地域経済の足元が揺らぎだした。財務省が七―九月の景気判断を、過去最多となる四十五都道府県で下方修正した。これ以上の悪化を何としても食い止めなければならない。
全国の総括判断は四―六月が「一部の地域に弱い動きがみられる」だったが、今回は「各地域で弱い動きがみられる」と三期連続で引き下げられた。中国地方の景況判断は前回の「回復の動きに足踏みがみられる」から「おおむね横ばいで推移する中、このところ弱い動きが広がっている」と、三期連続の下方修正になった。四国は「やや弱い動きとなっている」と二期ぶりの下方修正である。
世界的な金融危機は地方の景気に深刻な打撃を与えていることが鮮明になってきた。それぞれの企業は経営効率を高めるなど生き残りをかけた最大限の努力が求められるが、国や地方自治体はきめ細かな支援策で景気を下支えしなければなるまい。迅速な対策を実行しなければ、中小企業などは修復のきかない痛手をこうむりかねない。
財政危機宣言を出している岡山県は、景気の低迷で税収減となれば財政は一段と厳しさを増す。四選を果たした石井正弘知事にとっては、さらなる歳出削減が迫られ、県政運営のかじ取りがますます困難になろう。
知事は、選挙戦のマニフェスト(公約集)で、八月に示した財政構造改革プランの素案を煮詰め、十一月中に最終的な方針を取りまとめるとしている。素案には大幅な人件費抑制や補助金の削減などが盛り込まれたが、経費の削減に偏り、積極的な歳入確保策は乏しい。県施設へのネーミングライツ(命名権)の導入などをあげているが、力強さに欠ける。使用料や手数料の引き上げなど県民に負担増も求める。
懸念されるのは、県の行財政改革によって県全体が萎縮(いしゅく)しかねないことだ。厳しさばかりが強調されると、県民は将来に不安を持つ。個人消費が伸びなくなり、地元企業が活力を失う恐れが出てこよう。
政府は暮らしの不安を取り除くとして追加の経済対策を打ち出した。住宅ローン減税や高速道路値下げ、雇用対策、市場安定化策などだ。道路特定財源の一般財源化に伴い、一兆円を地方に配分するともしている。先行きに不透明な部分があるが、新たな財源は有効に活用し、地域活性化に生かしていくことが大切だ。
県は素案で、財政状況を適時、適切に公表するなど情報公開に努めるという。県民の理解と納得が得られなければ改革は難しかろう。
防衛省の田母神俊雄航空幕僚長が、中国侵略や朝鮮半島の植民地支配を正当化する論文を発表し、浜田靖一防衛相は「政府見解と違うことは明白」として深夜の持ち回り閣議で更迭、航空幕僚監部付に異動した。
論文は「わが国は☆介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」「侵略国家だったなどというのはまさにぬれぎぬ」などと主張した。また政府の憲法解釈で禁止されている集団的自衛権行使や攻撃的兵器の保有解禁を事実上要求し、太平洋戦争開戦に関しても「ルーズベルト(米大統領)のわな」にはまったと述べている。
侵略に関する現在の政府見解は村山富市元首相の一九九五年の談話に基づく。談話は、わが国が「国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」として反省とおわびを表明した。論文が政府見解と整合しないことは明らかだ。
シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがしかねない、内容的にも拙劣といった批判が政界や識者、それに防衛省内からも相次いだ。文章に書いたのだから確信犯という声もある。更迭は当然であろう。
自衛隊をめぐる不祥事が続発し、海上自衛隊の給油活動を延長する新テロ対策特別措置法改正案が国会で審議中といった事情が迅速な更迭劇の背景にあると思われる。中国や韓国などからの批判を考え、先手を打ったということもあろう。
人によって考え方が違い、いろいろな主張や信条がある。しかし、発言や論文などの形で発表する場合は立場を考えなければならない。田母神氏は航空自衛隊トップでありながら、それができなかった。防衛省は、人材登用の在り方も考える必要があるだろう。
☆=「くさかんむり」の下に「將」
(2008年11月2日掲載)