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【国際】

映画封切り機に開始 戦時の性暴力 ドイツで本格調査

2008年11月2日 朝刊

 第二次世界大戦終結前後、ドイツの女性が旧ソ連兵から受けた性暴力をテーマにした同国初の映画が封切られた。彼女らが受けた心身の傷は、長く触れられなかった問題。戦後六十三年目にして本格的な調査も始まった。 (ベルリン・三浦耕喜)

 ベルリンのがれきの中を生き延びた二人の女性が再会を果たす。抱擁を交わして尋ねた。「あなたは何回?」「私は四回」。ソ連兵にレイプされた回数が、当時の女性のあいさつ代わりだったという映画のシーンだ。

 映画は「匿名希望−ベルリンの女」(原題Anonyma−Eine Frau in Berlin)というタイトルで、先月二十三日に公開された。ベルリン在住ジャーナリストだった女性の日記に基づく実話だ。

 映画では、生きるために暴力にさらされるしかなかった女性の屈辱と強さを描く。酔ってアパートのドアを激しくたたき、銃を突きつけて女性を探す兵士。ソ連軍の将校は「わが軍の兵士は健康だ(だから性病の心配はない)」と訴えにも耳を貸さない。一方のソ連兵もナチスに家族を殺された傷を負う。性暴力を扱いながらも、一方的な告発ではない。

 当時暴行を受けたドイツ人女性は二百万人ともされているが、定かではない。被害は長く検証できなかったためだ。特にソ連が占領した東側では、旧ソ連兵の多くが女性を犯したことは語ることのできないタブーに。深く傷ついた被害者も沈黙を貫いた。

 日記は一九五九年にスイスで一度出版されたが、当時はドイツ国内で激しい反発を招いた。再出版の話もあったが作者は「本人の死後、匿名が条件」として、生前は日記を封印した。作者の死後、二〇〇三年に再出版されると日記は十五万部を売るベストセラーに。映画化に伴い、注文が殺到しているという。

 これをきっかけに、被害をめぐる調査も始まった。独東部グライフスバルト大学は先月二十日から専用電話を設け、ベルリンなど旧東側を中心に、生存する被害者の声を集め始めた。六十年以上を経ても記憶がよみがえって「フラッシュバック」に苦しむ例もあり、心のケアも課題だ。

 ドイツ戦後史に詳しいイエナ大学のジルケ・ザテュコフ博士(43)は「本人だけではなく、多くの子どもたちも母親や姉妹が乱暴されるのを目にした。この十年や十五年間、ますます多くの高齢者が心の病で診療を受けている。戦争中のつらい経験が原因の場合がある」と話している。

 

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