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【社会】

国民として、認識されない現状 母、国政で変えたい

2008年11月2日 朝刊

 再婚した今の夫との子なのに、離婚後三百日以内の出産だと、民法の規定で前夫の子として戸籍に記載される「離婚後三百日問題」。そのため、出生届を出せずに無戸籍となる子どもが、年間三千人(法務省推計)にも上る。五児の母親としてこの問題に苦しんだ神戸市の井戸正枝さん(42)は「子どもたちの不利益はあまりに重大。国政の場で解決したい」と衆院選への立候補を決意した。 (出田阿生)

 井戸さんは二〇〇二年三月に離婚し、その後妊娠。同年十一月に今の夫との子である海如(みごと)君を出産した。やや早産で離婚後二百六十五日目の誕生だった。

 ところが、父親欄に今の夫の名前を書いた出生届が役所で認められず、「前夫の戸籍に子として記載される」と言われた。青天のへきれき。「離婚後三百日以内に出生した子は前夫の子と推定する」という民法七七二条が原因だった。

 「前夫との間の三人の子と、今の夫とを結ぶきずなをつくりたい」と妊娠した。離婚後妊娠は明らかで医師の証明書も取った。しかし、役所は門前払い。それならば司法の場で、と提訴したが、敗訴した。出生届を出せば、子どもは戸籍上前夫の子になってしまう。仕方なく出生届の提出を断念、海如君は無戸籍状態となった。

 井戸さんは六法全書と首っ引きで猛勉強を始めた。現行法で今の夫を父親にするには、裁判で前夫との親子関係不存在などの証明が必要だが、前夫の協力がないと証明は不可能だ。前夫を巻き込みたくなかった。

 勉強の過程で一九六九年の最高裁判例を知った井戸さんは、前夫を巻き込まずにできる可能性がある強制認知(形式的に今の夫に子を認知させる)という裁判手段を取り、一年後に正しい出生届を出せた。

 この方法はあまり知られていなかった。井戸さんは民間非営利団体(NPO)をつくり、無戸籍に悩む人たちの支援を始めた。だが、「裁判所で『前夫の協力がないとダメ』と判断する裁判官に当たれば、この方法も無理」だった。

 他人頼りでは何も解決しない。政治の場で解決しようと、〇三年に県議選に出馬。落選したがあきらめず、〇五年に初当選した。民主党の法務部会で民法改正作業に参加。上京を重ねるうち、国会議員として直接携わりたいと思い始めた。夫は猛反対したが、義父が後押ししてくれた。「五児の母として苦労している姿を選挙でぶつけてみなさい」

 民法七七二条は医学が未発達な明治時代、父親を早期に特定して子の法的身分を安定させる目的でつくられた。しかし、今ではDNA鑑定で父子関係を容易に証明できる。井戸さんは言う。

 「立法趣旨は子の福祉なのに、選挙権を持てないことを含め、戸籍がないために国民として国から認識されない子どもの不利益はあまりに重大。何をすべきかは明らかです」

 

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