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子どもの事故どうする?:/下 事例集め、予防に生かす

 ◇保護者らの情報を共有、分析

 乳幼児がけがをすると、保護者の多くは自分の不注意と考える。だが、同じ事故が繰り返されるのは、製品に問題があるともいえる。事例を集め予防に生かす取り組みが始まっている。保護者の情報提供がそのカギを握っている。【大和田香織】

 「バン!」という音で振り向くと、右手を真っ黒にして、当時2歳の長男が泣いていた。東京都杉並区の編集者の女性(35)の家では2年前、長男がコンセントに鍵を差し込んで人さし指をやけどした。病院では医師に「感電していたら大事に至っていた。お母さんが目を離してはだめ」としかられた。いたずら防止用に市販されているプラスチックの差し込み式カバーを買ってあったが、長男が面白がって抜くため使っていなかった。

 ●「苦情伝える」わずか

 子どもがけがをした場合、保護者の多くは自分の責任と考える。東京都が子どもの衣類に関して行った調査(06年)では、けがなどの原因が製品や表示にあると思っても、メーカーに苦情を言った人は2・4%。96%は「どこにも言わなかった」と答えた。「大事に至らなくても問題点がメーカーに伝われば、防止策を製品開発に生かせる。一企業や一業界だけでなく、類似品を扱う他の業界にも情報が伝わる仕組みが必要」と、NPO・キッズデザイン協議会の小野裕嗣事務局長は話す。

 小野さんが参加する東京都の商品等安全対策協議会が行った消費者アンケート(07年)では、12歳以下の子どもがいる家庭の6割がベビーカーなどの折りたたみ製品で指をはさむなどの事故に遭っていた。協議会は最も多い椅子の事故を対象に、子どもの使用を想定した業界の安全自主基準の策定、事故情報の共有・分析体制の充実などを提言。これを受けた製品も販売されるようになった。

 ●「精神論」だけでは

 「親が気をつけていても子どもの事故は起きる。保護者の不注意を非難する『精神論』の予防策だけでは効き目がない」と話すのは横浜市の緑園こどもクリニックの山中龍宏院長だ。ホームページなどで予防策を呼びかけてきたが、「日本には子どもの事故を、予防に役立つ形で情報収集し共有する仕組みがなかった」と指摘する。

 事故情報の統計はあっても死亡例に限られたり、製品分類がおおまかで、詳細はつかめなかった。誤飲や浴室の水死など同じ事故が繰り返される現状に危機感を抱き、05年から国立成育医療センターやキッズデザイン協議会などと協力し、独立行政法人産業技術総合研究所内に「子どもの傷害予防工学カウンシル(CIPEC)」を開設。事例を集めて分析・共有する仕組みを作った。

 保護者に詳細を聞くことができ、けがの状態を客観的に把握できるとして、小児科医から4000件近いデータを収集した。以前は山中さんが手書きの図で残していた製品の形状や、けがをした体の部位などの記録を、同研究所の西田佳史さんら工学研究者がCGなどで見られるように蓄積する一方、子どもの行動特性も分析。製品をどう改良すれば事故が起きにくいのか、わかりやすく情報提供している。情報は今後、ネットで公開の予定だ。

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 ■子どもの事故に関する情報提供先

 ▽子どもの傷害予防工学カウンシル(CIPEC)

http://www.dh.aist.go.jp/projects/child/

 ▽国民生活センターの消費者トラブルメール箱

http://www.kokusen.go.jp/t_box/t_box.html

 ▽東京都「くらしの安全情報サイト」

http://www.anzen.metro.tokyo.jp/

毎日新聞 2008年11月2日 東京朝刊

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