――――私は・・・なんのために戦っているのだろう?
なんて・・・だ〜れかのセリフを真似てみる。
でも・・・思い返すと、私にはそれがわからなかった。
私は、膝の上でなんだかと〜っても気持ちよさそうに寝ている少年の額を撫でる。
すると、うぅん・・・なんてすごくくすぐったい声を出した。
そして・・・私はその温かい時間を使って、考えてみることにした。
――――なぜ、私は戦っているのかを…………
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Connecthing・Fate
外伝 〜〜 彼女の始まり 〜〜
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私は両親の顔を知らない。
なぜなら、両親とも私が物心つく前にいなかったからだ。
死んでしまったのか、私を見捨てたのか・・・定かではない。
ただわかっていることは、私は孤児院のドアの前に置かれていたということ。
その時、私の頭に傷ができてしまった。
今も残っているけど、誰にもみせたことはない。
―――もちろん、彼にも・・・。
私を育ててくれたのは、当時の孤児院をたった二人で経営していた若い夫婦。
私がお母さんと呼ぶ人も、お父さんと呼ぶ人もこの二人しかいない。
私はその孤児院の一人目の孤児となった。
一人目、ということでとっても二人に良くしてもらった事を覚えている。
時には川で遊び、時には森で生物と触れ合い・・・時にはケンカもした。
それらがあるから・・・私は幸せな人生を送れたと思う。
だけど・・・それも突然終わりを告げた。
私が13歳の時、孤児は10人を越え、生計が成り立たなくなって来た。
それは、もうこの年の私には隠しきれない事。
それでも必死にそれを隠して、孤児を不安にさせまいとしていた夫婦の姿は、見ていて辛かった。
そもそも・・・なんで生計が成り立たなくなったのかというと・・・
突然、王は税金を一気に引き上げた。それによる暴動は武力で抑え込む。
当然・・・孤児に影響が出るかもしれないから、夫婦は暴動に加わらず、従うしかなかった。
もちろん、国から援助は受けていた。
でも・・・今だからわかる。
王はわざと足りなくなる程度しか援助してくれなかったんだ、と。
そして・・・事件は起こった。
私は買い出しから戻り、孤児院に帰った。
みんなはお父さんと川に出かけている。
私がドアに手をかける。
すると・・・中から、女性・・・お母さんの荒い息遣いが聞こえて来た。
私はそっとドアをあける。
そこには・・・当時、私にはわからなかったけど、お母さんと・・・誰かが体を重ねていた。
お母さんが一糸纏わぬその生まれたままの姿で誰かに抱かれている・・・。
しばらく見ていると、男がバンッ!と札束を置いて、孤児院を出て行く。
それが孤児院の足りない部分の収入源だと知ることができたのは、私が15歳の時だった。
それは・・・お母さんのお腹に子供がいるってわかった時。
お父さんはすごく喜んで、みんなも喜んでいた。
でも・・・
お母さんは今にも泣き崩れそうな顔をしていた。
それでわかった。
―――お母さんのお腹にいるのは・・・お父さんの子じゃない。
って・・・。
だから、私は軍に入る決意をした。
お母さんをこれ以上汚させたくない。
お父さんに、いつまでも苦労をかけるわけにはいかない。
そして・・・私は16歳にして、軍に入ることになった。
当然両親には反対されたけど、半分家出って感じでそのまま軍に身を置いた。
私は強くなるために、華麗な精霊(スピリット)達と全く同じ訓練を受けた。
攻撃は青スピリットと同じもの。
防御は緑スピリットと同じもの。
さすがに魔法はカオストロでは使えなかったから、赤スピリットと同じ訓練はできなかったけど。
そして、行動力は黒スピリットと同じもの。
当然、最初はついていけなかった。
だから、陰口で『アイツは頭がいかれてる』、『よくスピリットと同じ訓練できるな』と言われた事も少なくない。
だけど、私は気にしなかった。
私をここまで綺麗に育ててくれた両親のために・・・なにより、こんな腐った国を少しでも良くするために。
シルビアと出会って、私の待遇は少しだけ良くなった。
両親のためにも、私は貪欲に地位にこだわった。
そして・・・
私は19歳で、遊撃部隊隊長に任命された。
その頃には、訓練相手はもはやスピリットだけだった。人間では相手にならない。
そこで、私は鏡を見る。
そこにうつっていたのは、整った顔をした女性だった。
そういえば・・・最近やたら男の視線を感じていた。
―――そう・・・私は女だった。
普通ありえない。
19歳で、自分が女性だと自覚するなんて。
そもそも・・・私は男性とも女性とも思っていなかった。
そんなことに興味を持つ暇もなかった。
それほどまでに、地位と金を追かけ続けていたんだと思い知った。
そこで、何年ぶりにか孤児院へ帰る。
軍に入ってからずっと、お金は配達してもらっていた。
実質、今日が初めての手渡しだ。
その孤児院に・・・お父さんはいなかった。
そう・・・お父さんは知ってしまったのだ。
お母さんのお腹にいたのが、自分の子供ではないことに・・・。
そして・・・そんな俺は、君の傍にいてはいけない、って・・・出ていったそうだ。
お母さんのお腹の子供は中絶したそうだ。
だけど・・・その時のせいで、二度と子供が産めなくなってしまった・・・。
肉体的にも・・・精神的にも。
私は、泣き崩れるお母さんを抱いて、お金をテーブルの上においた。
お母さんはこう言った。
『ゴメンね・・・!私が・・・私が・・・っ!!』
ひたすらそう泣き叫んだ。
それは、私に言ったのか?お父さんに言ったのか?それはわからなかった。
そして、私は軍に戻る。
いつしか・・・カオストロナンバー1という、いりもしない称号を得ていた。
部下を得て、遊撃部隊を鍛える。
彼らにも家族がいる。だから・・・誰一人として、辛い思いはさせない。
そう・・・必死にがんばっていた。
その姿に惚れた、と何回もプロポーズを受けたが、私は全て断った。
私は恐かった・・・家族を得ることが・・・。
そして・・・
私はとうとう・・・運命とも言える出会いを果たした。
「うわー、女性だ。珍しい」
「・・・む?」
彼は最初にそう言った。
目を大きく開き、すごく驚いていた。
メルフィーと一緒に落としにきた関所でのことだった。
今にして思えば・・・すごく変な出会い方をしたんだろうけど。
そう・・・彼、大川啓太・・・。
最初に見た時は、ハッキリ言って軍人か?とすぐ疑った。
アクティブな感じの軽装、持ちなれていないのがすぐわかる剣、そして、戦いを知らない優しい顔・・・。
彼はいきなり雰囲気を変えた。
殺した。そう思っていたのに、目の色を変え、ものすごい速さで襲って来た。
その強さは今までで一番だった。
そして・・・
なにより、彼が言った『ゲス』という言葉が重たく私にのしかかっていた。
その後、彼はカオストロに来て、私は挨拶にむかった。
正直・・・気乗りしなかった。
あんなに敵意を剥き出しにされて、歓迎されるとは思えない。
だけど・・・彼は私に確か、こんな感じのことを言った。
『好きで殺してるんじゃない・・・って、そう思ったんだよね?』
私は驚いた。
なんで・・・彼にはすぐにわかったのだろう?
その瞳に吸いこまれてしまいたい・・・私は純粋にそう思った。
今にして思えば・・・この瞬間から、彼に心惹かれていたのかもしれない。
彼と一緒にいるうちに、彼の事がわかってきた。
最初は、理想論ばかりで、本当に戦いを知らないんだな、そう思った。
でも・・・
本当は、彼が一番知っていたのかもしれない。
戦う辛さを・・・。
彼のお兄さんが現れ、『死ね』と言った。
彼の事を慕っていて、婚約したばかりのシルビアが殺された。
戦争終了のために、彼はお兄さんを助けようとして、殺してしまった。
彼の故郷がエターナルに破壊された。
―――彼の最後の家族、アエリアが殺された。
彼は、私を助けるために私を斬った。
彼は、彼は………………
彼は、本当は誰よりも不幸なんじゃないか?そう思った。
身近な人が次々と死んでいく。
守れなかった、そうして何回痛感させられただろう?
なのに…………
――――なのに・・・
彼は笑顔を忘れる事はなかった。
親しい人との死に向き合う・・・それがどれだけ辛い事か、私は知っている。
それでも・・・彼はそれを何回も繰り返した。
それでも・・・彼は、笑顔を忘れなかった。
それでも……………
―――彼は私を愛してると言ってくれた。
それを聞いたとき、私は彼の胸で泣きじゃくりたかった。
それほど・・・すごく、すごく嬉しかった。
人に愛され・・・愛する事が、これほど嬉しいとは思わなかった。
つい最近まで女性であることすら無自覚であった私が、こんなに誰かを愛したのは、求めたのは初めてだった。
そして・・・私は一番恐かった言葉を自然と紡ぎ出した。
『私は・・・子供が欲しい』
彼は吹き出した。
でも・・・私はこの気持ちをどうしても、伝えたかった。
『たくさん・・・じゃなくてもいい。それで、幸せな家庭が欲しい』
彼はそれを聞いて、ほんのすこし黙った。
でも・・・すぐに口を開いた。それは、予想していたとおり、孤児院のこと。
すると、彼は・・・
『男の子と女の子・・・一人ずつくらいは欲しいかな?』
それ以上追求せず、そう言ってくれた。
もし、今日子の邪魔が入らなければ、きっと強く強く抱きしめていたと思う。
彼となら・・・幸せな家族がもてる・・・そう、その時確信した。
その後、彼と私はいろいろあった。でもそのおかげか、それから彼が離れていく、ということが想像できなくなっていた。
もはや、彼は私だった。
彼は、私の求める物をすべて持っていて、それを絶対に私と共有してくれる。
そんな彼も、私がいないと生きていけない、と言ってた。
あぁ・・・のろけ話に転換するのはもうやめて、と。
だから・・・私は、私だけは・・・絶対に、彼の傍に永遠にいよう、そう誓った。
でも、運命というのは人に悲しくできてるもので・・・
彼は最後に、命をかけてブラックホールをカノンで抑え込むという大仕事をしなくてはいけなくなった。
その時、私はこう叫びたかった。
『私も一緒にいるっ!!』
だけど、彼はきっとうん、とは言ってくれない。
だから・・・彼の言葉を信じて、待つことにした。
だって・・・彼は、私の求めるものは全て持っているんだから。それを絶対に共有してくれるんだから。
そうして・・・あの世界の戦いは幕を閉じ、彼と私は永遠に一緒にいると誓い、エターナルとなった。
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「・・・」
私は思う。
最初は両親のために戦った。
でも・・・最後には、それだけじゃなかった。
一番大きかったのは・・・彼を一生、傍で支えたい、この気持ちだったと思う。
「ん・・・」
彼が目をこする。
だから、私は満面の笑みで、挨拶をする。
「おはよう。ケイタ」
「んぁ・・・おはよ。どんくらい寝てた?」
「ざっと・・・2時間くらい」
「そっか・・・やっぱロウを6人も相手じゃ、二人じゃきついな」
彼はそう言って、寝ぼけ眼のまま起きる。
彼は辛い・・・と言っていたが、全然そんなことなかった。
実際、私が手だしする暇もなく、あっという間に6人のロウは消えていった。
それだけの実力を持っていながら、彼はあの頃と何も変わっていない。
「ん・・・じゃぁ急いで帰るか」
「え?」
「だって、今日はメシフィアの誕生日だろ?」
「あ・・・」
すっかり忘れていた。
エターナルになると時間の感覚がどうも薄れるらしい。
「家ではもうツバサとアミィが準備してるはずだしね」
「私に隠してたの・・・?」
「フツー忘れるとは思わないから、てっきり気づいてるもんだと思ってたよ」
はは、と笑う。
そう・・・私はこの笑顔が大好きなんだ。
いつまでも、彼のその笑顔を見ていたい。一番・・・近くで。
だから、私は仕返しにウソをつく。
「足が痺れた。手、かして」
「なんだよ、しょうがいないなぁ」
私は彼の手をとって・・・そのまま引き寄せた。
そのまま、彼が私に崩れてくる。
私は、そのまま彼を支えてキスをした。
「っ!なんだよ、いきなり・・・恥ずかしいなぁ、もう」
「ケイタが悪い」
「なんで?」
「ケイタが・・・ん、やっぱなんでもない」
「おい!言えよ!気になるだろ?」
「はやく帰る。祝ってくれるんでしょ?」
「・・・はいはい。んじゃ、カノン。頼む」
{任せろ}
私と彼はその門へと体を通す。
私はさっと手を握ろうとした。
だけど・・・先に彼が握ってきた。
やっぱり・・・彼は私の求めるものを、全て持っていて、共有してくれている。
だから・・・私は絶対に失いたくない。
この幸せな時間を・・・永遠に・・・。
そして・・・それを与えてくれて、共有してくれている、彼を・・・絶対に。
―――そう。
―――彼の傍にいることが・・・私の戦う理由。
―Fin―