電力・ガス会社が一斉に値上げを申請した。過去最大の値上げだが、今月中に認可の見通しだ。経済産業省の求めに応じて予定額を圧縮したため、かえって一年前後にわたり値上げが続いてしまう。
東京電力四百九円、関西電力二百四十六円、中部電力二百一円。来年一−三月の標準家庭一カ月当たりの値上げ額だ。燃料高騰分を一気に転嫁すると家計への打撃が大きいとして、予定額を半分に抑えた。東京ガス、東邦ガスなども追随している。
原油は最高値の半分以下、一バレル=六〇ドル台に急落した。ガソリンは刻々と下がっているのに、なぜ電気・ガスは値上がりか。素朴な疑問が生じてくる。家庭向け料金は燃料費調整制度により六カ月前の原油価格を参考に決められる。来年一−三月分は原油が暴騰した七−九月を参考にするので値上げ自体はやむを得ないだろう。
燃調制度は原油価格などを基に積算した基準価格の一・五−一・六倍を超えると消費者も参加する公聴会を経て認可を得る「本格改定」が必要になる。十−十二月はそのケースに該当したが、本格改定は原価洗い出しなど手続きが煩わしい。自動値上げできる燃調制度の方が使い勝手がよいので十−十二月は料金を据え置き、まずは基準価格引き上げを認めてもらい、値上げは来年回しという姑息(こそく)ともいえる奥の手を使っている。
据え置きの反動で一−三月の値上げは大幅に膨らんでしまった。
経産省は業界に値上げの圧縮を求めたが、むしろ消費者にも分かりやすく、透明性の高い料金見直しを誘導すべきだったのではないか。圧縮は朗報のはずだが、圧縮分は四月以降に加算されるので値上げの一部先送りにすぎない。平準化されたがゆえに、東電の場合は二〇一〇年一−三月まで四半期ごとに値上げが続くという。
資源高の影響は電力・ガスだけではない。石油業界は価格転嫁に苦しみながらも、ガソリンを一リットル=一八〇円から一四〇円前後に下げている。それに引き換え、家庭向け電気料金は地域独占が続き、一般家庭は電力会社を選べず言い値に従うだけだ。
経産省は燃調制度の見直しを始めた。電力・ガス業界は燃料費の増加分を価格転嫁できるこの制度に守られている。不断の経営努力で料金を下げる仕組みも考えてほしい。原油下落や円高メリットの速やかな還元に加え、経営効率化も徹底させる。その成果が示されないと消費者は納得しない。
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