「え〜………」
「どうだ?」
「どうも鼻くそもありません。なんで俺たちが」
「なら、他に挙げるような人がいるとでも?」
「……いないけどさ」
「そういうことだ。詳細は二人で話し合い、決めてくれ」
「だから、なんで俺たちが!!」
「国民に朗報を届け、敵国に衝撃を与えるためだ」
「アレスティナにですか……」
「それに、お前らも挙げようとは思っていたのだろう?」
「そりゃそうですけど……」
「なら決まりだエトランジェケイタ」
「……あいつと話させてください」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「メシフィア、いるか?」
俺は部屋の扉を開けた。
メシフィアは机に向かって、熱心に何かを書いている。
どうやら俺に気づいていないようだ。
「なにしてるの?」
「っ!ケイタ・・・か。驚かすな」
「いや、ノックしたけど。なにそれ?」
「暇をもてあましていたから、日記を書いていた」
「へ〜。俺三日光陰だから、絶対に続かないけど」
「三日光陰?」
「深く気にしないで」
説明するのもバカバカしいから。
「それで、何の用?」
「あ、そうそう。実は、大事な話があるんだ」
「?」
―――結婚しよう。
「はぁ!?」
「いや、だから、まずは落ち着いて」
「落ち着く・・・って、既に私たちは、その、えっと・・・」
「だから、結婚式を挙げようってコトなんだけど」
「・・・へ?」
「う〜ん・・・実は」
俺は王様の提案をサラっと話した。
なんでも、国民の士気が下がってきていて、このままでは危ういとかなんとか。
それに、戦争中に結婚式を国をあげてやるとしたら、余裕があるとアレスティナに思わせられる、とかなんとか。
とかなんとか、が多いのは神経から何まで半分にして王の話を聞いていたから。
そこらへんはご愛嬌。
「式・・・」
「詳細は俺たちで決めろって。でも、イヤだったら別にいいんだよ?」
「え?」
「見せ物にされてる気分だし。メシフィアがイヤなら、俺は別に……【挙げる】え?」
―――結婚式、しよう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え〜、そういうワケで……………………………………………………………………俺たちは結婚式をしたいと思う」
みんな(ユウトら)を集めて、俺は開口一番そう言った。
予想通りというか、みんな呆けたまま動かない。
「け、結婚式・・・?」
「なんだ、ユウトは知らないの?」
「知ってる!だが、そうじゃなくて……誰と誰が?」
「お前とアセリア」
「ん・・・私?」
アセリアは自分を指差して首をかしげる。
ユウトは机を叩いて全力で……
「違う!」
「聞いたのはユウトじゃないか」
「お前とメシフィアだろ!!」
「わかってるなら、なんで聞くんだよユウト」
「・・・そりゃ、お前一種の現実逃避ってヤツで」
「ま、ヘタレは放っておいて。そういうわけで、みんなに報告終わり」
「あっさりしすぎだ。もう少し、仲間として、というか友人として説明をしてもらいたのだが?」
「光陰、お前腐ってるのは女性への嗜好だけにしてくれよ。頭まで腐ったら、アゴヒゲ以外取り柄なくなるよ?」
「……今日のケイタはなんだかキツイな」
「でも、ま。そうだな……軽く説明すると、かくかくしかじか、と言うわけだ」
端折りの【かくかくしかじか】ではなく、本当にかくかくしかじか、と言った。
当然のことながら、岬が反抗的な目をする。
「それじゃわからないわよケイタ」
「岬は雷でドパーンッと一発、朝に花火代わりにやってくれればいいよ」
「……ここで落としていいかしら?」
「ダメ。んと、つまりはカオストロの景気が落ち込んでるから、地獄のリストラ社会脱出のために結婚式をするんだ」
「……それで、誰かわかった?」
ブンブン。
岬が全員に聞くが、誰一人として首を縦に振らなかった。
しょうがないから、ちゃんと説明する。
「要は、戦争ばかりで荒んでしまった国民に、温かいニュースを届けようじゃないかってこと」
「なるほどね〜」
今度は全員納得した。
ふぅ、とため息をついて椅子に座る。
「で、ケイタとメシフィアはどうするの?」
「私は結婚式をしたい」
「メシフィアがそう言ってるし、俺もいい考えじゃないかって思う。ただ、まさか15歳で挙げるとは思わなかったけど」
「そっか〜」
岬はほわわ、と何かを想像して頬を緩ませる。
…何を考えている?
「エスペリア、この世界の結婚式ってどんなのがあるんだ?」
ユウトが物知りお姉さんに聞いた。
エスペリアは手帳を取り、パラパラとめくってページをとめた。
「そうですね……。一般的には、特に式は挙げないみたいです」
「え?そうなの?」
「はい。もちろん、こういった王族などではやりますが」
「ふ〜ん。あ、じゃぁウェディングドレスとかないの!?」
「えっと……ウェディングドレスとは?キョウコ様」
「あ、エスペリアは知らないんだっけ。結婚式の時にだけ着る、綺麗なドレスのことなの」
「そのような物があるのですか。すみませんが、カオストロ、エレキクル共にそのような衣装は特には……」
「え〜!?つまんな〜い!」
「両国とも、身体を清め、それで式を迎える、といった感じですので」
「せーっかくメシフィアのドレス姿が見れると思ったのに」
岬がぶすっとして椅子に座った。
どうやら、やっぱり女子はウェディングドレスをお目にかかりたいようだ。
だったら……
「作ろう」
「え?」
隣でお茶を飲んでいたメシフィアが俺を向いた。
俺は、みんなに言う。
「せっかくなんだ。俺たちの世界流で、結婚式を挙げてみない?ドレスとかも注文してさ」
しばらく、その場を静寂が包んだ。
そして、ユウトがポツリとつぶやく。
「いいな、それ」
「そうね♪やってみましょうか!」
「そうだな。いっちょ、人肌脱いでやるか!」
そうして、結婚式の準備へと入っていった………。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、こっちのほうがいいって!」
「メシフィアはどっちがいい?」
「私は……」
「メシフィアは、これがいいに決まってるでしょ」
メルフィー、レイナ、岬がかき集めたパンフレットをとっかえひっかえしている。
どうやら、メシフィアの着るドレスを選んでいるようだ。
メシフィアのスタイルなら、大抵のドレス似合うと思うけど……。
それに、肝心のメシフィアは決めかねているようだ。
「どれにするの?」
「あ、ケイタ………」
「これと、これ?」
二つのドレス。
片方は白がメインで、豪華にあちこちレースがあしらわれたドレス。
ウェディングドレス、と言われて大抵が想像するような、華やかなドレスだ。
もう片方は………
「おい、誰だこれを持ってきたのは」
「え?悠だけど」
「・・・」
ま、要はアレだ。
日本の白い着物。
でも………なんでこの現代世界のパンフレットを、ユウトが持ってるんだ。
「あいつこういう趣味が?」
「え?」
「いや……。でも、メシフィアはどっちにするんだ?」
「絶対にこっち!」
と、日本のを推すのは岬。
「こっちです!」
「こっちよ!」
と、反対のドレスを指差すのはレイナ、メルフィー。
「う〜ん……」
と、迷うはメシフィア。
「ん・・・?」
と、新しいドレスを見つけるは俺。
「これ、いいんじゃない?」
「あ……」
「どうかな?メシフィアに結構似合うと思うんだけど」
「……うん、それにする」
はい、決まり。
そして、コソコソ話をする3人。
(私たちの立場は?)
(惚れた男には敵わない、ってことよね)
(愛は友情に勝るからこそ、美しいですから)
(でも、なーんか面白くないわ)
(仕方ないですよ。新婚さんなんですから)
(いらっしゃーい、に出してやろうかしら)
「ウオッホン!!じゃぁ、俺は別の所に行って来る」
「うん。ありがとう、ケイタ」
わざとらしいせきをして、3人を黙らせる。
そして、今度は式場を選んでいるユウト達のところへ向かった………。
(・・・ふぅ)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こっちの式場のほうが良くないか?」
「いやいや!やっぱりこういうときは教会だろう」
「おまえ仏教徒じゃ………」
「シャラーップ!!愛は宗教を超えるのさ………」
「愛を持ってるのは、お前じゃないだろ」
「だいたい、ユウトは普通すぎるんだよ」
「そ、そうか?」
「そんなホテルでやったって、城に四六時中いる俺たちにとっては何の新鮮味もないだろ?」
「た、確かに」
「やっぱ、ここは雰囲気のある教会だ!あわよくばそこでオルファちゃんと」
「最後のほう、なんだって?」
「い、いや!」
やたら熱弁している光陰。
これなら、ここは手出し無用かな。
――あれ?でも、俺が新郎なんだよな……?
「……みんな頑張ってくれてるなぁ」
俺は部屋のベランダに座って、夕焼けの空を眺めていた。
ふと、メシフィアが城下町に出て行く。
「孤児院……かな?」
俺はそのまま、ハーブティーを飲んで一時を過ごした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「遅いわ」
「遅いですね……」
エスペリアとレイナ。
二人の心配役がしきりに時計を気にする。
夕飯の時間になっても、メシフィアが帰ってこないのだ。
「どうしたんだ?」
「さぁな?」
「さぁな……って、お前メシフィアの……」
「孤児院に泊まって来るんじゃないか?」
「孤児院に行ったのか?」
「たぶんね。しばらく行ってなかったし、泊まってるんじゃないかな」
「う〜ん・・・せっかくのメシが冷めちゃうし、先に食べちゃうか」
「そうしようぜ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうしたの?メシフィア」
「お母さん・・・」
私は孤児院に来ていた。
今日は、帰らないつもり。
「ふぅ・・・いつも城に戻ってる時間よ?」
「・・・」
何も言わず、黙っている。
すると、お母さんはハーブティーを出してくれた。
「温かいわよ?」
「うん・・・」
一口含んだ。
ケイタの出してくれるティーと同じ、とても優しい味……。
「それで、何を悩んでるの?」
「え・・・?」
「人の親ですもの。娘の顔を見れば、わかるの」
「お母さん・・・」
「・・・」
それから、お母さんはずっと黙っていた。
もう一口、ハーブティーを含んでから話し始める。
「ハーブティー、おいしいね」
「ありがとう」
「……私は、淹れることさえできないの」
「え?」
私は、ポツポツ言葉を吐き出す。
「料理もできない」
「・・・」
「でも、ケイタはそれを【おいしい】って言ってくれる」
「ケイタ君・・・か」
「あんな料理、おいしいはずがないの。でも、一つ残さず食べてくれて、それで【おいしい】って言ってくれる。前、野良犬にあげたらピクピクしてた料理を」
「そう……」
私は、そこでまた口を閉じた。
また、温かいハーブティーを飲む。
そして、本題を打ち明けた。
「私、結婚するの」
「え!?」
「……本当のことを言うと、もうとっくにしてた。今度、結婚式を挙げるの」
「!?い、いつの間に!?相手は!?」
「大川啓太。知ってるよね?」
「……やっぱりあの子?」
「そう。本当はもっと早く言うべきだったんだけど……ごめんなさい」
私は頭を下げた。
親に言わず、勝手に結婚していた。
それは、親にとっては子の裏切りに違いなかった。
「……そうなの」
「お母さん?」
「……でも、じゃぁなんでここにいるの?」
「え?」
「一分一秒でも、ケイタ君と居たくないの?今が、もっとも熱い時期じゃないかしら?」
「……そう、そのはず、なんだけど………」
でも、なんだか落ち着かない。
もしかしたら、結婚ということ自体を軽く考えていたのかもしれない。
だから、結婚式という現実味を帯びてきて、その感覚に戸惑っているのかも、しれない。
ケイタのそばにいると、どうしてもそれが増してしまって……。
「ふふ♪」
「お母さん?」
突然お母さんが笑い出した。
「ケイタ君は、素敵な男性なのね」
「え?」
「メシフィアが、こんなに女性らしくなるなんて、思ってもみなかった」
「お母さん・・・」
「いつのまにか、表情も随分柔らかくなってる。今のメシフィア、すごく可愛いわ」
「お、お母さん!」
「ふふ、照れなくてもいいのに。それで?」
「え?」
「話したかったことは、それだけ?」
「え・・・?」
お母さんは、少し悲しい顔をした。
それで、はっとする。
もしかしたら……お母さんの傷を抉ってしまったのかもしれない。
「こら、結婚前の子が、そんな暗い顔するんじゃありません」
「いたっ」
コツッ!
頭をデコピンで弾かれた。
「それに、あの人とは少しだけ、仲直りできたから」
「え?」
「これ」
お母さんは、箱を取り出した。
そこには、手紙が入っている。
「・・・!これ、お父さんから!?」
「ケイタ君がね?チョット手伝ってくれたの」
「ケイタが?」
「【犯してしまった過ちは、償うしかない。だけど、あなたは彼女に償うチャンスさえ与えない。それって、すごく卑怯じゃありませんか?】だって」
「・・・余計なことを」
「お母さんも、最初はすっごくそう思った。だから、怒っちゃった」
「え?」
「でも、そしたら・・・何も言わずに、ただ私の張り手を浴びてた」
「・・・」
「どんな理屈をつけても、人間関係の中に無理やり力を加えるのはいけないことだって、わかってたみたい」
「・・・」
「酷いよね、ケイタ君。他人の恋愛に首を突っ込むなんて。しかも、どんな理屈をつけても人としてやっちゃいけないことだって自覚してるし」
「・・・そうだね」
「それで、気づいたら・・・手に血がついてて。はっとしてケイタ君を見たら、顔全体血だらけだった」
「・・・」
「そして、こういったの」
―――イタタ……殴り終わりました……?なら次はその手で、あの人と手を繋いでくれませんか?お願いします……。
「だって」
「・・・あのバカ」
「だからかな?ちょっとだけ勇気出せた」
「お母さん・・・」
「さてさて、それで、メシフィア?」
「な、なに?」
体裁を整えて、箱をしまうお母さん。
「どうしたの?」
「・・・」
「暗い顔しないの」
「・・・わからないの」
「・・・」
わからない。
ケイタが私の料理をおいしいといってくれる度……
ケイタが私に好きだと言ってくれる度……
私は、わからなくなる。
「何が、わからないの?」
「・・・それも、わからない」
ただ、わからない。
そこからくる不安が、私を揺らす。
このまま、ケイタと結婚しても………。
「あなたは、わからないんじゃない」
「え?」
「未来が、明日がわからないから、不安になるの」
「・・・?」
「あなたの不安……それって、ケイタ君と、結婚してもいいのかな?でしょ?」
「・・・!」
「料理が作れない。ティーも淹れられない。そんな私を、ケイタが一生愛してくれるかわからない」
「・・・!!」
「飽きられてしまうかもしれない。それはイヤ、すごく怖い。ずっと、ケイタとやっていけるの?」
「・・・!!!」
「でも、ケイタと一緒にいたい。この気持ち、ずっと持ち続けられるの?途中で捨てるなんて、できないんだよ?」
「・・・!!!!」
全て、私の身体を貫通した。
何か、私の芯を揺らしてどこかへ消えていく………。
「メシフィア、あなたはもう、立派な女性よ」
「え・・・?」
「だから・・・聞きなさい」
「・・・」
「ケイタ君に、真剣に。あなたの正直な気持ちを打ち明けて、聞いてみなさい」
「・・・うん」
「彼なら、きっとあなたの不安を消し飛ばしてくれるんじゃないかしら?」
「・・・うん」
「今日は泊まって、明日・・・頑張ってね?」
「はい!」
「あ、あと結婚式には呼んでね?」
「も、もちろん!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「結局、帰ってこなかったな」
「そうだな」
ブンッ!
ブンッ!!!
俺は素振りを繰り返す。
たまに横薙ぎ、切り上げを加える。
「そうだな・・・って、お前心配じゃないのか?」
「ん〜……まぁ」
「まぁ、って……」
俺の曖昧な答えに、不満げなユウト。
「お前、どうしてそんな平気な顔してるんだよ」
「・・・そう」
「そうって!お前メシフィアのこと・・・!!」
「・・・そうだな」
「ケイタ!!!」
ガッ!!
カラカランッ・・・!
胸倉をつかまれ、握っていた剣は床を転がる。
「お前・・・なんだよ!おかしいよお前!」
「・・・俺が平気だって?」
「え・・・?」
「俺だって」
「え?」
「俺だって・・・!普通じゃないよ。普通でいられるかよ・・・っ!」
「ケイタ・・・?」
「なんでもない……ちょっと取り乱した。ごめん」
俺は力の抜けたユウトの手を取り、静かに下ろした。
そして、また剣を握って素振りを始める。
「すまんケイタ。その・・・悪かった」
「・・・いいんだ」
「でも・・・」
「俺の不安以上に・・・きっと、アイツも不安だろうから・・・」
「え?」
俺は窓から外を眺めた。
そこには、青い空と白い雲がある。
「不安だったり、悩んでいたりすると、前の俺はすぐに【あぁ、なんでこんななんだろう。はぁ〜】ってなった」
「?」
「自分に酔ってたんだよ。こういう風に悩んでるってことに、俺は酔ってた」
「・・・」
「ユウトにはないかな?そういうこと」
「・・・ある」
「どんなの?」
「俺は・・・いつも、普通じゃないって思ってた。両親が亡くなって、養子になって・・・普通の境遇じゃないって」
「そっか。それとおんなじなんだ。でも、それは【今生きている自分】には関係ないんだ」
「え?」
「今生きている自分は、そんなものの上に積み重なってできてる。だけど、その土台をいくら誇ったって、自分自身に誇りを持ってるとは言えない気がする」
「・・・そうだな」
「でも、自分には何もないって認めたくないから、ちょっとしたことで悩んだりすると、苦しい反面、生きてるって実感して、嬉しくなる」
「・・・」
「気にしなければどうでもいいようなことを、いつもいつも俺は前面に出して、土台を見せて【俺はこういう人なんです】って言ってた気がするんだ」
「俺も……そういう時があったな」
「そうなの?」
「両親がいなくなって……だから、それをわざと言って、同情引こうとしたり、話題にしようとしたり……優しくしてよってねだる理由にしたときもあったかな」
「・・・そっか」
「俺の周りにもいたよ。別に病気でもなんでもないのに、頭痛が起こったら【周期的に起こるんだよ】とか言うヤツとか」
「そうなんだ?」
「あと【俺って寿命少し短いんだ】とか言って、悲しい運命みたいな言い方するヤツとか」
「うん・・・」
俺とユウトは剣を置いて、窓から外を眺めた。
ゆるやかな風が、俺とユウトの間に吹いている。
「それが、メシフィアの話とどう関係あるんだ?」
「……だって、あいつは今、すごく苦しんでるはずなんだ」
「え?」
「不安なんだよ。一生を共に暮らすっていう決断なんだから。ましてや、この世界には離婚はないし」
「・・・そっか」
「俺だって不安なんだ。メシフィアは、もっと不安なはずなんだ」
「え?」
「メシフィアは、家族っていうものを怖がってるはずなんだ」
「何か・・・あったのか?」
「うん。詳しいことはいえないけど、ユウト以上かもしれない」
「・・・」
どんなことを想像するかは、完全に任せる。
捨て子な上に、孤児院のお母さんとお父さん……それさえ、分裂状態だ、なんて言えない。
分裂状態は、子供にとって一番辛いと思う。
亡くなってるなら、時間をかけて整理することもできるだろう。
だが、毎日毎日、親の様子を見ては心を痛めていたら・・・。
それが、メシフィアなんだ。
「だから、新しい家族になる俺が、弱気じゃいけないと思う」
「・・・」
「それに……俺は信じてる」
「何を・・・?」
――今まで見た、メシフィアの全てを。
――泣いた時も、笑った時も、全て全て、俺は信じてる。
――だから……絶対に、帰ってきてくれるって、信じてる。
「ケイタ・・・」
「なんてね。ちょっと格好つけすぎだな」
「いや・・・お前には、それを言う資格があると思うよ」
「ユウト・・・サンキュ」
「だけどさ」
「え?」
「メシフィアも同じくらい、お前を信じてる。だから……少し、一緒に悩んでみたらいいんじゃないか?」
「・・・そうだね」
「じゃ、お先に」
「ああ」
ユウトは訓練場を去っていく。
その背中が、少し大きく見えた。
やっぱり、ユウトは強い。
「さて、と。もう少し・・・やるかな」
俺は木刀を持った。
それと同時に、誰かが入ってくる。
「ユウト?忘れ物か?」
「・・・私だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「メシフィア?おかえり」
「ごめん、昨日帰ってこなくて」
「いや、いいけど。孤児院?」
「うん・・・お母さんに、報告してきた」
「そっか。賛成してくれた?」
「うん」
「な、ならやっぱ、次は俺が出向かないといけないのか・・・?う〜、緊張する」
ちょっと早すぎる体験だが、まぁしょうがない。
身体が震えてくる。
「ケイタ」
「ん?」
「聞いて欲しいの」
「・・・うん」
俺は座った。
その隣に、ぴったりとメシフィアが座る。
「私は、お茶を淹れられない」
「なんだ?突然やぶからぼうに」
「聞いてて、お願いだから・・・」
「・・・?」
俺はとりあえず、黙ってメシフィアの話に耳を傾ける。
「料理もできない。できた料理の感想【コンクリートを食べたことはないけど、きっとこんな感じ】だった」
「それは誰が言った?」
「アセリア」
「あとでシメる。それで?」
俺はその先を促した。
すると、メシフィアの手が俺の手と重なる。
タイミングがタイミングだったので、ついどきっとしてしまう。
「ケイタ」
「ん・・・?」
メシフィアの顔が、すぐ近くにあった。
俺の肩に頭を寄せて、もたれかかっている。
目は潤んでいて、頬は薄く染まっている。
「私は………あなたの花嫁になれますか………?」
「………」
「私が………私だけが、一生あなたの傍にいても、いいのですか………?」
「メシフィア……」
「お願い………答えて………」
メシフィアの瞳が、俺の目を射抜いた。
そこにあるのは、純粋な気持ちだけ。
すごく……安心した。
「俺も、ずっと考えてた」
「え?」
「メシフィアのこの先の可能性を、俺と結婚してしまったら、狭めてしまうんじゃないか?とか」
「………」
「でも……悩むこと、なかったんだね」
「………はい」
「大丈夫。安心して」
俺はそれ以上、何も言わなかった。
メシフィアを抱きしめ、そのまま動かなかった。
言葉は、もういらない。
同じコトを考え、悩んでいたのなら……きっと、これで伝わると思う。
「ケイタ」
「ん・・・?」
「私は、あなたと出会えてよかった。ずっとずっと、信じてる」
「・・・俺もだよ」
「だから・・・」
「・・・」
――私と、結婚してください………。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え〜、これより、大川啓太とメシフィア・プルーストの結婚式を始めたいと思います!!」
パチパチパチッ!!
司会をつとめる光陰に、拍手が送られる。
さすがに不慣れなのか、はにかんだ笑顔で返す光陰。
「え〜、何分初めてのもので、少々不手際があるかと思いますが、よろしくお願いします。碧光陰がつとめさせていただきます」
「光陰、頑張れ!」
ユウトが応援する。
光陰はふっと一息ついて、間をとった。
「では、新郎新婦のご入場です。皆様、ご起立の上、盛大な拍手でお出迎えお願いします」
バチバチバチバチバチッ!!!!
大きな拍手が会場を包む。
ギィィィィィ………!!
教会の扉が開き、二人の男女がやってくる。
「いこう、メシフィア」
「うん・・・ケイタ」
ケイタの腕に、軽く手を添えて歩き出すメシフィア。
その二人に、一気に視線が集まる。
「綺麗………オルファもあんなの着てみた〜い!」
「本当ね……。あの、ユート様……私たちがいてもよろしいのでしょうか?」
「え?」
「私たちはスピリットです。それなのに………」
「エスペリア。ケイタの気持ち、わからないのか?」
「え?」
「君に参加してほしいから招待した。なら、それに答えるのが当然だって」
「………はい、そうですね!」
そして、二人はゆっくりと席についた。
結局、結婚式のスタイルはユウトらの意見を全て混ぜた、とてもいい加減なものとなった。
だが、それが俺たちらしい、とケイタが推して、決定となっていた。
「え〜、それでは、次に新郎新婦に、誓いの言葉を。よろしくおねがいします」
マイクが壇上に置かれる。
そのマイクを挟むようにして、ケイタとメシフィアが立った。
「え〜……俺は、何も持っていません」
ザワッ!!
会場がざわめいた。
「貯金も、未来のビジョンもプランもないです。明日をどう生きるか、それを考えるので精一杯なくらいです」
会場が、自然と静かになっていく……。
ケイタが、何を言おうとしているのか……それに、感づいたようだ。
「そんな俺に、いろんな影響を与えてくれたのがメシフィアでした」
「・・・」
「彼女と出会って、それから、少しずつ………未来のことを考えるようになりました」
ケイタは、会場を見渡す。
ユウト達、メルフィー達、王様達………。
「ここにいるみなさんとの、未来です。どんな未来を迎えたいか………前の俺だったら、絶対に考えませんでした」
「ケイタ・・・」
「彼女を通して俺は知りました。一人でいたら、絶対に知ることができなかったことを。だから………俺は、メシフィアを愛したんだと思います」
ケイタは一歩下がった。
それと同時に、メシフィアが一歩出た。
「私は、変わったと思います。彼と出会って、いろんなことを体験して………一緒に笑って、一緒に過ごして」
「・・・」
「私は、弱かった。みなさんが思っているより、ずっと弱い存在だったと思います」
ザワッ・・・!
再び、会場がざわめく。
それは、メシフィアを知る人物から出た疑問の声。
「余計なことを考えず、必要じゃない人とは関係を絶つ。それが、前の私でした」
「・・・」
「だから、最初の頃は、何でもかんでもなんとかしようとする彼を、嫌っていました。なんでもかんでも、できるわけがない、すぐに挫ける・・・って」
「・・・そうだったの?」
ケイタの疑問の声を無視して、メシフィアは続けた。
「でも、彼は挫けませんでした。私より、5歳も年下の彼は、私よりずっと強かった」
「・・・」
「私は、間違ってしまったことから目を逸らし続けたのに、彼はそれをしなかった。それがいけないことだと、とっくに理解していました」
「・・・」
たぶん、人を殺めてしまったことを言っているんだろう。
だけど、挙式でそれは言えない。
「そしていつしか、私は彼のことばかり考えていました。いつも、彼ならどうするだろう?そればかり・・・」
「・・・」
「いつも迷う私を、彼は傍まで歩み寄ってきてくれて、手を取ってくれました。一緒にいこう、と。いつもそうして、私のことを信じてくれました」
「メシフィア・・・」
メシフィアは、一旦目を伏せて、俯いた。
その後、あげた顔は……………今まで、見たことがないほど、晴れやかな、美しい顔だった。
「この挙式についても、私はまた迷いました。彼を、一生愛すると誓えるのか。こんな私を、彼は一生愛してくれるのだろうか?」
「・・・」
「そのとき、彼は何も言いませんでした。ただ、気づいたんです………彼は、私が答えを出すまで、隣で見守ってくれていたんだって」
「・・・」
「だから………」
メシフィアは虹色のガラスをみつめた。
そこから入ってくる光が、ほのかにメシフィアを照らす。
「今なら誓えます。彼が、一緒に歩んでくれたから。ずっと、傍で、心を重ねていてくれたから」
「・・・メシフィア、やろうか」
「はい!」
ケイタとメシフィアは、永遠神剣を取り出した。
本来なら、恐れ、嫌悪するべき剣。
だけど………今日は、違った。
「今、ここに誓います!ここにいるみなさんに!俺の、彼女のパートナーに!!」
「私は、彼と共に、どんな苦しみであろうと、悲しみであろうと、乗り越えると!!」
「俺は、彼女と共に、どんなささいな幸せでも、嬉しさでも、全て大切にすると!!」
「「今、この輝く剣に、みなさんに、誓います!!!」」
パァアァアァンッ!!!
パパパパパァアァアァンッ!!!
神剣から、柔らかな光が炸裂する!
それが、クラッカーと紙ふぶきを更に高く舞わせた!!
「啓太、お前・・・」
「ん?何?光陰?」
「ったく。お前とメシフィアには、本当に負けたよ」
「え?」
「お前らは、本当にすげぇよ」
「?よくわからないんだけど」
「わかんねぇからすげぇんだよ」
「??」
光陰はそう言い残して、手をブラブラさせてユウト達の所へ行ってしまった。
「は〜………疲れた」
「ケイタ、まだ終わってない」
「だ、だってさ〜……」
「それより、どう?このドレス」
「え?」
改めてメシフィアを見る。
俺が選んだ、あのドレスを見事に着こなしていた。
「えっと……うん」
「それじゃ、わからない」
「綺麗だよ。えっと………言葉も飛んじゃうくらい。それくらい」
「ケイタも、格好いいよ」
「そうか・・・?これ、なに?」
肩の所についている羽。
これ、非常にゴワゴワしているんですけど。
「そのマントも」
「歩きにくいけど」
背中に、背丈ほどある白いマント。
そもそも、こういう衣装自体着慣れてない。
キーンッ!!
「いつっ・・・!カノン・・・?」
{すまないケイタ。このような時に}
「どした?」
{敵の気配だ。それも、そろそろ街に着くぞ}
「・・・しょうがないなァ」
どうやら、結婚式は裏目に出たようだ。
逆に、油断しているからチャンスだ、と思わせたらしい。
俺はカノンを持つ。
「敵か?」
「うん。メシフィアは【一緒にいく】・・・はいはい、そうだろうね」
「一人で行こう、なんてダメ。さ、行こう?」
メシフィアも蒼天を持つ。
そして、俺たちはこっそり式場を抜け出した。
一気に駆け出す。
「なぁメシフィア!!」
「なに!?」
俺たちは走りながら会話する。
せっかくの衣装も、汗や土で汚れていく。
「やっぱりさぁ!」
「はい!」
「俺たちには、こういう方が似合ってるよな!!」
「当然!!」
「よっしゃ!いくぜメシフィア!!」
「はいっ!!」
その後、ユウトらが駆けつけた時には、敵はいなかった。
いたのは、汚れたドレスを着た女性と、汚れたタキシードを着た男性。
だが、二人とも、すごく晴れやかな顔をしていたと言う………。