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「この世界は・・・」

 

フォルクが辺りをながめて呟く。

 

「どうした?」

 

「俺の・・・故郷」

 

「えぇ!?ここが?」

 

俺達が仕方なく通過する世界・・・。

その中にフォルクの故郷があったなんて、すごい偶然だ。

 

「・・・そういえばフォルク」

 

俺はドガッと地面に座る。

芝生が手に触れて心地よい。

 

「お前・・・どうしてエターナルになったんだ?」

 

「・・・実はな・・・憧れてる人がいるんだ」

 

フォルクがゆっくりと話し始める。

懐かしむように、微笑みながら・・・。

 

 

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「ぐっ・・・!しっかりしろ!!」

 

俺は傷つき、倒れた仲間を抱く。

 

「たい、ちょう・・・すんません・・・」

 

「死ぬな!頼むから・・・死なないでくれ!!」

 

「隊長・・・いきの・・・びて・・・くだ」

 

 

「〜〜〜〜ッッ!!!」

 

 

隊員はゆっくりと息を引きとった。

俺は鳴き声を噛み殺して・・・俯いていた。

 

その隊員も他の隊員のようにマナへと・・・。

 

「くっそォォォオッッ!!!」

 

俺は空に向かって叫んだ。

 

ザザッ!!

 

俺を囲む敵・・・。

その誰もが、俺を早く殺したい、と目で訴えている。

 

「殺すなら殺せ・・・もう、俺の生きる意味はないんだ・・・」

 

 

隊員は全滅し、俺だけ生き延びてどうしろというのだ・・・。

俺にコイツらの剣を持って、遺族に会いにいけ?

どんな顔をすればいい?

なんて言葉をかければいいんだよ・・・。

 

 

「殺す・・・俺の親友をよくも殺したなァァアッッ!!?」

 

 

そう・・・戦いは、こうしてお互いを憎ませるだけ・・・。

だけど・・・単純な感情だからこそ、とめられない。

いつになったら戦いの連鎖は止まるのだろう?

人間はそうやって口先だけの警句を出しては戦いへと身を投じている。

 

 

ある人は指示する立場で・・・

ある人は前線で・・・

ある人はもっと上の組織で・・・

 

 

そうして、自分の中の憎しみを相手にぶつける。

もしくは、利益や社会的地位を狙って・・・。

やはり・・・わかっていながら、戦いをとめられないのは人間が愚かだからなんだろうか?

 

 

『それは違うんじゃねーか?』

 

「え・・・?」

 

誰だろう?

俺に語りかけてくる声・・・。

俺は気になって目を開く。

 

「あなたは・・・?」

 

俺を敵から守るような位置に誰かが立っていた。

逆光のせいで男か女かもわからない。

小柄・・・のはずの背中がとても大きく見えた。

 

『人間が愚か?違うだろ?少なくとも、そうやって感じている君は愚かじゃないんじゃないのか?』

 

「・・・」

 

『愚かなのは、憎しみのままに・・・その力を振りまわす野郎さ』

 

「・・・」

 

『君は、まだ死んじゃいけないだろ?やるべきことがあるんだから』

 

「やるべき・・・こと?」

 

『君は生きぬく義務がある。隊員のためになにか償いをしたいと思いながら、隊員の願いを投げ捨てるつもりなのか?』

 

「あ・・・」

 

『どんなに恥でも、君には生きる義務がある。それを捨てて・・・君はその先に何を見る?なにもない』

 

「・・・」

 

『死んだら終わり。悔しいなら、償いたいなら、生きなくちゃダメだ。そして・・・自分なりのケジメをつけろ。男だろ?』

 

「・・・」

 

『それをすると誓うなら、助けてやるよ。だけど・・・それが口先だけだった場合は、俺が君を殺しにいく』

 

「・・・望むところですよ」

 

俺はさっきまでのかげりが晴れて行くのを感じる・・・。

 

「俺なりのケジメってやつを・・・つけさせてもらう。誓う」

 

『よし・・・んじゃ、やるか!』

 

その人影は敵陣のど真ん中に飛びこんで・・・。

 

ズガアァァァア!!!

 

一撃で全員をなぎ倒した。

 

 

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「と、いうわけなんだ」

 

「カッコイイなぁ!!その男」

 

ユウト達は少々興奮気味だ。

 

「で、その方がエターナルだったわけですね?」

 

「うむ」

 

「あれ?だけどフォルクはなんでその人の事をエターナルになるときに覚えていたんだ?」

 

「きっと・・・俺がエターナルになるまで、同じ世界のどこかにいたんだろうな」

 

「なるほど・・・。いやぁ、アスナもあれくらい格好良ければねぇ」

 

ヒカリがなんとなくアスナを見る。

するとアスナはどこかオドオドしていた。

 

「どうしたの?脂汗?」

 

「い、いや!なんでもないよ!あ、俺花摘み」

 

「素直にトイレと言え」

 

スタタタと去って行くアスナ。

よほど我慢していたのだろう。

 

「さぁて・・・今日の寝床も考えないとな」

 

「あ・・・ユウト、悪いのだが・・・俺、今夜は別行動したいのだ」

 

「故郷だもんな。いいよ、いってこい」

 

「ありがとう!それじゃ明日の朝方には戻る!」

 

フォルクは嬉しそうに走りだした。

 

「素直なヤツ・・・。それじゃ、トキミ、ヒカリ、カナリア・・・寝床捜すか」

 

「そうですね」

 

 

 

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「ヤベヤベ・・・まさかあれがフォルクだったなんて」

 

{なぁアスナ・・・あの話、絶対・・・}

 

「しーっ!!あれが俺なんて知られたら超赤っ恥なんだから黙ってろよ?」

 

{確か・・・スフィアと賭けに負けて、なんでも言う事聞くってので・・・}

 

「うぅ・・・マジ恥ずかしいぜ・・・」

 

キィンッ!

 

「来たッ!!」

 

{便秘なのか?随分遅かったな出すの}

 

「ちげーよボケッッ!!!ロウだよロウ!!」

 

{ろう?あぁ・・・下痢だったのか}

 

「いい加減にしないと折るぞこのヤロ・・・!」

 

{冗談冗談。んじゃ・・・みんなに連絡いれとくぞ}

 

「おう」

 

俺は颯爽・・・としてないけど飛び出して、反応の方へと走りだした!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

俺はある家の前にいた。

最後に息を引きとった隊員の家・・・。

どうしても、エターナルになる前にはいけなかった。

だから・・・今こそ言わなくては。

 

相手は覚えてない。

卑怯だってわかってる。

でも・・・ケジメはつけなくてはいけない。

 

コンコン・・・

 

俺は静かに家をノックした。

 

「はい、どちらさま?」

 

「あ・・・」

 

あの隊員が自慢していた奥さん・・・。

写真で見たときよりかなり老けているが、面影でわかった。

 

「どちらさま?」

 

「実は・・・旦那さんのことで・・・」

 

「・・・どうぞ」

 

なにも聞かずに家に通してくれる。

俺は決意を鈍らせないように一歩一歩踏みしめた。

 

 

 

 

 

「主人が・・・そうだったんですか・・・」

 

俺は全てを話した。

俺がエターナル云々の所は半信半疑だったようだが。

 

「謝って済む問題ではないとわかっています。ですが・・・どうしても、顔を合わせて謝りたくて」

 

あの全滅は・・・俺のミスだ。

調子に乗って、諜報部のあやふやな情報を鵜呑みにしたせいで・・・。

 

「主人は・・・きっと幸せでしたよ」

 

「え・・・?」

 

「だって・・・こんなに良い上司さんに会えたんですから。何十年経っても覚えててくれる人に・・・」

 

「奥さん・・・」

 

「今のお仕事も大変なのでしょう?」

 

「・・・」

 

俺は俯いてしまう。

辛そうに言葉を紡ぎ出す彼女の顔が見ていられなくて・・・。

 

「ですから・・・私と主人のことは、もうお気になさらないで」

 

「・・・すみません」

 

俺は深くお辞儀した。

 

「私も・・・主人の笑顔が久しく想い出せましたから・・・」

 

「・・・」

 

「あなたのおかげで・・・ね。だから・・・胸を張って、戦ってください」

 

「はい・・・っ!!」

 

俺はしっかりと返事した。

 

 

 

ピキィンッ!!!

 

「!?」

 

ガッシャアァァァアッッ!!!!

 

何かの警告に反応する前に家が崩れた!

俺は奥さんをかばってそのまま瓦礫から這い出る。

 

「まさか・・・ロウが!?」

 

「・・・」

 

チャキッ・・・!

 

「・・・」

 

俺は黙って睨み付ける。

俺ののどもとにはロウの剣が・・・。

 

「フォ、フォルクさん・・・」

 

「大丈夫です、奥さん・・・」

 

俺はロウの神剣を握った!

稽古でアスナにしょっちゅうやられた。

アスナは振るった剣でも素手で握ってしまう怪物だ。

あいにく俺はそこまで怪物じゃない。

だけど・・・とまってる剣なら俺だって掴める!

 

ズガアァアァッ!!!

 

俺はロウを蹴り飛ばして奥さんと共に飛ぶ。

 

「絶対にあなたを殺させはしません・・・!」

 

「え・・・?」

 

「あなたは・・・あの隊員の命よりもだいじな人。なら・・・私にとってもあなたは命よりも大切なんです!!」

 

「フォルクさん・・・」

 

ビュゥウゥッ!!!

 

「!?」

 

ブズゥウゥ!!

 

鈍い音がした。

腹を見ると、俺の腹をつき抜け・・・抱えていた奥さんにまで剣が届いていた。

 

「奥さんッ!?グッ・・・」

 

つい大声を出してしまった。

そのおかげで口から血が出てきて、バランスを崩し地面に倒れてしまう。

 

「おく・・・さんっ・・・!」

 

「フォル・・・クさん・・・私も・・・幸せ・・・でし・・・」

 

だんだんと細くなる目・・・。

デジャヴ・・・隊員を守れなかったあの日・・・。

 

「なっ・・・やめてくれ・・・っ!死ぬな・・・っ!」

 

 

あまりの恐怖にからだが震える。

自分の死よりも恐い・・・大切な人の死・・・。

 

 

「ふっ・・・」

 

軽く微笑んで・・・彼女の体は消えて行く・・・。

やめてくれ・・・もう・・・こんな傷は負いたくない・・・。

頼む・・・。

 

「誰か・・・誰か、助けてくれぇえぇッ!!!助けて・・・くれよぉおッ!!!」

 

 

みっともない叫び・・・。

でも・・・これで彼女が助かれば・・・

そうやって、自分の心に言い訳したいんだ。

『俺はできることはやった』

そういう心の逃げ道を作りたくて・・・俺はきっと叫んでいる。

 

 

『はいは〜い、呼ばれて飛び出てアスナちゃん』

 

「!?!?」

 

目の前に一つの人影・・・。

それは今日2度目のデジャヴ・・・。

まさか・・・

 

まさか・・・・・・

 

『お前なりのケジメってやつを見せてもらったぜ。まァ・・・合格点ギリギリかな』

 

{よくも偉そうに・・・。お前だったらどうするんだ?}

 

この漫才コンビは・・・。

 

『そうだなァ・・・』

 

 

 

 

 

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「奥さん、俺が旦那さんの変わりになってあげます」

 

「えっ?そんな・・・ダメですよ・・・」

 

「寂しいんですよね?わかります・・・独りって」

 

「アスナさん・・・」

 

「寂しい時は泣いてもいいんですよ・・・?俺はあなたの悲しみを受け止めてあげたいんです」

 

「アスナさんっ!!」

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『みたいなァ?』

 

{死ね。真面目に聞いた俺がバカだった。とっととやるぞ?}

 

『ちぇ・・・つれないな。ん・・・新星よ!消えてゆくものをつなぎとめ、新しい力をっ!!』

 

プワァアアァアッッ!!

 

光があたりを包み、マナがひと型に構成されていく・・・。

光がおさまっていく・・・。

そこには、さっき消え去った彼女がいた。

 

『ついでだがフォルクの傷も治しておいた。後は・・・最後のケジメをつけるんだな』

 

人影はあの時のように敵陣の中へいくのではなく・・・

森の中へと入っていった・・・。

 

「いわれなくても・・・」

 

俺は立ち上がる。

ゆっくりと超越を構えた。

 

「終わらせるさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お別れの挨拶はいいのか?人妻好きのフォルク君?」

 

「誰がだ。別にいい・・・この世界を離れたら、どうせ俺のことなど忘れる」

 

「ほほぉ・・・」

 

アスナがやたらニヤニヤしている。

まァ・・・どうせまたくだらないことでも考えてるんだろう。

 

「それに・・・俺は彼女の夫を奪ったからな」

 

「・・・その言い方ではイロイロ問題あるな、うん」

 

「う・・・。と、とにかく!いくぞ!!」

 

フォルクが門をくぐろうとした。

その時・・・。

 

『フォルクさ〜ん!!』

 

「え・・・?」

 

フォルクが後ろを振り向く。

 

ケケ・・・やっぱりな。

そんな表情のアスナが見えたが無視。

 

「また来てくださいね!まってますから!」

 

(その気持ちもすぐになくなるんだろう・・・。だけど)

この温かさを少しだけ味わえて・・・本当に良かった。

 

「・・・」

 

「あ、勘違いしないでくださいね?私が好きなのは一生あの人だけですから」

 

「わかってる。それじゃ・・・いってくる!!」

 

フォルクは照れ隠しのように門に飛びこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、フォルク、言い忘れてた」

 

「ん?なんだアスナ?」

 

「あのひと、助けてやった恩で現地調査人にしたから」

 

「ハァ?なにそれ」

 

「エターナルに現地の情報をくれる人。つまりはエターナルの仲間」

 

「なにィ!?!?!?!?」

 

 

「もちろんエターナルではないから周囲の記憶抹消は起こらないけど、エターナルの記憶抹消も起こらない。

つまり・・・周りから忘れられず、エターナルを忘れることもないってこと」

 

 

「おまっ・・・!なんで勝手に!?」

 

「いやァ、『フォルクさんを忘れない方法はありませんか!?』って強く迫られちゃねぇ・・・」

 

hahaha!と笑い飛ばすアスナ。

 

「こ、この・・・」

 

「え?」

 

「・・・ふゥゥゥゥ・・・」

 

「え?」

 

プルプルしてたのに、攻撃してこない。

一体どうしたんだ?

 

「・・・あの時のエターナルって」

 

「!!」

 

ヤベッ!?勘付かれた!?

 

「・・・なんでもねー。まさかな。あんなカッコイイひとがお前なわけないよな」

 

今度はフォルクがhahaha、と笑った。

 

(むぅ・・・そう言われるとなんだかなァ・・・ま、いっか)

 

アスナはフォルクの後ろをゆっくり歩いていった・・・。

 

 

 

 

 

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