・!?

最悪の考えが的中してしまった。

 

 

「ごめんなさいね、アスナ」

 

 

謝っているが、まるでやさしさを含まない目。

その目は、有無を言わさず俺の否定する心を失わせた。

 

 

「でも、あなたほどのエターナルなら薄々気付いていたんじゃないかしら?」

「・・・っるせーな・・・」

「あなたの考えているとおり。私は元からシン様の手下。というより・・・コピーに近いわね」

「コ、ピー・・・?」

 

 

ギッ!

踏み付けてくる足に力がこもる。

 

 

(っ・・・!?)

 

 

一気に肺から空気が抜け頭に霞がかかる。

 

 

「そう・・・。あなたに封印されたとき、シン様は私を生み出した。

そして、封印されている間の動きを私に監視させていた・・・ってこと」

 

 

「なっ・・・マジ・・・かよ・・・」

 

つまり・・・オレ達はずっと・・・シンの上で踊っていたのか?

 

 

「誘拐されたのだって、あなたたちの力を削るためには必要だった。

まぁ・・・あなたが頭いいうえに、予想以上に力を持っていたから削ることはできなかったけど」

 

 

少数で行ったことと、スピリット・オブ・ネレイのことを言っているのだろう。

 

「お、れたちが・・・助けにいかなかった・・・場合は・・・どう、するつもり・・・だったんだ?」

「そしたら、シン様と一つになって戻るだけ。まぁ・・・あなたが助けにこないなんて・・・思わなかったけど」

「・・・?」

 

 

一瞬だけ・・・でも、それは俺の頭に霞がかかっているせいだ・・・きっと。

 

 

「ファンタズマゴリアの時から・・・?」

 

ヒカリは顔だけあげて聞く。

 

 

「ふふ・・・そう。あのときから私はもうエターナルだったわ」

「っ・・・」

「テムオリンがどれくらいやってくれるか・・・見るためにね」

「そん・・・な・・・」

 

 

テムは愕然とした。

顔をあげている力もなくなったのか地面につっぷしてしまう。

 

 

「ま、案の定、ユウトがエターナルになったことであっけなく計画はダメになったわけなんだけどね。

そこで腑甲斐なさを痛感したシン様がこの戦いを起こした・・・ってわけ」

 

 

「そのわりには・・・不変は随分と・・・」

 

不変・・・心の前の剣だ。

つまり、ユウキの前の神剣。

 

「あぁ・・・何を思ったのか知らないけど、随分シン様に抵抗していたみたい。おかげでカオスはここまで粘るし・・・まったく」

 

ハァ、とため息をつくカナリア。

 

ズガッ!

 

 

「ぐあっ!」

 

突然俺の体を踏み付けるカナリア。

その力に加減がないのがわかる・・・。

 

 

「弱いくせにキャンキャン・・・すごくウザかったわ。

人のやり方を勝手に否定して・・・自分の望むような仲間ばかりに囲まれることを望んでるから・・・こういうふうになるの!

どうせ弱いくせに」

 

 

「っ!!」

 

 

「気持ち?想い?そんなものにすがって・・・それでなんとかなる?あははっ・・・!

大体・・・なんでそんなにシン様に抵抗するの?世界を守りたいとか思ってるわけ?」

 

問いかけてきながらも、足に力を込めて声を出させないようにするカナリア。

 

「ぐっ・・・」

 

 

「こんな・・・他者に負けずと競い、才能ある者いれば妬み!憎み!お互いを食い散らかす事しか考えない者達の世界を?守る!?

憎しみの感情が最も大きく、一度それに触れると一瞬で悪に手を染める人間達が作っている世界を守るですって!?」

 

 

「うる・・・っ!」

「そんな世界をなぜ信じるの?なぜ命をかけて守るの?そんな世界に価値があるわけ?」

「それしか知らないお前が・・・っ!!!」

「知らないわよ!所詮私だって『一人』というカテゴリの中の存在だもの!自分の知らない事は知らないわよ!!」

 

「じゃぁ聞くが・・・っ!憎しみも妬みもなくなった存在は『人間』か・・・!?」

「なに・・・?」

 

 

「お前に言われなくとも・・・っ!人間はそんな生き物だってことくらい・・・イヤだって程知ってるっ!

それで・・・お前は俺達と共に過ごして何を見てきた!?それがお前の結論か!!!!」

 

 

「っ・・・!」

 

 

「俺達はさんざん人を殺したっ!それだけの業を背負ってここまで進んできた!!

俺だけじゃない!全世界で今この瞬間も人殺しはおきてるさ!そんなの・・・知ってる!!」

 

 

「それだけの業を積み重ねてきたのは誰よ!?あなただってそのうちの一人じゃない!!それが説教するつもり!?」

「人間である限りそれは定めだって言ってるんだ・・・っ!人を憎む、妬む、羨む!そして・・・殺す」

 

 

「それでなに!?いつかは・・・きっといつか、人間が憎まない時がくるとでも毒を吐くつもり!?

そんな毒に惑わされてあなたは一体どれだけ人を殺したのよ!?」

 

 

「だからっ!!お前は俺達と一緒に過ごして何を見てきたって言ってるんだよッッッ!!!」

「っ・・・!」

「そこにあった世界はなんだよ!?お互いに憎みあい、妬みあい、殺しあっているだけの世界だったかよ!?」

 

 

「なに!?じゃぁ自分のしてきたことが正義だって言いたいわけ!?それで今問い詰められて判らないからって逃げて!

正義を知らず、誰にも聞かず!そしてその結果がこの有り様よ!!どこに温かい世界があるっていうのよ!?」

 

 

「認めたな・・・っ!」

「なんですって・・・?」

「今言っただろ!温かい世界ってよ!!それはどこで見た!?言えッ!!」

「っ・・・!」

「認めろ!!今までのお前の言葉は、否定したい部分だけを故意に無視してたって認めろ!!!」

 

 

「認めない・・・そんなの認めないわっ!!人間はお互いに憎みあって・・・妬みあって・・・

そして最後には殺しあって・・・滅ぶ!そう・・・!それが人間なのよ・・・っ!!!」

 

 

「カナリアッ!!!」

「うるさい・・・うるさいうるさいうるさぁぁぁいっ!!!」

 

カナリアが片手をあげる。

すると、ポツポツと雨が降り出した。

 

ジュワッ・・・!!

 

 

「っ・・・!?」

 

背中が熱い・・・!

まさかこれは・・・!!

 

「そ。酸性雨。メチャクチャ強い・・・ね。このまま溶けてしまいなさい!」

 

ザザザザザァッ!!!

 

一気に雨が強くなった!

その雨は俺を容赦なく溶かしていく!

 

 

「ぐあぁあぁッ!!!!」

 

 

耐え難い痛みに絶叫する。

このままではあっという間に・・・!

 

 

 

 

ふっ・・・!

 

「・・・え?」

 

 

突然、雨が俺に当たらなくなった。

ザーザーと激しく降っているのに・・・だ。

 

俺は不思議に思って目をあける。

すると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か・・・?アスナ」

「ふぉ、フォルク・・・?」

 

 

俺をかばうようにフォルクがいた。

 

「みんなは自力で脱出した。あとはお前だけ・・・だ」

 

フォルクは俺をかつぐ。

だが、その歩きはめちゃくちゃ遅い。

 

 

「ダメだフォルク・・・っ!!このままじゃ死ぬ!置いてけっ!!」

「バカなこというな!お前はカオスの中心なんだぞ!?お前が死ねば、全て崩れる!」

「そんなことどーでもいい!お前・・・っ!!」

 

 

その間にも雨は降り続ける。

 

バサッ・・・!

フォルクの長い、束ねた髪が落ちた。

おそらく、背中はもう骨が見えそうなくらい溶けているはずだ・・・。

 

 

「頼むから・・・っ!置いてけよ・・・っ!!!」

「そういうわけにもいかん。俺は・・・お前に借りがあるからな・・・!」

「っ!!」

 

一歩・・・また一歩と、確実に雨エリアを進んで行く・・・。

だが、それまでに倒れるのは明らかだった・・・。

 

 

 

 

 

 

「フォルクッ!!」

 

ドサァッ!!

俺は放り投げ出され、雨から逃れた。

 

 

だが・・・フォルクが立ったまま動かない。

そして、そこで俺は初めてフォルクの状態を知った。

 

全身がやけただれ、髪は抜け落ち・・・骨がところどころに見える。

その面影を残す物は・・・その目だけ・・・。

 

フォルクの影が薄くなりだした。

 

 

 

 

「ま、待てよフォルク・・・!」

「ふふ・・・やはりお前は俺の思った通りの人物だった・・・」

「いくな・・・死ぬな・・・」

 

 

うわごとのように呟いてしまう。

フォルクの口がかすかに動いて・・・言葉を紡ぎ出す。

あれは・・・

 

 

ドサッ・・・!

フォルクが倒れ・・・マナにかえっていく・・・。

そこにまだいるかのように・・・虚構を残して。

 

 

フォルク・・・

おまえは・・・こう言った・・・んだよな?

 

 

 

 

 

 

―――――ありがとう

 

 

 

 

 

 

俺の頭に浮ぶ彼の顔。

それはどれも笑顔ばかり。

時にはボケーッとしてて・・・。

純粋に、俺が助けたあの時の事を誇りに思ってて・・・。

それなのに・・・っ!!

 

俺は彼を見殺しにしてしまったっ!!!!

 

 

俺のせいで・・・

 

俺のせいでッッッ!!

 

 

 

 

 

「いやぁぁあぁぁっ!!」

 

ヒカリの叫びがその場にこだました。

 

「う・・・っ・・・あぁああぁぁぁ!!!」

 

自分でも驚くほどの声がでた。

 

コイツら・・・っ!!

 

体を必死で動かす。

だが、動かせば動かすほど体からマナが抜けていき、力が余計入らなくなる。

でも、俺は必死で動かす。

 

 

(許さない許さない許さない・・・っ!!!絶対に殺してヤルッッッッ!!!)

 

俺の中で激しい憎しみが暴れ回る。

 

「よくも・・・よくもぉぉぉぉっっ!!!」

 

ガシッ!!

 

「ぐぅっ・・・!」

 

カナリアとブレスに押さえ付けられる。

 

「非力なくせに何が守る・・・?あははっ!本当に笑ってしまうわね!エターナル一人守れないあなたに何ができて?」

「カナリアァァァっ・・・!!」

 

 

「いくら気持ちだけあっても、力がなければ結局はこうなるのよ。

それもわからないで・・・何が手を取り合える?協力できる?あははっ!!」

 

 

「ふふ・・・ふはははっ!!」

 

四人が俺を笑い飛ばす。

 

「笑いたきゃ一生笑ってろよ・・・っ!でも・・・な・・・っ!」

 

俺は新星を握り締めた。

だが、すぐにリョートに踏み付けられ、右手が砕けてしまう。

 

「フォルクは大事な・・・仲間だったんだ・・・っ!協力して、手を取り合って・・・っ!」

「バカだな。そうやってお互いに依存しあって、結局は失望する」

 

 

 

 

 

 

「貴様等になんかわからない。いや、わからせねぇ・・・っ!

おまえらは・・・ここで消えるんだからなぁぁぁあぁっっっ!!!」

 

 

俺は絶叫して立ち上がる。

左手で新星を地面に刺す。

片手しか使えないなら邪魔だッ!

 

「っ!?」

「バカなっ・・・!こんな力がどこに!?」

 

俺は恐怖に歪んだ四人を見る。

まずは・・・!

 

「うおぉぉぁ!!!!」

「っ!?」

 

一瞬で間合いを詰めてニネイに拳をあてた。

その拳が突然回転を始めて、ものすごい熱を生み出す!

 

 

ボガァァアァッッッッ!!

 

「ぐあぁあぁぁぁ・・・ッッ!!!」

 

俺の手から爆発が起こり、ニネイの体を木っ端微塵に吹き飛ばす!

飛び散った肉片がマナへとかえっていく。

ニネイの体は腹がなくなり、グダッと折れた。

 

「つぎっっ!おまえだぁぁああっっ!!!」

 

「俺かっ!?」

 

リョートが剣を構えた。

俺は一瞬で詰めて火星を握り、リョートを上に蹴り上げる!

 

「ぐおぉぉっ!?」

 

 

「消えろォォォオォォッ!!!」

 

 

俺はジャンプしてリョートの腹を殴る!

その途端・・・

 

ドガァアァッ!!

 

「ぐあああぁっ!?」

 

爆発が起きてリョートの下半身と上半身を真っ二つにした。

上半身は更に上に吹き飛び、下半身は地面に落ちるまでにマナに還る。

 

 

「次はおまえだっ!!死ねよブレスッ!!」

「っ!?」

 

バシュッ!!

ブレスはおりてくる俺に剣をふるった。

 

 

「うおぉあぁぁぁ!!!」

 

 

バキィィッ!!

俺の拳が金星を弾き、遠くへ吹き飛ばす!

 

「っ!?バカな・・・!」

 

俺は驚くブレスに拳をふるった!!

 

 

カスッ・・・

 

 

「!?」

 

それはブレスの体を突き抜けた。

いや・・・通り抜けた、が正解だ。

 

 

 

 

 

『このバカどもっ!アスナをキレさせちゃだめだって命令したでしょう!?』

 

「シンッ!!」

 

この声・・・俺の中にある憎しみがさらに増す。

 

「す、すみません!」

 

カナリアが謝る。

 

 

『アスナをなめるなとあれほど注意したのに・・・。

カナリア、あなたが監視していた中で、一回でもアスナが本気をだしたことがあるとでも思って?』

 

 

「え・・・?」

 

『今のアスナが・・・本気のアスナなんだから。だから注意しなさいって言ったの!』

 

「・・・」

 

『リョートもニネイも死にかけてるし・・・!もういい!かえってきなさい!』

 

 

シュンッ!!

全員が一気に消えた。

 

「くっ・・・!」

 

そのとたん、体がグラッときた。

意識が突然消える・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

俺は目を覚ました。

そこは見慣れぬ土地・・・。

 

「起きた、アスナ?」

「え?ユウナ・・・?」

 

両足を失ったユウナが這って俺の隣にやってくる。

 

「調子はどう?」

「・・・もう平気だ。みんなは?」

「ヒカリもテムもまだ眠ってる。フォルクは・・・もういない」

「・・・そっか」

 

俺は空を見上げた。

霞み掛かった空は青い・・・。

 

「まずはユウナを治しちゃうか。新星よ、この者の体に新しき力を」

 

フゥゥッ・・・!!

ユウナの失われた両足が再構築されていく。

 

「ありがと」

 

タッと立ち上がるユウナ。

何度も足踏みして感覚を確かめる。

 

「あれだけの敵にフォルクだけ・・・いや、だけ・・・を使うのは間違いか」

 

少なくとも・・・だけ、で済むような雰囲気ではない。

 

 

 

「ラ〜、ラ〜ララ〜、ララララ、ラ〜ララ〜・・・ララ〜、ラ〜ララ、ララララ、ラ、ララ、ラ〜」

 

 

 

俺はスフィアに教わった詩を口ずさむ・・・。

歌詞は覚えていないがリズムを口ずさむことはできた。

確か・・・こんな感じだったはず。

 

「それ・・・なんて曲なの?」

「名前は覚えてない。確か、意味は・・・失ったものの大きさって感じだったな・・・」

「失った物・・・ね」

 

ユウナも空を見上げた。

何を思っているのか・・・それはなんとなく俺と同じ感じがした。

 

 

「大切な物はあればその大切さに気付かないんだ。当然、愛や気持ちも・・・。

確かこの曲は愛をメインにしてたな。失って・・・その愛の大きさ、大切さに気付くって詩・・・」

 

 

「アスナ・・・」

「一緒にいればわからない。でも、目の前でこぼれていく時に痛感する。その大切さを・・・さってと!」

 

俺はケツをパンパン叩く。

 

「ここでとまってる場合じゃないな!カナリアだって待ってるわけだし」

「シンもね」

 

ユウナが頷く。

 

「ユウナ、これから頼るときもあるかもしれないけど・・・よろしく頼む」

「任せて・・・もう二度とこんな悔しい思いはしないわ」

 

オレ達は大して体力も回復しないまま、その場を去る・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洗礼のユウトside

 

「なんだって!?」

 

俺は定期連絡につい声を荒くする。

 

「どうした?ユート」

 

俺の声にゾロゾロやってくる。

 

「・・・フォルクが、死んだ」

 

 

『っ!!』

 

 

その場が息を呑む。

 

「他の人は!?アスナは!?ユウナは!?ヒカリにテムオリンも!?カナリアまで!?」

「キョウコ、落ち着け。他のみんなはとりあえず無事らしい・・・」

「良かった・・・」

 

 

胸を撫で下ろすキョウコ。

 

 

「ただ・・・全員重傷。アスナはかなり危なかったって。ユウナは両足を失って、ヒカリとテムは自分の神剣魔法をくらった」

「・・・それで、カナリアは?」

「・・・」

 

 

俺は一度深呼吸した。

あまりの出来事で・・・信じられない。

でも・・・現実なんだ・・・。

受け入れなければ・・・。

今ここで聞いた俺より・・・アスナの方がずっと辛い思いをしてるはず。

 

 

「ゆ、ユウ?どうして・・・黙ってるの?」

「なにか・・・あったのですね?」

「・・・ああ。エスペリアの言うとおりだ。何か・・・あったんだよ、非常に・・・やっかいな事だ」

「え?なになにパパぁ?」

 

 

 

「・・・カナリアが裏切った」

 

 

 

『!!?』

 

本日2度目の場が震える・・・。

たいして大きな声で言ったわけではないのに、場が静まる。

 

「ウ、ウソで・・・はないのですね・・・?」

 

ウルカが俺の顔を見て悟る。

相当ヒドイ顔をしているようだな、俺・・・。

 

 

「ああ。現にアスナは刺されて、フォルクを殺したのもカナリアだそうだ・・・っ!」

 

 

悔しくて涙が出てくる。

なんで・・・カナリアがフォルクを・・・!

 

 

「そんな・・・っ!」

「・・・やはり、そうなってしまいましたか・・・」

「え・・・?」

 

俺はトキミの発言に引っ掛かる。

 

「まさか・・・知ってたのか?トキミは・・・」

「・・・ええ」

「どうして教えてくれなかったんだよ!?」

 

俺はトキミに詰め寄った。

 

「教えてくれればみんなで止められたかもしれないのにっ!!」

 

トキミの両肩を押さえ付けて問いただす。

 

 

「同じ割合・・・だったんですよ」

「・・・?」

「カナリアさんが裏切らない未来も・・・あったんですっ!私がユウトさんと結ばれるくらいに低い確率でしたけど・・・っ!」

「そ、それじゃぁ・・・!」

 

「信じてみたいじゃないですかっ!!私だって・・・未来を信じてもいいじゃないですか・・・っ!!」

「トキミ・・・」

 

 

俺はトキミの両肩から手を外す。

 

 

「ごめん・・・」

「いえ・・・」

「それに・・・アスナさんだって気付いてたはずです」

「え・・・?」

 

 

アスナが・・・?

 

 

「カナリアさんには不可解な事が多すぎました。

そこから・・・たぶん、アスナさんは気付いてたと思います。カナリアさんがシンの手下であることに・・・」

 

 

「・・・オレたちもいこう」

 

俺は洗礼を握り締める。

ここで・・・俺達がくよくよしてもしかたない。

 

 

「カナリアは・・・裏切らない場合だってあったんだから・・・きっとまた仲間に戻ってこられるはずだ」

「・・・」

 

俺はみんなに振り向く。

 

 

「いこう!アスナの所へ!アイツなら・・・カナリアを連れ戻せるはずだ。

だから、少しでも確率を上げるためにオレ達も手伝おう!」

 

 

「・・・そうねっ!」

 

キョウコが笑顔で答えてくれた。

その声に呼応するかのように、みんなから温かい何かが感じられる。

 

 

「ん・・・カナリアは・・・仲間」

「フォルクさんのことは残念ですが・・・立ち止まるわけにはいきません」

「ユウト殿・・・いきましょう」

「パパ〜!ファイトだよ〜!」

「行きましょうユウトさん」

 

「そうだな・・・いこう、みんなっ!!」