1858年に日英修好通商条約が締結され、日本と英国の外交関係が樹立されて今年で150年。それを機にチャールズ英皇太子夫妻が10月27日から5日間の日程で来日し、東京を拠点に奈良と長野を訪問した。皇太子は地球温暖化対策に積極的に取り組んでおり、日本国民にも対策の重要性を訴える一方、2005年に再婚し、初来日となったカミラ夫人を紹介する機会にもなった。
チャールズ皇太子夫妻は27日夕に来日して以降、28日に、日英修好通商条約が締結された年に創立された慶応義塾(東京・三田)をまず訪問し、大学生らと交流した。出迎えた学生と握手しながら皇太子は「Study Hard!(勉強を頑張りなさい)」と声をかけ、学生らが演じる歌舞伎などを鑑賞した。
慶応義塾は近年、先端技術や科学、医療の分野を中心に、英国の教育機関などとの交流を深めていることもあって、皇太子夫妻は慶応義塾大学の大学院メディアデザイン研究科を訪ねて、先端技術研究の説明を受けた。院生が開発したという、ペットのように反応する双方向型照明器具にとくに関心を示し、声を出して笑いながら機具に触れていた。“マイ箸”の携帯促進プロジェクトに参加している留学生に「はしは使えるのか」と話しかける一幕もあったという。
その後、皇太子は日本科学未来館(東京・青海)で、環境に関する資料などを見学し、講演で地球温暖化対策の重要性を訴えた。皇太子は二酸化炭素の排出を削減するための取り組みを自ら率先して行っており、ふだんの移動では車ではなく電車を使うことを励行している。車の燃料でもワインの製造過程で不要になった成分を基にしたバイオ燃料を使うようにしているともいう。
29日は夫妻で奈良県を訪れ、日本の文化や伝統工芸を視察した。東大寺(奈良市)では、カミラ夫人が出迎えた幼稚園児に「サンキュー」と笑顔で声をかけ、場を和ませていたという。「なら工芸館」(奈良市)では、赤膚(あかはだ)焼の素焼きに夫妻でサイン。一刀彫(奈良人形)の製作実演も鑑賞した。皇太子は前日の地球温暖化対策をめぐる講演で、日本の伝統を守る姿勢を、環境を守る行動になぞらえ、奈良訪問に期待していた。
大手家電メーカー、シャープの天理事業所も訪問。環境対策に関連して、皇太子は新たなエネルギー開発のひとつとして太陽電池パネルの開発、製造に関心を持ち、現場を視察したかったようだ。一方、カミラ夫人は大阪市中央区の府公館を訪れ、府内の子供たちに、「英語は話せますか」「国際交流の授業で一番楽しかったことは」と話しかけて交流した。
30日は夫妻別行動で、皇太子は長野で英国出身の作家、C・W・ニコル氏の財団が所有する「アファンの森」視察。英国で始まった保護運動、ナショナル・トラストに似て、財団で荒廃した里山を少しずつ買い取って森に再生させたもので、皇太子にもなじみ深い場所だったようだ。カミラ夫人は医療問題に関心を持ち。東京都内の聖路加国際病院を訪れて子供たちを見舞った。夫人は患者の精神的なケアを目的に飼育されている犬に興味を示し、入院中の子供には「時間がいっぱいあるから、ここの方が学校より勉強できるかも。学校に戻ったら、成績はトップよ」と励ましたという。
皇太子の来日は1990年の即位の礼以来、18年ぶりとなるが、その4年前の86年にダイアナ王妃を伴って日本を訪れ、京都などを訪問して熱狂的な歓迎を受けたことがある。ダイアナ人気で日本もわいていたときだけに、日本の報道陣からも異常なほどの注目を浴びた。当時と比べると、22年の歳月がたったとはいえ、今回はいたって地味な訪問となったようだ。
ダイアナ王妃との離婚、その後、ダイアナ元妃のパリでの衝撃的な自動車事故死で、皇太子を取り巻く雰囲気は悪化をたどり、エリザベス女王をはじめとする英王室も元妃の事故死への対応の遅れで批判を浴びた。だが、最も扱いが難しかったのは、皇太子と現在のカミラ夫人との長い関係が離婚を招いたことだった。2005年にようやく皇太子はカミラ夫人と再婚したとはいえ、波紋を広げた。
再婚に至った要因には、次期国王となる皇太子が離婚後も独身に戻ったままでは好ましくないという思いがあった。英国国教会が皇太子の再婚を認める方針を取ったことがきっかけになった。だが、英国では、ダイアナ元妃への国民の思いはなお残り、高い人気を保っているエリザベス女王の治世が続くことを望む一方、元妃の面影を残す皇太子の長男で王位継承権2位のウィリアム王子が国王になる日を待ち望んでいるといわれる。
ただ、ダイアナ元妃への思いも事故死から時間がたつにつれて薄れつつあるようで、カミラ夫人も内外で親しみを持ってもらうことが必要になってきそうだ。元妃も来日時にはたびたび病院を訪問しており、同じ路線で臨む姿勢に、英王室の一員としてこれまでの印象を大きく変えたくないという思いが感じられる。今回の初来日ではおおむねどの訪問先でも印象は悪くはなかったようだ。
皇太子夫妻は今回の来日で麻生首相夫妻とも懇談した。外遊では、高齢のエリザベス夫妻と夫君のフィリップ殿下の代理を務めることも多くなりつつある。だが、皇太子は政治的な発言で物議を醸すことも過去にしばしばあり、皇太子をサポートするカミラ夫人の言動も英王室には重要になってくるかもしれない。
チャールズ皇太子夫妻は31日に日本を発ち、次の訪問国であるブルネイとインドネシアに向かった。
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