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「よしいくぞ!」

 

俺は門を開く。

五人のうち四人はあまりいい顔をしていないが、仕方ない。

俺は門の中に飛び込む・・・。

 

 

 

 

 

 

「さぁて、着替えるか」

 

オレ達はこの世界で一日休むことにした。

そして、目の前には海がある。

ここまできたらみなさんおわかりだろう!

そう、サービスタイムッ!!

 

「いいのか?こんなゆっくりしてて」

 

ユウトが当然の疑問を思う。

 

「いいんだよ。こうやって息抜きしないと戦い抜けない。先は長いんだし、休めるときに休んでおく!」

 

俺は用意してきた水着に着替える。

 

「で、本音はなんなのだ?」

 

フォルクがつぶやく。

 

「もちろん、みんなの水着がみた・・・」

 

「ふぅん・・・?そうなんですか・・・」

 

「・・・」

 

ダラダラとイヤな汗が流れる。

カナリアの冷たい声だ。

だから、緊急退避。

 

「男が着替えてる所にいるなんて、エッチッ!!」

 

「黙りなさい!このスケコマシ!!」

 

「なっ!俺がいつスケコマシ・・・!?」

 

「知ってるわよ!あなたがどれだけの女性をもてあそんだか!ローガスが頭抱えてる所何度も見たのですからね!」

 

「なっ!くっ・・・!バレてたか・・・!」

 

「・・・本当だったんですか!!」

 

「え?なっ・・・!」

 

しまった。

カマに引っ掛かってしまった。

 

「女の敵!成敗しますっ!!」

 

カナリアは背光に手をかけた。

 

「ま、待った待った!」

 

俺は両手を前に出して制止のポーズを取る。

だが、背光は勢い良く振られ・・・

 

ベイィンッ!!

 

俺の脳天を直撃した。

あまりの揺さぶりに俺はグラグラして倒れる・・・。

 

「全く・・・カナリアとアスナって仲良いよな」

 

「うむ・・・美しきことかな」

 

「なっ・・・!違います!」

 

カナリアが否定するも、派手に赤面していては説得力がない。

それがわかったのか、途中から俯いてしまう。

普段クールなだけにこの反応はめずらしくて可愛い。

 

「・・・カナリアも変わったんだな」

 

「え?」

 

ユウトがなつかしむような声を出す。

 

 

「・・・ファンタズマゴリアの時に、セリアっていうカナリアそっくりの人がいたんだよ。

知らない?ツンケンしてて、取りつく島がないというか・・・。

でも、最後には俺のことを気遣って、嬉しい言葉も言ってくれるようになったし・・・。だから、カナリアに似てるなって」

 

 

はは、と笑うユウト。

 

「私はツンケンなんかしてません」

 

ピシャリと言い放つその姿こそがセリアそっくりだ、と笑うユウト。

 

「それが今じゃ神剣をハリセン代わりにして、アスナを一日三回はぶっ叩いてるんだからな」

 

「昨日は五回だった気がするな。ほどほどにしないと、アスナの頭が壊れてしまうぞ?」

 

フォルクもニヤケながらカナリアに言う。

 

「・・・もう、知りません!」

 

そう言って、からかわれるのから逃げるカナリア。

完全敗北・・・背中にはそうかかれているように見えた。

 

というか・・・なぜか本当にはり紙がしてあった。

 

「ふふ・・・」

 

見ると、倒れていたアスナがペンを投げてはパシッと取っていた。

 

「おまえなぁ・・・」

 

ユウトがあきれ顔でアスナの笑みを見る。

後で血を見るぞ、と言いながら水着に着替えるユウト。

フォルクもそれにつづく。

 

ピシャァアァッ!!

 

「!?」

 

突然大きな力が現われた。

見ると、カナリアが背後に炎をたぎらせてこっちをにらんでいる。

手には、さっきの紙。

 

「・・・あはは」

 

 

「ふふ・・・!神剣よ、マナよ、我に従い、彼の者を滅ぼせ。

いくらでも破壊してかまわない、いっそ再起不能になるほど痛め付けろ。さあいって!」

 

 

カナリアがくしゃくしゃに丸めた紙を投げる。

 

(つうか後半絶対詠唱じゃないだろ!)

 

カナリアの紙が飛んでくる。

なんの変哲もないただの紙・・・

 

そう、途中までは。

 

ドゴォオォッ!!

 

「っ!?!?!?」

 

俺の寸前で突然巨大化し、炎を纏う。

 

ピカァッ!!

ドガァアアァアァッ!!!

 

「ぎゃぁあぁぁっ!!?」

 

避ける事もできずに顔面にくらってしまった・・・。

 

バタッ!

 

「・・・アホ」

 

「アスナ・・・忘れぬぞ」

 

二人は合掌する。

そして、まだプスプスと煙をあげるアスナを置いて部屋を出たのだった・・・。

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

俺は部屋に座り込む。

 

{全く・・・アホだな、お前は}

 

「新星か」

 

{おまえがまだロウに支配されていない世界に滞在する理由が、ただの息抜きではないことぐらいわかっているさ}

 

「はは・・・」

 

俺は右手で後頭部を掻く。

心で繋がっているというのは結構迷惑なもんだな。

 

{一時的な蓋をしてるんだろう?世界に}

 

「・・・まあな」

 

俺はまだ支配されていない世界には、出ていくときに一時的な蓋をしていた。

それは、これからロウに支配されるのを防ぐため。

 

「やっぱり、世界はあるがままであってほしいしな」

 

{だからといって・・・そういうヤツだとバレないためにおちゃらけるのはどうかと思うがな}

 

「何言ってるんだ。やることぐらいはやるさ。それに・・・ヒカリ達の水着姿とか、楽しみがいっぱいあるからなぁっ!!」

 

俺は立ち上がる。

さぁ、いこう!男のパラダイスへ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉおぉっ!!」

 

いきなり声をあげてしまう。

そこにいたのは・・・トキミとヒカリとカナリア。

なんとなくカナリアの視線が痛いのは無視。

 

トキミは白のワンピースタイプ。

ちょっと上がボリューム足らないかな?と思うけど、白い肌によく映えている。

 

カナリアはシンプルな白いビキニ。

かなり素晴らしいスタイルを強調して、これまたかなりイイ!

 

そして・・・驚いたのがヒカリ。

トキミと同じくらいの身長なのに、スタイルがカナリア並みだった。

おそらく、着痩せするタイプなんだろう。

これには驚いた。

水着は青いビキニ。

髪が赤いため、ちょっと違和感があるが、まぁ急ごしらえなのだからしょうがない。

でも、それでも十分な魅力があふれだしている。

さっきから住民の視線が釘づけなのはそのせいだろう。

 

 

 

「綺麗だ三人とも」

 

「あ、ありがとうアスナ」

 

「あら、ありがとうございます」

 

「・・・」

 

う・・・カナリアだけ鋭い視線のままだ。

 

「さ、さぁて、せっかくだし、泳ごうか!」

 

「そうですね、せっかくですし。ユウトさん」

 

「え?」

 

フォルクと海に入ろうとしていたユウトを引き止めるトキミ。

 

「一緒にいきましょう?」

 

「え?でもフォルクが・・・」

 

「いいですよね?ユウトさんを借りても」

 

「ああ、目一杯楽しむといい」

 

「いきましょう、フォルク」

 

「え?あ、あぁ」

 

俺を一瞥してフォルクと海に入るカナリア。

うぅ・・・少し泣きたくなってきた。

でも、今は目の前にあるパラダイスを楽しむべきだ!

 

「いこう!ヒカリ!」

 

「うん!」

 

カナリアとは違い満面の笑みで俺の手を握ってくれるヒカリ。

 

(どうせだったら、みんなですいか割りとかバレーとかしたかったんだけどな)

 

そうすればポロリとかあったかもしれないし・・・むふ。

 

「アスナ?なんか顔がすごいよ?」

 

「あ?え!?なんでもないって!」

 

危ない危ない。

俺は指で頬を上げる。

 

「それぇっ!」

 

バシャァアァッ!!

 

背中から水が飛んできて、頭からかぶってしまった。

 

「つめてっ!!ヒカリ、なにすんだ!?」

 

「あはは!変な顔!!」

 

俺を指差して笑うヒカリ。

 

ま、眩しい!

 

太陽以外で。

つい右手をかざしてしまう。

 

「このやろう!ええのんか〜?ええのんか〜?」

 

俺は手をワキャワキャさせ、グヘヘと笑いながらヒカリに迫っていく。

 

「捕まえられるなら捕まえてみれば!?そう簡単には捕まらないからね!」

 

バシャバシャッ!!

 

ヒカリが神剣の力を借りて、猛スピードで泳ぎだした!

世界選手権出場選手も真っ青の速さだ。

つうか水しぶきが滝のようになってるし。

 

「ふふ・・・泳ぐなんてぬるい!見よ!伝説がよみがえる!!」

 

俺は神剣の力を引き出した。

 

ザブゥンッ!!

バシャシャシャシャァアァッ!!!

 

俺は水面を走りだす!

 

「なっ、あれは!伝説の・・・!?」

 

海に来ている全員がその光景に驚く。

開いた口が塞がらない。

かたやF1より恐い勢いの女性、かたや水面を走る男・・・。

 

「あんなことに神剣使うなよな・・・」

 

「でも、楽しそうですね」

 

トキミがほほえむ。

それを見て、ユウトはついつられてほほえんでしまう。

 

「あの二人って、結構仲が良いですよね」

 

「ああ。精神年齢が近いのかもな」

 

「それだけじゃないですよ。ふふ、あれがアスナさんの魅力なんでしょう」

 

「・・・そうだな、はは」

 

俺も今はこの瞬間を目一杯楽しもう、そう思ってトキミに水をかけるユウトだった。

当然、甘ったるくてムカムカして打ち壊したくなるような雰囲気を形成したのは言うまでもない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・疲れた」

 

オレ達は部屋に戻って着替えた。

このあと、みんなで花火をやる。

トキミ達は浴衣に着替えている最中だ。

 

「むふ・・・」

 

俺はこそこそとトキミ達がいる部屋のドアノブへ、手をかけようと腕をのばす。

 

「やめておけって」

 

ユウトが言うも、俺はやめない。

フォルクはいつものことだ、と諦めている。

だからユウトはフォルクと小さく喋る。

 

「俺はトキミじゃないけど、未来がわかるぜ?」

 

「なに?本当か?」

 

「ああ。まず、あそこでドアノブが回るんだ」

 

ガッ・・・

アスナがドアノブに手をかける前にドアノブが回った。

 

「んで、そこからカナリアが現われる」

 

『ア・ス・ナァアァッ・・・!』

 

『ひっ!』

 

「アスナが言い訳をする」

 

『こ、これはみんながロウに襲われてないかなって!』

 

「カナリア、一旦納得する」

 

『ふぅん・・・?それはありがとう』

 

『あ、あはは!男として女を心配するのは当然さ!』

 

「・・・カナリア、キレる」

 

『このエロスナッ!!それなら神剣でけはいでも探ってなさぁあぁぁいッッッ!!』

 

「神剣魔法炸裂」

 

『え、エロスナッ!?俺か!?俺なのか!?』

 

シャイニング・・・シュゥゥゥトッ!!!

 

ピカァアァッ!!!

ドゴォォオォォッ!!

 

カナリアからオーラフォトンの濁流が現われ、アスナを飲み込む!

 

「アスナ、絶叫・・・のちに死亡」

 

『ぎゃぁあぁぁぁっ!!!ぐふっ・・・』

 

「とまぁこんな感じ」

 

「すごい・・・」

 

フォルクは感心したようにつぶやく。

 

「行動原理は光陰と変わらないんだよな。まったく・・・」

 

ユウトがため息をつく。

部屋の隅では消し炭になったアスナが回復しはじめていた。

 

「神よ・・・あのようなエターナルがいることをお許しください」

 

ユウトは初めて神に祈ったのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ!綺麗っ!!」

 

オレ達は浜辺で手持ち花火をやっていた。

俺はもくもくと用意する。

口にありったけの花火を詰めて、左手にも限界まで花火を持つ。

地面には右手で持てるだけの花火。

 

「うい・・・」

 

俺は花火に火をつけた!

 

ボヒャァアァッ!!

 

全ての花火が一気に発火した!

俺はすかさず右手に花火を持つ。

 

「おぉいっ!!」

 

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 

五人が俺を白い目で見る。

一瞥すると、すぐにもとの花火に視線を戻す。

 

(む、無視ですかぁぁっ!!?)

 

花火まみれだが、耳を澄ますと風に乗って声がやってくる。

 

 

『あーいうの・・・バカっていうんだよな』

『まぁ、アスナさんは花火の楽しみ方をわかってないだけなんですよ』

『もったいないよねー。アスナサイテー』

『美しきものを見る権利がないであろう、あのような輩は』

『・・・』

 

 

その言葉が俺の耳に届くと同時に花火が全部しおれていく・・・。

それをチラリと見るカナリア・・・。

俺は海にむかって一人ポツンと座っていた。

 

「わぁ・・・風が強いよぉ・・・」

 

俺は暗やみで見えない海の先を見つめる。

 

(うぅ・・・)

 

ちょっとハメを外しすぎたか・・・。

じわっ・・・

泣かない!

泣かないぞ!!

 

・・・泣かないもん。

 

「何いじけてるの?」

 

「ひっ・・・!なんだ・・・カナリアか」

 

俺はびくっとしたが、カナリアだとわかった途端に力を抜く。

黙って俺の隣に座るカナリア。

風で流れる髪を押さえる。

 

「どうしてこっちにきたの?」

 

まだユウト達はたくさん花火を持っている。

 

「これ、勝負しましょう」

 

そう言って見せたのは、二本の線香花火。

 

「へっ・・・俺に勝てるとでも?」

 

「ええ、もちろん」

 

花火より先にオレ達の間で火花が散る。

お、うまい。

 

「おし!やるか!!」

 

 

ジジジジ・・・

 

 

俺は極力動かさないように花火を凝視する。

 

「アスナ」

 

「なんだ?集中力を切らす作戦か?」

 

「違います・・・」

 

「うん?」

 

真面目な声に俺は顔をあげる。

そこには、どこか悲しそうな顔があった。

 

「もし・・・もしですよ?」

 

「あぁ」

 

「もし・・・私が敵になった・・・ら、どうしますか・・・?」

 

「・・・」

 

どこか予感めいたものを感じた。

きっと・・・

 

「・・・カナリアはどうしてほしい?」

 

「え?」

 

「・・・俺はカナリアが好きだ。あ、別に付き合いたい、とかじゃなくて。

だからカナリアが敵になっても、俺はカナリアを信じたい・・・なぁと。だから・・・してほしいように、俺はしたい」

 

「「・・・」」

 

俺達はしばらく無言になってしまう。

俺は再び線香花火に視線を戻した。

 

 

「・・・助けて、ほしいです・・・!」

 

 

震えながら・・・泣きながら、そう答えるカナリア。

小さくても・・・ハッキリとした意思。

俺にはどんな気持ちなのか・・・わからない。

 

だから・・・

 

「まっかせなさい!俺にかかればカナリアを助けることぐらい簡単さ!」

 

俺は胸をドンッと叩く。

 

「あ・・・」

 

ポトッ・・・

 

「・・・あぁあぁぁっ!!?」

 

「ふふ、作戦成功」

 

「なっ・・・!?」

 

カナリアは悪戯っぽい笑顔で俺を見る。

 

「くっ・・・しまった・・・!」

 

「アスナの負けですね」

 

「ちくしょう!このやろう!」

 

女の武器は涙なんだとつくづく実感させられた。

 

「ふふ、楽しかったです。また」

 

カナリアはそう言い残して去っていく。

 

「カナリア」

 

「え・・・?」

 

「助けるから。絶対に」

 

「・・・はい!」

 

 

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『シャイニングシュート』

 

カナリアの突っ込み技の一つ。といっても、本来使える技を弱めたもの。

背中からオーラフォトンを出し、まるで波のように相手を襲わせる。

もちろん本気で出せばそんなものではすまない。背光の数少ない支援技がこんなものだとは世も末である。

 

 

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