「さて・・・あと、敵は実質、秋月とアペリウスだけになった」

「・・・」

「そして、カクインの遺留品から・・・明日、エクステルの森を燃やす作戦があるということが判明した」

「えぇ!?」

「なんでそんな酷いこと・・・」

「事情はなんにせよ、阻止しなきゃいけない・・・そして、その指揮を執るのは・・・秋月だ」

「・・・!」

俺は驚く悠人を見る。

「悠人、この一戦で、全てに決着をつけろ。いいな?」

「おう・・・!」

力強く頷く悠人。

どんな因縁かはわからないが、随分とゴタゴタがあったようだ。

「作戦は、おそらく敵は火矢で森を一気に燃やそうと思うだろう。ま、火矢じゃなくても、敵に森に触れさせるわけにはいかない。だから・・・俺は、カノンで森全体にバリアを張る」

「あの大きな森を、まるごとガード・・・ってわけね」

カノンだからこそできる芸当だ。最も原始的だが、最も安全な策だと思う。

「だから、前線はメシフィアと悠人に任せる。まず、悠人チームだけど・・・悠人、アセリア、エスペリアだ。そしてメシフィアチームにメシフィア、レイナ、アエリアだ。他の人は悠人チームが秋月に到着するのを援護。その後は敵を森に近付けないように牽制してくれ」

「了解!」

「出発は明日の早朝。よろしく頼んだ」

・・・

 

 

 

 

 

悠人はベランダから夜空を見上げていた。

「・・・」

「よっす」

「・・・啓太か」

そんなしょぼくれた様子の悠人に声をかける。

「オウ、啓太だ」

俺は断りもせずに悠人の隣に座る。

「・・・俺、勝てると思うか?」

「・・・勝てないな」

「・・・もう少し言い方ないの?」

正直に言う俺に、眉間にシワをよせて言う悠人。

「ない。きっと、この瞬間も秋月はおまえを倒したがってる」

「!!」

あまり彼を見たことはないが、憎しみで歪んだ顔は今でも俺の脳裏にやきついている。

「ウジウジ悩んでいるおまえが、倒せるハズもないさ」

「・・・」

「実際・・・倒さないほうが幸せかもな・・・」

「え?」

俺は星空をみあげる。

その様子を見て、悠人は勘付いたようだ。

「啓太・・・もしかして、アレックスとかグレイとか・・・倒して・・・」

「・・・自分に嫌気がさしたよ。その時は本気で倒したいって思ってたのに、今じゃ後悔してる」

「・・・」

「でも・・・俺はまだ止まりたくない。アペリウスが生きていれば、きっとあーいう人が増えてくる・・・アペリウスの間違った考えに賛同する人間が・・・。だから・・・俺は、この手を汚そうと、絶対に止まらない。この事態を引き起こしたのが・・・俺だから」

「・・・」

そこまで来て、ついハハッと笑ってしまう。

知らないうちに随分と責任感が強くなっている事に気づいた。

「俺みたいなガキが一つの世界の運命を狂わせたなんて・・・信じられないよなぁ。でも・・・そうなんだって」

「・・・」

「だけど・・・俺は間違った道を進んではいないと思う。俺は、シルビアや兄貴やおじいさんに約束したから。だから、悠人も・・・倒すかどうか・・・考えてみればいいさ。悩んで出たこたえが、紛れもなく、おまえの道だろ?」

「・・・そうだな」

「さぁて・・・俺は寝るよ」

「・・・啓太」

「ん?」

悠人は前々から聞きたかった事を聞く。

「妻がいるって・・・愛する女性がいるのって・・・いいモンか?」

「・・・かなりね」

俺は笑ってこたえた。

「そっか・・・」

そこでまた遠い目になる悠人。

 

仕方ない・・・たまにはいい役やってやるか。

 

「アセリアの事・・・がんばれよ」

「なんでそーなる!?」

「・・・違うとは言わせないぜ?俺はおまえと剣を交えた事もあるんだから」

悠人が一番重たい剣劇を放つ時・・・それは、どういう時か、俺は知っていた。

「・・・ぐっ」

「アセリアを斬った時、一番激怒したのはどこのドイツだったかなぁ?」

「・・・ほっとけ」

「ま、がんばりたまえ」

「・・・」・・・

 

 

 

 

 

「・・・ユート、呼んだか?」

「・・・なんでいる?」

突然やってきたアセリアに聞く。

「ケイタに呼ばれた」

「・・・あんにゃろ」

心の中でチッと舌打ちする。余計なお世話に悪態をつきたくもなる。

「どうした?夜空なんか見上げて」

「・・・ちょっと考え事」

「隣座るぞ?」

「ああ」・・・

 

 

 

「何を考えてたんだ?」

「別に・・・瞬の事とか、啓太のこととか」

「・・・それだけか?」

なんだか悟られてしまっているようなので、諦めて答える。

「え?あ、いや・・・アセリアの事もちょっと・・・」

(そりゃそうだろうが。啓太にあれだけ言われれば、少しは考えるっつーの。いや、元々俺が考えてたんだけど・・・)

そうじゃなきゃ、愛する女性がいるのっていいもんか?なんて聞かないだろう。

「私か?」

「まぁね・・・」

「・・・私もユートの事を考えてた」

「え?」

「いつからだろうな?こう・・・胸が締め付けられるような時がある。そう・・・たとえば、大けがしたときとかだ」

その複雑な表情をするアセリアを見て、まだお互い気持ちの整理ができていないんだと思う。

「・・・」

「それを・・・考えてた」

「そっか・・・」

二人は揃って夜空を仰ぐ。星が満面に広がっていた。

「なぁアセリア」

「なんだ?」

「・・・俺は、勝てると思うか?瞬に」

「・・・ユートはどうなんだ?」

「・・・え?」

逆に聞き返されてしまった。

「勝ちたいと思ってないのか?」

「・・・正直、わからないんだ」

「・・・」

「勝ちたい自分もいれば、なぜか負けてもいい自分もいる・・・ただ、死ななければそれでいい・・・なんて」

「・・・」

「不安・・・なんだ。明日が・・・」

「・・・そうか」

サッと自分の手を、悠人の手に重ねるアセリア。

「!?」

ついその温かさに動揺してしまう。

「大丈夫だ。私がいる」

「・・・」

「いざとなったら、私が勝ってやる」

「・・・」

「だから・・・がんばれ」

「・・・はは」

なんて・・・ぶっきらぼうな応援なんだろうか・・・

 

でも・・・すごく、響いた。

 

「ありがとう、アセリア」

その言葉だけで、求めよりも力が沸き出る気がした。

「ん・・・」

「女の子にここまで言われたら・・・やるしかないよな、男として。瞬に・・・勝つ!」

「がんばれ、ユート」

「・・・アセリア」

俺は決意して、アセリアに言う。アセリアに向き直った。

「ん?」

「明日の戦いが終わったら・・・言いたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」

「・・・いいぞ?」

「よし、んじゃ明日は早いし、寝るとしよう」

「ん・・・」・・・

 

 

そして、その様子を見て微笑む影。

(やっぱり男より、惚れた女に励まされた方が心に響くよな、カノン)

{だからといって、俺の能力で覗きをするなッ!!}

 

 

 

 

 

「しかし、エクステルも久しぶりだよなぁ、アエリア?」

オレ達は団体で移動していた。

中枢に組み込まれている人が先頭に立ち、進んでいく。

「そうだね・・・あの時啓太についていくって、出ていってから・・・もう、結構経つんだよね・・・」

「あんときゃぁ、俺もこんなことになるなんて思ってなかっただろうな・・・」

「何が?」

アエリアに言われて、言い表せない程のたくさんのことに巻きこまれていた事に気づいた。

ここまで一気に走ってきたんだと思うと、懐かしかったりして笑ってしまう。

「・・・あはは。いろんな事がありすぎて・・・言い尽せないや」

シルビアとか・・・カノンとか・・・本当に、イロイロあった。

正直に言えば、全てにおいてこんなことになるとは思わなかった・・・が正解なんだろう。

「アエリア、一緒にあの人に会いにいかない?」

「いいよ。あの時・・・か」

どこか自嘲めいた声を出すアエリア。普段ならめったにしない表情だ。

「どしたの?」

調子が悪いのかもしれないと思ってたずねた。

「・・・ねぇ啓太」

「うん?」

「・・・森についたら、話したい事があるの」

どこか決意を秘めた瞳。俺は何か重要な話があるんだろうとわかった。

「いいよ」

「んじゃぁ、ボク達が出会ったあの湖で」

「・・・わかった。かならず行くよ」

それっきり、俺とアエリアの間に会話はなかった。

なぜだか・・・話を切り出せない雰囲気になってしまったから・・・。

 

 

 

 

そして・・・オレ達は、明日戦場になるであろうエクステルの森の前の平野についた。

「じゃ、ここでキャンプということで」

「よし、アセリア。一緒に水汲みにいこう」

「ん・・・わかった。ユート」

「じゃぁ、オルファは薪を取ってくるよ」

「お願いね。では・・・私はテントを張るのを手伝います」

「エスペリアが手伝ってくれると助かる。ん・・・?」

メシフィアは周囲を見回す。

いつもならここであの人の声が・・・。

「どうしました?」

「・・・ケイタとアエリアは?」

「あぁ、なんでも今回の事をエクステルの長さんに話しにいきました。二人は、エクステルですから」

「ああ、そうか・・・」

そういえばそうだ・・・。戦場になるのだし、挨拶しにいかないのはマズいだろう。

「そういえば・・・アエリアさんの雰囲気がいつもと違っていましたけど」

エスペリアが不思議だ、という表情で呟く。

「どういう風に?」

「大人っぽくなったというか・・・何かを決意してましたね。気のせいかもしれませんが」

「・・・」

メシフィアはつい作業の手を止めてしまった・・・。

 

 

 

 

 

「なるほど・・・今回、そのような作戦が・・・」

長さんは頬杖をついて、考え込む。

「アレスティナが、なんでそんな作戦を取るのかはわかりません。でも、だからこそ聞きたいんですけど・・・何か、狙われるような覚えはありませんか?」

「・・・あなたたちには、話しておいてもいいでしょう。来てください」

長さんは立ち上がり、オレ達を連れて、地下へと進んでいく・・・。

 

地下室・・・というのにはあまりに神秘的な部屋に通された。

 

「ここは?」

「辺りのマナが、自動的に集結する・・・霊穴、とでもいいましょうか」

「そういえば・・・」

カノンを通じて、いつもより何倍も濃いマナを感じる。

「ここは、覚えていますか?」

「・・・!」

思い出した!ここで、俺の記憶再発の儀式が行なわれたんだ。

「えっと・・・つまり?」

アエリアはまだピンと来ないようだ。

こういうところはまだこどもだ。

それがなんだか嬉しいような感じがして、困っているアエリアを見て笑ってしまう。

「つまり・・・ここでは、そのような特殊な儀式ができるんですよ。記憶だけでなく・・・寿命を何千年延ばしたり、身体を強化したり・・・」

「ってことは・・・ここが敵に渡れば?」

「例えば・・・天変地異を起こすことも可能です」

俺はそこで叶さんに聞いた話を思い出した。

「・・・もしかして、地震を起こすことも?」

「できます」

「!」

「ね、ねぇ啓太・・・それって・・・」

「・・・ああ。もし俺がこの世界に来なかったら、今から二十年後に発生して、カオストロとエレキクルの戦争を止める・・・あの地震・・・だろうね」

大災害を引き起こし、両国とも済し崩しに戦争を終えざるをえなかった程の・・・大地震。

「やっぱり・・・俺が来たせいで、もう・・・未来は変わってるんだ」

その事が、俺の心をわしづかみにする。

「・・・でも、啓太」

「わかってる。だったら、俺達が起こさせなければいいんだよな?」

「う、うん!」

「長さん。オレ達は絶対に森を守って見せます。だから・・・この場所の警戒だけは、忘れないでください」

「はい」

「あと・・・もし、ボク達が・・・信頼できると思える戦いをしたって思えたら、手を取り合う事も考えてくれませんか?」

アエリアが長さんを見据えて言う。

どうやら・・・最初からこれが目的だったようだ。

「・・・」

「別に、戦争をしてほしいわけじゃないんです。ただ、ボク達の戦争が終わったあと・・・全てが平和じゃないと、イヤなんです。だから・・・考えてくれませんか?」

アエリアの普段とは違う言葉に驚く。

いつのまにこんなに大人っぽくなっていたのだろう?

だけど・・・前に街の人と仲良くなった時の事を考えると、逆に安心できてしまう。

「・・・わかりました」

まだ快い返事はできないようで、長さんの顔は渋かった。

それでも、アエリアは一歩進めた事に喜んで、笑顔を見せていた。

「それでは、オレ達はこれで」

「はい・・・」・・・

 

 

 

 

 

そして、オレ達は湖へと来た。重いけど、どこか軽い雰囲気が流れる。

「・・・ねぇ、啓太」

「うん?」

「やっぱり・・・啓太がこの世界に来てくれて・・・良かった」

「え?」

いきなり不思議な事を言い始めるアエリア。

「だって・・・この世界は本当の平和に向かっている気がするの」

「そんなことないさ」

本気でそう思う。さっきのアエリアの言葉を聞けば、誰でもそう思うだろう。

どちらかといえば、アエリアのその笑顔の方が世界を平和に近づけている気がする。

「本当なら、もっと長い間人間同士で憎みあって、殺しあってたはずなのに・・・今じゃ、手を取り合って戦ってる人の方が多い」

「・・・」

「だから・・・啓太はやっぱりすごいよ・・・」

そこでアエリアは俺に向き直った。

その表情は普段ふわふわと飛んでいきそうな顔ではなくて・・・

俺は気を引き締めた。

「それでね・・・一つだけ、隠してた事があるの」

「本題か・・・。なんだ?」

「・・・啓太のお父さんが、この世界に来た事があることは知ってるよね?」

「ああ。んで、母さんと一緒に事故で飛ばされた・・・だろ?」

「うん・・・」

なぜか言いにくそうに俯いているアエリア。

「どうしたの?」

「・・・あのね、啓太の両親が別れた理由・・・わかるの」

「え!?」

いきなりの発言にビックリする。

なんでアエリアがわかるんだ・・・?

「ボクの名前・・・覚えてる?」

「ああ・・・アエリア・S・オーカワだろ?」

「そう・・・」

「・・・それで?」

「・・・啓太のお父さんはね・・・」

「ああ・・・」

アエリアの雰囲気に、とてつもなく悪い予感がしてしまう。

それはどこか、確信に近い予感・・・。

しかも、あまり良くない事実が出てくる事に対しての物だった・・・。

「・・・あるエクステルの女性と、一夜限りの交わりを持った事があるの」

「・・・」

「・・・そして、それは・・・啓太のお母さんじゃない」

「・・・え?」

「ボクのお母さん・・・なの」

「!!それって・・・つまり・・・」

「・・・うん。長さんに、黙っていなさいって・・・言われたんだけど・・・」

アエリアは、静かに翼を二枚取った・・・。

「!!」

アエリアの背中から生えている翼は二枚・・・。

「ボクも・・・ハーフなんだ。啓太のお父さん・・・ボクのお父さんでもあるの」

「ぁ・・・ぇ・・・つまり・・・君は・・・」

うまく言葉にならない。

今の衝撃は、未だに俺の脳をぐらぐら揺らしている。

「うん・・・異母姉・・・なの。啓太の・・・ね」

「ウソ・・・だろ?マジ・・・?」

驚きで言葉が途切れ途切れになる。まともに言葉を繋げなかった。

「そして・・・お父さんと啓太のお母さんが喧嘩した理由は・・・ボクが、お父さんに会いに行ったのが原因なの・・・!」

「そ、そんな・・・!ウソだろ?だって、俺の記憶に君は・・・」

一度も出てきてない・・・。

「だって、ボクがお父さんに会ったのは、啓太の家じゃなかったから。それで・・・その場面を啓太のお母さんに見られて・・・」

「・・・」

たぶん、俺の母さんは・・・知らなかったんだろう。

だから・・・裏切られたと思って・・・。

母さんは翼が生えているんだから、周囲の視線も決して快いものではなかっただろう。

 

人間は、少し特殊なだけで、その人を蔑んだり、否定したり、攻撃する・・・。

 

そんな弱い人間にとって、母さんは格好の的だったはずだ。

でも、それでも母さんはあの世界で生きていた・・・もちろん、元の世界に帰れない・・・もあっただろう。

だけどきっと・・・

 

 

なにより父さんが母さんの傍にずっといたから・・・。

 

 

だからこそ、生きていけたんだ・・・。

でも、父さんは少しずつ仕事が増えて、母さんと一緒にいる時間が減ってきた。

そんな中で、母さんは・・・少しずつ、変わっていってしまった。

そして、そこに・・・違う女性との間にこどもがいたとなれば、発狂してもおかしくない・・・。

オレ達の世界が、人間として、精神的に未熟な人達が多すぎて・・・

その人達が、本質を見ずに、見た目だけで人を判断するような世界を作ったから・・・

母さんは、それに耐えられなくなったんだろう。

 

「ゴメン・・・ゴメンね・・・っ!啓太・・・!」

俺にすがりつくようにして、泣き声を混ぜた謝罪をするアエリア。

この小さな華奢な体に、罪の意識を精一杯かくしていたんだな・・・。

(あれ?)

「なぁ、アエリア・・・ってことは、俺の・・・姉さん!?」

「え?」

「み、見えない・・・」

俺とアエリアは頭ふたつ分くらい背が違う。

「・・・アエリア」

「・・・」

俯いて、決して俺をみないアエリア。

 

「別に・・・いいんじゃないか?」

 

「え?」

「俺は、元の世界がなくなって、家族は誰もいなくなったって・・・思ってた。でも・・・こんなに近くにいたなんて、今でも信じられないよ」

「啓太・・・」

「だから、気にするな。逆に・・・そう打ち明けてもらえて、俺はうれしいよ」

「啓太・・・っ!」

俺はアエリアの華奢な体を受けとめた。

震える体は今にも折れそうで、優しく背中をなでた。

「例え、母さんが違おうと構わない。俺は今・・・純粋に、血のつながってる家族がいて、うれしいんだ・・・だから、いいんだアエリア。君・・・じゃなくて、姉さんが気に病むことはないよ」

「啓太・・・!」

俺はア・・・姉さんの頭を撫でる。

「強いて言うなら・・・これからもアエリアって呼ばせてくれないか?その・・・姉さんって言うと、周囲の反応が恐い」

「うん・・・アエリアでいいよ・・・啓太」

「ホラ、涙を拭いて」

「うん・・・」

俺は布でアエリアの涙を拭った。

「行こうぜ、泣き虫の姉さん」

「もぅ・・・」

そこではにかんだ彼女の笑顔は、いつか見た笑顔よりも綺麗に見えた。

オレ達は並んで歩きだした。

 

と、すぐにその歩みは止まった。

 

そこに・・・驚いた顔したメシフィアがいたから。

まさか・・・勘違い、してる?

「メシフィア?」

「・・・」

ダッ!

いきなり方向を変えて走りだす。

「あぁ、もう!やっぱり!!アエリア、一人で帰れるよな!?」

「当たり前でしょ?」

「よし、んじゃ俺はメシフィア追い掛けるから!」

コォォォッ・・・

バシュッ!

俺はカノンの力を借りて、メシフィアを追い掛けた・・・。

 

 

 

 

 

「おいってば!」

俺はなんとかメシフィアの肩に手をかけた。

「離して・・・!」

「何勘違いしてんだよ!」

「勘違い?どこが?」

「どこがって・・・俺とアエリアは今メシフィアが考えているような関係じゃないんだ!」

俺はハッキリと言う。

だが、そんな俺の言葉など聞く気もないのか俺から目をそらす。

「抱き合うような関係なんでしょ?そのくらい、わかる」

冷たくあしらうように言い放つメシフィア。

なんだか最近、メシフィアが普通の女性に見えてきた・・・。

当たり前か。

「違うってば!」

俺はメシフィアと目をあわせるために、頬を押さえた。

「いいか!?俺とアエリアは、別に付き合ってるとかじゃぁない!異母の姉弟なんだよ!」

「・・・ウソをつくなら、もっとマシなウソにしてよ」

俺の目から、すぐに背けるメシフィア。

「ウソじゃない!それに、もしアエリアと付き合ってるんだったら、俺は君を追い掛けたりはしない!なによりも、君に誤解されたまま過ごすのが、一番嫌だから・・・こうして君を追い掛けたんだ」

「啓太・・・」

「抱き合ったって、当たり前だろ?アエリアは・・・ずっと、自分のせいで俺の両親が別れたって思ってたんだから!それから解放されたんだから・・・」

「・・・」

俺はそこで区切る。

それでも、もしメシフィアがアエリアを認めたくないのなら・・・

「それでも・・・納得できないなら、俺は・・・ここで、君と別れる」

「!!」

決してメシフィアの気をひくためのウソじゃなかった。

心の底からそう思っていた。

「やっと見つかった・・・恐らく、最後の一人の・・・血の繋がっている家族なんだ。だから・・・メシフィアが、アエリアの事認めてもらえないなら・・・認めたくないなら、俺は・・・すまないけど、君と一緒にいることはできない。もちろん、メシフィアの事は一番愛してる。君の望みの、子供を産んで、新しい家庭を築くっていうのも、俺は大賛成だ」

 

そこで俺はメシフィアの肩から手をどけた。

 

「でも・・・メシフィアがアエリアの事認めるつもりがないなら・・・俺はアエリアと一緒にいたい。もちろん、大事な家族として。俺は・・・最後の家族を蹴って、君と一緒に生きて、楽しいとは思えないんだ。それは、逆にアエリアにも言えて・・・アエリアがメシフィアを認めないなら、俺はメシフィアと一緒に生きる。でも・・・やっぱり、お互いに認めてほしいんだ。そうじゃないと・・・家族、だなんて・・・言えないじゃないか。そんな形だけの家族なんて・・・メシフィアもアエリアも・・・俺も、望んでいないはずなんだ」

「・・・」

「だから・・・」

「・・・わかったよ」

「・・・え?」

「そこまで言われて・・・認めない、なんて言えないじゃない・・・そんなに大事に思っている家族を・・・認めない、なんて」

「メシフィア・・・!」

「それに、アエリアは私のお姉さんになるんでしょ?」

「・・・まぁ、ね」

とてもじゃないけど、見えない。

「だったら、何の問題もないよ。でも・・・さっきの別れる、っていうのは酷いと思うな」

「わ、悪い・・・つい、本音が一気に出ちゃって、ことばを考えてる余裕、なかったから・・・」

「もういいよ。さっきまで嫉妬してた私がバカみたいじゃない」

「バカじゃん。勝手に勘違いして、勝手に走りだして、勝手に」

「そこでストーップ!!もういいじゃない、済んだ事だし」

「・・・よく言うよ。マジで怒ってたくせに」

 

「・・・だって」

 

急にしおらしくなるメシフィア。

「ケイタを取られたって・・・思ったら・・・ぐすっ・・・」

ぐずり始めてしまうメシフィア。

「な、泣くなってば」

「だって・・・すごく・・・不安になっちゃって・・・!」

「悪かったって・・・。言い過ぎたよ、ゴメン」

「バカ・・・バカァ・・・!」

「・・・」

俺はそっとメシフィアを抱き締める。かけることばが見つからない。

「私がいつも・・・どれだけ心配してるか・・・知らないんでしょ!?ケイタ・・・女の子に甘いから・・・!」

「えぇ!?それはかなり心外なんだけど」

 

俺がいつ、女の子に甘くしたよ?

そりゃ、メシフィアには激甘ですけど・・・それは、惚れた弱みだとして置いておく。

 

「だって・・・シャルティの時とか・・・」

「む・・・。俺、結構モーションかけられてたけど、決して乗った覚えはないぞ?不意打ちくらったりしたけど・・・大体、あの時メシフィアが俺を避けるから・・・」

「だって・・・」

「今だから言うけどなぁ、ケーキ食べる?ってあったろ?」

「うん・・・」

「あの時だって、本当はシャルティ、俺にあ〜ん、させようとしたんだぞ?」

「・・・したんだ?」

「してねぇよ。俺はちゃんと、メシフィアが傷つくかもしれないからって断ったんだぞ?」

「・・・本当?」

「なぁ、カノン?」

{・・・まぁな}

「それに、そんなに不安になるんだったら、俺に四六時中くっついてろ。俺は迷惑じゃねぇから」

「・・・バカ」

さっきとは違うイントネーションが入ったバカだった。

「どうせバカですよ。でも、そのバカに惚れた人が目の前にいますけど」

「・・・最近、ケイタ・・・ひねくれてきた」

「・・・誰のせいだ、誰の」

 

「・・・光陰」

「・・・そうかもしれねぇな」・・・

 

 

 

 

 

「・・・よし、みんな、作戦どおりに頼む」

俺は後方で、みんなに応援をかけた。

「んじゃ、悠人・・・頼んだぞ?」

「任せろ」

悠人チームは敵軍へと走りだした。

「アエリア・・・死ぬなよ?」

「うん、もちろん!」

「メシフィアもついでにな」

「なんで私がついでなんだ?」

「信頼してるからな。恥をかいてでも、かならず生きて戻ってきてくれるって」

「・・・そういうこと、戦場で言うな」

ちょっとだけ頬を染めるメシフィア。

「ま、恥をかくほど苦戦もしないでしょ?」

「・・・まぁな」

「とにかく、全員、死ぬなよ!?」

 

 

『はい!!』

 

 

メシフィアチームも走りだし、他の人がふたつのチームを援護する。

敵の後方に、赤い光が見えた。

「ケイタッ!!」

「わぁってるよメシフィア!!いくぞ、カノン!!」

{いつになく燃えているな}

「家族が見つかって、やる気があふれてるんだ!」

{よし、いくぞ!?}

 

シュバァァッ!!

 

敵の後方から、森に向かって火矢が放たれた!

ものすごい数で、空が赤くなった。

「でやぁぁっ!!」

 

ブザァッ!

俺はありったけの力を込めたカノンを地面に突き刺した。

 

グオォォォォッ!

 

森に透明の壁が張られる。

 

ジュワァァァァッ・・・!

 

火矢は、透明の壁・・・バリアに当たると、跡形もなく溶けた。

「あとは、みんな次第だな」

{このバリア・・・啓太の力では、六時間は持続可能だ。ただ、暴走や襲われたりしなければ、だが}

「六時間もあれば・・・十分か?」

{ただ・・・なぜか怪しい}

「なにが?」

{いや・・・なぜか、マナがあふれすぎているんだ。これでは、何が起こってもおかしくないぞ?気をつけておけ}

「了解」・・・

 

 

 

ドォォォンッ!!

ドガァァァァッ!

 

オルファの呪文や岬の雷が炸裂する。

「二人ともサンキュー!」

「今回で、絶対に決着つけなさいよ!?」

「わぁってる!」

悠人は敵を流しながら、さっき感じた誓いの方向へと突き進んでいく。

流された敵は後ろのアセリアとエスペリアに気絶、もしくは倒される。

{おい、契約者}

「なんだ?」

{・・・『誓い』のけはいがしない}

誓いとは、瞬の永遠神剣だ。

反応がない、それはつまり、いないということを示している。

「そんなはずないだろ?」

{だが・・・並の永遠神剣の反応以外、ないのだ}

「んなバカな・・・どこかにいるはずだ。リーダーもいないでこんな軍隊が動けるものか」

{・・・もしかしたら}

「ん?」

{急いで啓太の所へ戻れ!今すぐだ!}

「なんで?」

{敵のねらいは、森とカノンだ。いちいちオレ達を相手にしないためには・・・敵のスピリットに紛れるのが一番効率的だろう!}

「!!つまり・・・瞬は啓太だけを狙って・・・!」

悠人は正反対に走りだした。

しまった・・・と舌打ちする悠人。

瞬は悠人しか狙わないと思っていたのが完璧に甘かった。

アセリアとエスペリアが驚いて固まっている。

「二人とも、急いで戻れ!」

「ん・・・」

「事情はわかりませんが、急ぎましょう!」・・・

 

 

「さぁて・・・どうすっかなぁ、カノン?」

{む・・・}

目の前には、まるで神剣の気迫がない秋月がいた。

どうやらけはいを消して、紛れてここまできたようだ。

「秋月・・・なんで森を狙う?」

「おまえもあの部屋を知っているのだろう?」

「・・・やっぱりあの部屋か」

予想できた答えに驚きもしない。

「別にどうでもいいが・・・アペリウスが破壊か乗っ取れ、という命令をくれたからな」

「だからって・・・森を燃やすことはねぇだろ?」

 

ジュワァァァァッ!

 

また火矢が飛んできて、跡形もなく溶ける。

「クックッ・・・どうせエクステルも、アペリウスにたてつく存在。だったら、消してしまったほうがいいじゃないか」

「・・・」

{啓太・・・どうする?}

「悠人がくるまで・・・か」

(大丈夫・・・悠人は必ず来る!)

前に作戦会議で見た、悠人の決意に満ちた顔を思い出す。

そうすると、不思議と安心できた。

「死ねよ・・・啓太ッ!!」

 

 

 

キィィンッ!!

 

 

 

「・・・やはり来たか!悠人!!」

求めがふりかぶられた誓いを止めていた。

「へへっ・・・啓太をやらせるわけにはいかねぇよ」

「そうさ・・・なによりオマエを殺したかったんだよ!!」

 

キィンッ!

 

二人は距離を取る。

「今日こそおまえを倒すッ!」

「疫病神がぁ!!死ぬのは貴様のほうだ!!」

「うぉぉぉぉ!!」

悠人が助走をつけて瞬に斬り掛かる。

「ふんっ・・・」

 

ドサッ!

 

求めは簡単に空振り、地面をたたく。

瞬は少し後方に下がっていた。

すかさず悠人は持ち上げながら突く!

「ぐっ・・・!」

そこまで考えていなかったのか、瞬の腹を直撃し、吹き飛ばした!

求めは形状的に、突きではダメージを期待できない。

「うあぁぁっ!!」

悠人は吹き飛ばされている瞬に斬り掛かった。

「でぇやっ!!」

瞬は誓いを振りかぶって、求めを防ぐ。

「!」

誓いが斜めに傾いたかと思うと、悠人はバランスを崩して求めは地面をたたいた。

瞬の誓いが一回転して、誓いを逆手に持った瞬。

 

バシュゥゥッ!

 

「ぐっ・・・あ!!」

そのまま後ろをむくようにして切り裂く瞬。

悠人は少しだけ後ろにジャンプしてかわすも、傷は深かった。

「そこだ!オーラフォトン・レイッ!!!

「!?」

悠人はオーラを展開して、ダメージを軽減しようとする。

その程度で防げる威力でないことは知っていた。

だが・・・

 

 

ドガァァッ!!

 

 

「うおあっ!!」

「!!・・・啓太ッ!!」

瞬が攻撃したのは、啓太だった。

啓太はモロに食らって、カノンを地面に突き刺したまま吹き飛ばされる・・・。

 

シュッシュッシュッ・・・

 

火矢が森に入っていく・・・。

 

パチパチ・・・

 

ゴォォォォォッ!!

 

瞬く間に火は広がり、森は緑から赤へと変貌した・・・。

「なっ・・・!」

「森が・・・ッ!!」

 

 

キャァァァ!

うわぁぁぁぁっ!!

 

 

森の中から、逃げ惑うエクステルの声が聞こえる・・・。

「そんな・・・ウソだろ・・・?」

悠人は膝をつく。

守りきれなかったことに、足が震えて立っていることができなかった・・・。

 

「・・・ウソだよね・・・?」

 

アエリアはその光景に震える。

視界が滲んで炎がぼやける・・・。

「ウソ・・・ウソでしょ・・・っ!!」

溢れてくる故郷への想いは、とどまることを知らない。

今まで過ごしてきた日々が心の中で暴れ出す。二度と戻ってこない日々・・・。

それが崩れて行く・・・。

 

白い羽根が・・・アエリアの前に降りて来た。

 

その羽根を見た瞬間、故郷を失い、ぽっかりと空いた穴には二つの感情が入った。

 

怒り・・・憎しみ・・・。

 

そして、行き場を失った、故郷をなくした怒りと憎しみは、そのままある人物へと向う・・・。

 

「秋月ィィィィィッ!!」

アエリアは秋月へと走りだした。全ての怒りと憎しみをぶつけるために。

 

 

 

 

「バカッ!!アエリア、止まれッ!!」

俺の制止も聞かず、そのまま秋月に特攻するアエリア。

「くっ・・・間に合え!」

俺は急いでカノンを手にしようと走る。

(もう・・・失いたくないんだよっ!!!)

 

「うわぁぁぁぁッ!サンダーブレイクッ!!連撃!アイスレイジッ!!!

「!!」

空から、雷が秋月に落ちたかと思うと、宙に大きな氷の固まりができて、それが地面へと落下した!

 

ドガァァァッ!!

 

「ぐっ・・・!」

あまりの衝撃の大きさに、全員が目を閉じる。

「間に合え・・・ッ!!」

俺はカノンへと手をのばした・・・。

 

 

「死ねッ!!」

「!!」

 

 

 

ブサァァァッ!!

 

 

 

「っ!かはっ・・・!!」

秋月があらわれたかと思うと、そのまま誓いをアエリアへ突き刺した。

胸から鮮血が飛び散って、あたりの草が真っ赤に染まる・・・。

「啓・・・太・・・!」

 

 

ドサッ・・・!

そのまま力なく倒れるアエリア。

 

 

「アエリアッ!!」

俺はカノンを手にしてアエリアへと駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」

「ゴメン・・・」

力なく笑うアエリアは、明らかにもうダメだと言わんばかりだった。

「カノン!」

俺はカノンをかざして、アエリアを治療する・・・。

「死ぬな・・・っ!!姉さんッ!」

傷はみるみるふさがっていく・・・。

だが、アエリアの顔色はなぜか良くならない。

「なんで・・・!?」

{言っただろう・・・!心臓などは治せない時がある・・・!!}

永遠神剣を持っていない姉さんが、永遠神剣に貫かれれば・・・

お互い神剣所持者の時より重症になるのは当然だった。

だけど、そんな理屈で諦められる程度の存在じゃないんだ!!

「そんな・・・!カノン!もっと力を出せッ!!」

 

 

バァァァッ!!

光が更に増す。

 

 

傷は完璧にふさがったが、アエリアはどんどん目を閉じていく・・・。

「姉さんッ!!」

 

「啓太・・・こんな・・・姉さんで・・・ゴメン、ね?」

 

「諦めるなっ!いつもの天真爛漫な姉さんはどうしたの!?」

 

「あはは・・・ゴメン、啓太・・・一つだけ・・・お願いが・・・」

 

「え?」

 

俺は小さな姉さんの、小さな声を聞くために耳を近付けた・・・。

 

「幸せに・・・なって・・・?それだけ・・・」

 

ふっと一気に姉さんの体から力が抜けるのを感じた。

「!!バカッ!目、閉じんじゃねぇよっ!!」

「こんな・・・姉さんを想ってくれて・・・本当に・・・ありがとう」

「死ぬな・・・っ!死ぬなよぉ・・・っ!!まだ・・・オレ達・・・」

「・・・」

「あ・・・っ!!」

 

 

アエリアは一筋の涙を流して、それから目をあけることはなかった・・・。

 

 

「ウソ・・・だろ?だって・・・まだ・・・昨日、知ったばかりなんだぞ・・・?」

「・・・」

「オイ、姉さん・・・」

アエリアの体を揺するも、力なくうなだれているだけだ。

 

フサァァァァ・・・!

 

「あ・・・っ!!」

 

背中の二枚の翼が、静かに羽となって散っていく・・・。

風に吹き上げられて、宙を舞った・・・。

その光景を見た瞬間、耐え難い喪失感が俺を飲み込んだ。

 

二度と帰ってこない・・・

 

あの笑顔・・・

 

あの温かさ・・・

 

そして・・・

 

『啓太・・・』

俺を呼ぶ声・・・

 

 

「うあ・・・っ!ウソだっ・・・!なんで・・・姉さんまで・・・っ!!」

{啓太・・・}

「うあああああっ!!もう、許すもんか・・・っ!!よくも・・・姉さんをッ!!全員・・・殺してやるっ!!」

{啓太ッ!!自分を見失うなッ!!}

カノンの呼び声は、もう俺には届かなかった。

最後の一人の家族まで失った、俺の気持ちなんか・・・うめられないと知っていても・・・それでも、俺は誰かを殺したかった。

そうしないと・・・心が砕けそうなほど痛かった。

俺は全ての力を込めて、マナをオーラへと変えていく。

 

 

ズゴゴゴ・・・!!

 

 

辺りの空気が一瞬で切り裂くような緊張感を持った。

「うあぁぁぁっ!!」

俺は右手を掲げた。

 

バーストレイッ!!

 

俺の手から、小さな火球が生み出され、俺はそれを敵陣の上空に投げた。

 

インパクトッ!!

ドガァァッ!!!

ズドドドドドドッ!!

 

「うおおおあああ!?」

「ぎゃああぁぁっ!!」

火球が爆発し、火の光線が雨のように降り注いだ。

それを避けられるはずもなく、敵の兵士はつぎつぎと燃えていく・・・。

 

 

その体が燃える、独特の異臭が、今の俺にとっては最高の匂いだった・・・。

 

 

 

「うっ・・・!」

悠人は鼻を押さえる。ものすごい匂いだ。

「うおぇっ!!」

吐き気がして、頭が狂いそうな匂いだ。

 

 

 

「啓太ッ!やめろっ!!」

もう一度バーストレイと放とうとした啓太を止めたのは、メシフィアだった。

「なにしてる!?」

「ははっ・・・もう、俺にはこれしかねぇんだ・・・」

バシッ!

メシフィアは啓太を思いっきりひっぱたいた。

「アエリアはこんなことしてるおまえを見て喜ぶのか!喜ばないだろ!?」

「・・・」

自分の両手を見て、だまってしまう。

その手に、涙が落ちた・・・。

「啓太・・・元に戻れ。気持ちが落ち着くまで・・・私が傍にいてやるから・・・!」

メシフィアは啓太を抱いた。

 

家族の変わりになれなくても・・・傍にいてやることはできる。

 

それがメシフィアの精一杯の慰めだった。

「うあっ・・・メシフィア・・・!アエリアが・・・姉さんが・・・っ!!」

「ああ・・・」

ポンポンと啓太の背中を叩くメシフィア・・・。

「ふぁ・・・ぐっ・・・うあああああっ!!」

メシフィアの胸で、啓太はあふれる涙を流した。

姉を失った悲しみと、怒り狂った自分への戒めに・・・。

 

 

 

 

「瞬ッ!!」

悠人は、瞬へと求めを構えた。

「舞台は整った。さぁ、決着をつけようかっ!!」

「舞台だと・・・!アエリアを殺すことがか!?森を燃やすことがか!?」

「両方に決まっているだろう・・・貴様を殺すには、これ以上ない舞台だ」

「貴様ァァァァッ!!」

平然と答える瞬に、これ以上喋らせたくなくて、悠人は求めを振り下ろした。

 

ドガァァッ!

 

「くっ・・・力があがっている!?」

悠人は、こみあがってくる怒りを胸に、求めを完璧に制御していた。

(絶対に・・・許さないッッ!!!許してたまるかッッ!!!)

「うあぁぁっ!!」

「っ!」

瞬は誓いで防ぐも、あまりの力で簡単に吹き飛ばされる。

「ぐっ・・・!」

「トドメッ!!」

 

ズバァァッ!

 

瞬の体に、大きな裂けた傷口ができる。

求めには、血が飛び散っていた・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「ぐ・・・ウソだ・・・負けるなんて・・・!」

「瞬・・・っ!」

「ウソダ、ウソダウソダァァァッ!!!」

 

{ふん・・・やはりこの程度か}

 

「誓いッ!力をくれ!!」

瞬はすがるように誓いに訴えた。

「あの疫病神を殺す力をっ!!」

 

{うるさい・・・求めすら砕けない貴様など、いらない}

 

「なに・・・っ!?」

 

{永遠の闇に落ちろ、少年・・・我のマナの糧となれ}

 

「ぐっ・・・うおおおおあああ!?」

「瞬!?」

瞬の異常な様子に気付く悠人。

{契約者・・・あれは・・・秋月ではない}

「まさか・・・」

{そうだ・・・誓いに呑み込まれているんだ。ヤツは・・・}

「求め!貴様をもらうぞ!」

瞬・・・いや、誓いが悠人に斬り掛かってくる。

悠人はすかさず求めで防ぐ。

 

 

 

バリィィィッ!!

 

 

 

「なっ・・・求めッ!!」

 

求めは誓いに砕かれた。

飴細工のように破片が飛び散ると、それはすぅぅぅっと誓いへと吸い込まれていく・・・。

 

吸い込まれ終わると、誓いの気迫が増した。

悠人は永遠神剣の加護がなくなり、足に力が入らず膝をついた。

 

「くくっ・・・求めは我に吸収された!我は『世界』!!永遠神剣第二位の『世界』!!」

 

「世界・・・だと・・・!?」

悠人はその名前を聞いたとたん、意識が途切れる。

何かに意識を奪い取られたかのようなカンジだ。

 

(悠人さん!)

(誰だ・・・?)

女の声だ・・・しかも、聞き覚えがある。

(事情は大体把握してます。ですから、私を呼び出してください)

(どうやって・・・?)

怪しかったが、この状況を打開できるなら、何にでもすがりたかった。

啓太は戦闘不能だし、メシフィアもそれに付き添っている。

とてもじゃないが、それ以外の人では歯が立たないくらい、今の『世界』は強い。

(求めに聞けばわかるはずです!)

(求めは・・・)

(まだ大丈夫なはずです!)

 

(・・・おい、バカ剣!生きてるか!?)

 

{なんだ・・・?}

 

すごく消え入りそうな声。本当に消えてしまうようで・・・少し寂しかった。

(呼び出してほしい、と言われているんだが、どうすればいい!?)

 

{異世界からのか・・・我の最後の力を使えば、呼び出せるだろう}

 

(本当か!?)

 

{ああ・・・受け取れ。我の最後の力だ}

ふぅぅっと・・・体に力が入った。

 

(もう、俺に何か求めないのか?)

 

{消えるヤツが何を求める?そうだな・・・なら、せめて生き抜け}

 

(・・・あのさ、求め)

今まで散々ひどい目にあったが・・・これだけは言っておきたかった。

 

{なんだ?}

 

(・・・今まで、ありがとう)

 

{ふっ・・・さらばだ。我が契約者・・・悠人よ}

 

(・・・じゃあな)・・・

 

悠人の手には、求めのかけらがあった。

輝きが残っている・・・。

 

(で、どうすればいい?)

(まず、大きな光の輪をイメージしてください)

(・・・ん)

よくわからないが、啓太がカノンを呼び出す時の光を思い浮かべて描く。

(次に、そこに求めの力を注ぎ込んで)

 

 

グォォォォッ・・・。

 

 

透明だが、何かある、と感じる輪ができた。

(そして、私を呼び出してください!)

(・・・誰かしらねーけど・・・こいっ!!)

悠人はその輪の中に手をつっこんだ!

「死ねェェェッ!!」

瞬が悠人に斬り掛かる。

 

 

ズブブブッ・・・

 

 

キィィンッ!!!

 

 

「悠人さんに・・・手は出させません!」

突然女の子があらわれたかと思うと、その子はあれだけ強かった瞬を軽く吹き飛ばした。

「ぐっ・・・!」

「はぁぁぁっ・・・!!」

 

 

ズバズバズバズバッ!!

 

 

まるで分身しているかのように連続攻撃をたたき込む。

「ぐあぁぁっ!!」

瞬の体が切り刻まれる。

「ぐっ・・・まさかエターナルが出てくるとは!仕方ない・・・いったん退く!」

「待ちなさいッ!」

「待った!」

悠人はその女の子を止めた。

「いいんだ、まだ・・・」

「ですが・・・」

「いいから」

「・・・はい」・・・

 

 

 

かくして、リーダーが撤退したことで敵も退散していった。

 

だが・・・

「・・・すいません」

悠人は謝っていた。

エクステルの生き残りの人々全員に・・・。

「俺が、あそこでしっかり戦えていれば・・・!」

「・・・少年、顔をあげなさい」

長さんが優しく語りかけた。

「あなたたちは十二分に戦ってくれました。もし、あなたたちがいなければ、わたしたちは全員死んでいたはずですから・・・」

「でも・・・!森は燃えるし・・・」

「森はまだ死んではいません・・・時間がかかるでしょうが、いずれ戻ります」

「・・・」

「だから、ここで立ち止まらないで。まだ、あなたたちにはやることがあるのでしょう?」

「・・・はい」

「だったら、私達の事は気にしないで。ね?」

「・・・はい!」・・・

 

 

「アエリア・・・」

「・・・」

俺達はみんなで作った、彼女の墓の前にいた。

全員が、黙って両手を合わせていた・・・。

(ゴメン・・・ゴメンな・・・ッ!姉さんッッ!!)

不意に涙が溢れてきて、目を閉じる。

「ぐっ・・・アエリアぁぁ・・・っ!!」

誰かの声が聞こえる・・・悲しいのは、俺だけではない・・・。

(俺・・・もっとがんばるから!だから・・・だからっ!!)

心の中でさえ、最後まで続けられない・・・。

でも、きっと姉さんならこう言ってくれると思う。

 

 

『うん!がんばってね!啓太!!』

あの・・・とびっきりの笑顔と共に・・・。

 

だから・・・俺は・・・歩く。

 

ずっと・・・歩き続ける。

姉さんに笑われないように・・・!

 

 

 

 

オレ達は平野でキャンプしたあと、出発して帰ることになった。

「・・・?」

「どうしたの?啓太」

「いや・・・なんか・・・変だ」

「え?」

「カノンが・・・」

「え?カノンさんがどうかしたんですか?」

レイナがカノンに触れる。

 

 

バチィィィッ!

 

 

「きゃっ・・・今のは・・・?」

電流が走り、レイナの手を弾いた。

「マナが充実しすぎてたことと・・・関係があるのか?」

「でも、私のゼウスはなんともないですけど?」

{はい、特に異常はありませんが・・・}

「!!」

突然カノンが震え始める。

「な、なんだ!?」

「ケイタ!カノンから離れた方がいい!」

メシフィアのことばどおり、手を離そうとする。

だが・・・

「離れないぞ・・・!?」

「なに!?」

みんなが異常に気付いて見ている。

カノンの震えがどんどん大きくなっていく。

それに比例して、俺の恐怖が増していく・・・。

「カノン!返事しろ!!」

 

{ぐ・・・啓太・・・!}

 

「カノン!これは!?」

 

{ゲートが・・・マナが・・・多すぎるため・・・!}

カノンの声が苦しそうだ。

 

「カノン!?」

 

{ぐっ・・・うおあああああああ!!!}

 

「!?」

俺の体がいきなり薄れていく・・・!

「ケイタ!?」

「あ・・・っ!!」

 

 

プシュンッ!

ドサッ・・・

 

 

「なっ・・・」

啓太が消えた。

カノンが地面に倒れている・・・。

震えがおさまっていた。

「ど、どうなって・・・!?」・・・

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………

霊穴・・・マナが溜まりやすい場所の総称。そう呼んでいるのはエクステルだけ。啓太の記憶再発などの特殊な儀式が行える。

     啓太がこなかった世界では、エレキクルがここを占領し、地震を起こしたと思われる。

 

啓太必殺技『バーストレイ』・・・生み出した火球を敵の上空に投げ、そこで爆発させる。火の光線が大量に降り注ぎ

                落下速度も半端ではないため、防御するのも難しい。