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同一個夢想:ひとつの夢・北京五輪 ソフトボール「金」 山田恵里主将

 ◇無口だからプレーで 「女イチロー」決勝アーチ

 【北京・中本泰代】マウンドに集まった全員が、競うように天に向け人さし指を突き上げた。「1番だ」。21日のソフトボール決勝戦。日本代表は21日、宿敵・米国を3-1で破り、悲願の金メダルを手に入れた。自らのプレーでチームを引っ張り、鼓舞してきた主将の山田恵里選手(24)も中堅から全速力で駆けつけた。主将になって悩んだ日々、仲間の励まし、むさぼり読んだイチロー選手の本……。さまざまな思いを胸に、「女イチロー」はナインと抱き合った。

 1-0でリードした四回、先頭の山田選手が放った打球は中堅手の頭上を越えスタンドへ。何度も両手でガッツポーズを繰り返した。跳ねるようにして両足で本塁を踏む。チームメートにもみくちゃにされ、斎藤春香監督(38)にがっちりと抱きしめられた。

 神奈川県藤沢市の小学校に通い始めたころ、兄2人の影響で少年野球を始めた。中学では男子と一緒に野球部でプレーした。だが高校では女子は公式戦に出られない。名門・厚木商高に入学しソフトボールに転じた。

 走攻守三拍子がそろい、いつしか「女イチロー」の呼び名が定着した。負けず嫌いで一見ぶっきらぼう、強い信念を持っているところも大リーグ・マリナーズのイチロー選手(34)にそっくりだ。

 04年アテネ五輪は、チームで下から2番目の20歳で出場。1番・中堅手で全9試合に先発出場し、打率4割1分4厘と活躍した。

 07年3月、日本代表の主将に指名された。「チームをまとめよう。周りを見よう」と焦った。所属する日立ソフトウェアでも主将経験はなく、無口でシャイな性格も影響し、コミュニケーションの取り方や指示の仕方が分からない。「人生で一番しんどかった」

 副主将だった内藤恵美さん(28)に「自分がいけないんだ、もっとちゃんとやらないと」と泣きながら話した。内藤さんは「やりたいようにやってみなよ」と勇気づけた。

 山田選手は今春、書店で一冊の本を手に取った。「イチロー式集中力」(インデックス・コミュニケーションズ刊)。練習後や遠征に向かう飛行機の中で一気に読んだ。

 「この世界にいる以上、プレッシャーを背負っていくしかない」「周りの評価や成績に左右されるのではなく、自分がどうしたいかが大切」--。一流プレーヤーの姿勢が心に染みた。ふっ切れた気がした。「自分のプレーで引っ張る」

 チームも少しずつ一つになっていった。選手全員が「世界一」という共通の目的をひたすら追った。

 その夢の前に立ちはだかったのが米国だった。今大会で2度負け、この日の決勝が3度目の挑戦だった。

 七回裏2死。一塁の塁審がアウトをジャッジし、歓喜の瞬間が訪れた。けがで代表から離脱した内藤さんは観客席で見守り、「苦しんだ分、いい結果が出た。山田が頑張ってきた成果だ」と祝福した。

 12年ロンドン五輪では、ソフトボールは競技から外れる。「五輪は最後かもしれないが、ソフトボールは続いていく。自分たちのプレーを出し切れば、復活につながると思ってやった。その一歩になったと思う」。試合後、山田選手は涼しげに言った。イチロー選手のようだった。

 ◇「疲れ知らず、昔と同じだ」上野投手の恩師も涙

 「あのころと変わってないなあ」。2日間で3試合を投げ切り、チームを頂点に導いた上野由岐子投手(26)。米国をねじ伏せた力投をテレビで見ながら、福岡市南区の秋山新太郎さん(71)は小学時代の教え子の活躍を思い出した。

 自分が監督をするソフトボールチームに小学3年の上野選手を誘った秋山さんは「最初は女の子だとは思わなかった。男の子のように短髪で黙々と走っとってなあ」。チームで紅一点。最初外野を守らせた。他チームの監督から「手も長いので投手をやらせてみたら」と言われ、その通りにしたら頭角を現した。男子を押しのけエースの座に就き、1日3試合に登板したこともある。

 「子供のころも疲れた様子は全然見せなかった。きょうの決勝と同じように、力いっぱい投げ続けた」。日本代表のエースの力投が昔の姿とダブった。

 「最後までほんとようやった」。秋山さんは、歓喜の輪の中心にいる教え子がにじんで見えなくなった。【町田徳丈】

 ◇「先輩信じてた」--母校・九州女子高

 上野投手の母校・九州女子高(福岡市中央区)では、ソフトボール部の後輩や教職員ら約150人が講堂に集まり、北京に届けとばかりに大型スクリーンに向かって声援を送った。最終回、ゲームセットとなると、生徒らは立ち上がって喜びを爆発させた。

 2年生で投手の貫彩紗(ぬきあやさ)さん(16)は1年前、母校に立ち寄った上野投手から腕の振り方などを直接教わった。「先輩ならやってくれると信じていた。世界一の投手です」と興奮気味に話した。【阿部周一】

毎日新聞 2008年8月22日 東京朝刊

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