日本企業が強い逆風にさらされている。世界景気の冷え込みが業績を直撃し、為替相場の乱高下も視界不良に拍車をかける。だが、経営者は冬の時代であっても、成長戦略を見失ってはならない。パナソニックが三洋電機の買収を検討するなど、大型再編の機運も出てきた。難局克服に向け、持てる経営資源を総動員してほしい。
リーダー企業も失速
発表のピークを迎えた上場企業の4―9月期決算は減益が相次いだ。日本経済新聞社の集計によると、上場企業全体の2009年3月期通期の経常利益は前期比20%以上落ち込む見通しで、過去6期続いた増益がとぎれるのは確実だ。
特徴的なのは経営改革で先行し、「業界のリーダー」とされた企業まで業績悪化の波が及んだことだ。電機業界では「選択と集中」を進めてきた東芝が半導体市況の低迷で、中間決算で営業赤字に転落した。
ソニーも09年3月期の利益見通しを大幅に引き下げた。同社の大根田伸行・最高財務責任者は、9月以降デジタル家電の売れ行きが欧米で減速していると述べ、「かつてないマグニチュードの事態」と危機感をあらわにした。
自動車でもホンダや日産自動車、スズキなど有力企業が軒並み減益になった。6日に決算発表するトヨタ自動車も、ドル箱の米市場の失速で大幅減益が避けられそうにない。
一連の業績悪化は、経営の失敗や競争力の低下によるものではない。だが、楽観は禁物だ。米金融危機に端を発した世界経済の変調は、長期化の恐れがある。企業は今期だけでなく、10年3月期まで厳しさが続くと覚悟しなければならない。
逆風下で、まずやるべきことは足元を固めることだ。米国ではゼネラル・エレクトリックのようなトリプルA格の優良企業さえ短期金融市場での資金調達が難しく、高い資金コストを承知の上で、大型の増資に踏み切らざるを得なかった。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長は「いま最優先の経営課題は」という質問に「キャッシュ・マネジメント(資金繰り)」と即答した。
日本の金融市場は欧米ほど流動性不足が深刻でないとはいえ、資金面で万全の備えが不可欠だ。ソフトバンクが最近2010億円の融資枠契約を銀行団と結んだように、手元資金を積み増す企業が増えるだろう。
景気下降局面の常として、徹底したコスト削減も欠かせない。対ドルだけでなく、ユーロや新興国通貨に対しても大幅な円高が続く中で、コスト削減を怠れば、日本企業の価格競争力は弱まってしまう。
さいわい今の円高は、1980年代後半の円高ほどのパニックは生んでいない。日本企業は生産拠点の海外展開を進め、為替変動のショックをかなりの程度吸収できる体制を整えた。例えば日立製作所の海外生産比率は24%に達し、以前に比べれば円高抵抗力が増している。
過去数年の円安局面では「工場の日本回帰」がいわれたが、円高が続けば、海外拠点のフル活用が待ったなしの課題に浮上するだろう。
こうした短期の対応策とは別に、忘れてならないのは、やはり長期の成長戦略だ。トヨタのハイブリッド車やシャープの液晶など大型の技術革新は、研究に着手してから商品化し、市場が育つまでに10年以上がかかることが多い。
今では商社の収益源になった天然ガスや鉄鉱石など海外の資源事業も1960年代からコツコツと投資を重ね、ようやく花開いたものだ。
パナソニックの新戦略
未来の競争力の源泉である研究開発や戦略事業への投資は、台所事情が苦しくても継続したい。どの有望分野にアクセントをつけて投資し、どの分野を切るか、その見極めが経営の核心である。
もう1つの課題は、グローバル化のさらなる追求だ。過去の日本企業の海外展開は米欧など先進国が中心だったが、今後は中国やインドなど新興市場の開拓が欠かせない。こうした地域で日本勢は欧米企業に出遅れているケースも多く、欧米企業の投資余力の低下した今が巻き返しのチャンスかもしれない。
M&A(合併・買収)の活用も成長のための有力な選択肢だ。パナソニックが買収を検討する三洋電機は電池技術に優れている。両社の強みを持ち寄ることで、電気自動車などの将来の成長市場に布石を打つ新たな戦略とみられる。これまで「自前主義」が強かったパナソニックの変身の動きとして注目したい。
経済の現状は厳しく、多くの企業にとって業績の悪化は不可避だろう。目先の数字を少しばかり底上げしても意味がない。足元を固めつつ、いずれ危機が去り、平時に戻ったときに備えて、次の成長の種を仕込んでおく。逆風の時代は、経営者の手腕の振るいどころでもある。