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社説:保険証のない子 全国一律に救済する仕組みを

 親などが国民健康保険(国保)の保険料を滞納し、保険証を返還させられ「無保険」状態となっている中学生以下の子どもが全国1万8240世帯、3万2903人もいた。厚生労働省が初めて全国調査して分かったもので、子どもの被保険者のほぼ100人に1人が「無保険」だった。

 世帯主が保険料を1年以上滞納すると、保険給付が差し止められ保険証の代わりに資格証明書が発行される。この結果、医療機関の窓口では全額自己負担となるので病院にいかなくなるとの懸念が出ている。

 保険料は親など世帯主に支払い義務があり、滞納を減らす狙いで保険証を返還させている。しかし、これは事実上、滞納者へのペナルティーとなっており、何の責任もない子どもに影響が及ぶのはおかしい。

 厚労省は都道府県に対し、医療が必要な子どもがいる世帯には有効期間を1~数カ月に限定した短期保険証を発行するよう通知した。ただ、国が通知を出しても、国保を運営する市町村が動かないと打開はできない。保険証のない子どもが受診できず病状を悪化させることがないよう、自治体は早急に対応すべきだ。保険料を払えない人の相談に乗り、悪質な滞納者には厳正に対応することは言うまでもないことだ。

 「無保険」の子どもへの対策は自治体によってばらつきが大きい。前橋市では1年前から世帯単位の保険証を個人カード化し、今春から滞納世帯でも中学生以下の子どもにも保険証を交付して医療費を無料にした。東京23区でも足立など10区で義務教育以下の保険給付を差し止めない独自対応をしている。しかし、こうした独自策を取っていない自治体も多い。

 「無保険」の背景に市町村の国保が抱える構造的な問題がある。国保加入世帯主の職業は従来、自営業者や農林水産業の従事者が中心だったが、最近では失業者や高齢者など無職の人が半数以上を占め、滞納者が増えてきた。一方で医療費が膨らみ、市町村は保険料を引き上げざるを得なくなり、それが滞納者を増やす要因となっている。

 現在では滞納者は国保世帯の2割弱にまで増え、市町村国保の半数以上が赤字運営だ。自治体は滞納者対策と赤字財政対策の問題に直面している。「無保険」の子どもへの対応策がばらつくのはそのためだ。

 「無保険」対策には多くの課題がある。対象年齢は中学生以下か、18歳未満か。子どもの医療費を無料にするのかどうか。国保法を改正して実施するのか、市町村に任せるのか。これを医療制度の見直しの中で議論し、速やかに決着を図る必要がある。少なくとも自治体によって対応が大きく異なるというのは急いで是正し、全国一律に救済する仕組みが必要だ。

毎日新聞 2008年11月2日 東京朝刊

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