【第1回】 2008年10月16日
「うつ」は心の弱い人がかかるもの?
――「うつ」にまつわる誤解 その(1)
「うつ」は心と身体のストライキ
それではいよいよ、「うつ」の状態について見ていきましょう。
【図2】 |
生き物として人間の中心にある「心」=「身体」に対し、進化的に新参者として登場してきた「頭」が、徐々にその権力を増大し、現代人はいわば、「頭」による独裁体制が敷かれた国家のような状態にあります(【図2】参照)。
それに対して、国民に相当する「心」=「身体」側が、「頭」の長期的な圧政にたまりかねて全面的なストライキを決行する。もはや、「頭」の強権的指令に一切応じなくなる。これが「うつ」の状態です。(中には、過酷な奴隷扱いがあまりに長期間にわたった結果、「心」=「身体」がすっかり疲弊してしまい、ストライキというよりも、潰れて動けない状態になってしまっている場合もあります。)
「精神力」の強い人こそ危ない
私はこれまで「うつ」のクライアントをたくさん診てきましたが、どの方にも共通して認められる特徴があります。
それは、意志力の強さと我慢強さです。これは、先ほどの説明になぞらえれば「頭」のコントロール力が強いということであり、「頭」が「心」=「身体」に一方的に命令をし、クレームを一切聞き入れない体制がガッチリ敷かれている状態のことです。
ですから、多くの場合、発症前までは、責任感が強く完全主義的でありながらも他者配慮も欠かさないような、いわゆる「過剰適応」であった人たちが、その果てに「うつ」に陥っているのが実態です。巷(ちまた)で「精神力」と言っているのは、まさにこの「頭」の強権的コントロール力のことなのですから、むしろ「精神力の強い人こそ、『うつ』になるリスクが高い」と言うべきです。
「頭」の支配から脱却せよ!
「うつ」のこのようなからくりがおわかり頂ければ、誰が考えても解決の方向は「民主化」以外にないことははっきりしています。つまり、「頭」支配から脱却し、「心」=「身体」を復権させることです。
しかし残念なことに、往々にして「頭」は、「心」=「身体」のストライキに対して以前にも増して「働け!」と命令し続け、それでも応じない自分自身を「生きる価値のないダメな奴」と見なし、自殺願望へと向かってしまうというような、泥沼状態のケースも少なくありません。(「心」=「身体」の復権にむけての考え方や療養のポイントについては、次回以降の連載の中でも、様々な形でお伝えしていくことに致します。)
このように、わけあって「心」が動かなくなったのが「うつ」の状態の真の姿です。それを、事の表面だけを見て「心が弱い」「精神力が足りない」と見るのは、いかに実態と程遠いものであるかがおわかり頂けたと思います。この理解があれば、なぜ「『うつ』の人を励ましてはいけない」と一般的注意として言われているのか、なぜ「うつ」の人を叱ったり発破をかけたりすることでは解決しないのか、などなどがすんなり納得できるのではないでしょうか。
次回は、「うつ」というものはどのように始まるものなのか、どんな状態が発症の兆候なのだろうかといった、どんな人でも気がかりなポイントに迫ってみたいと思っています。
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泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。日本芸術療法学会会員。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)がある。「泉谷クリニック」ホームページ
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。