日銀が金融政策決定会合を開き、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を、現行の年0・5%程度から0・2%引き下げ、0・3%程度とすることを決めた。即日実施で、量的金融緩和政策の導入に伴って金利をゼロに誘導した二〇〇一年三月以来、約七年半ぶりの利下げである。
世界的な金融危機のあおりで国内景気の悪化懸念が強まったこと、米欧の利下げで金利差が縮小し、円高に拍車がかかりやすい環境にある点などを総合判断したのだろう。だが、政策金利が既にきわめて低いことから日銀内には利下げに慎重論があった。会合では賛成、反対同数となり、白川方明総裁が異例の議長権限で利下げを決めた。
併せて、金融機関への資金供給円滑化の手段として、日銀当座預金のうち所要準備額を超える金額(超過準備)に利息を付与することも決まった。
利下げで企業の借り入れコストが若干下がるなどの利点はあるが、現状の金利水準を考えれば効果は限られる。むしろ、狙いは各国との協調利下げのメッセージ効果であろう。
米欧の中央銀行は十月上旬に協調利下げを行い、米連邦準備制度理事会(FRB)は下旬にも追加利下げした。欧州中央銀行(ECB)は今月六日に追加利下げを行うと観測されており、FRBがさらに利下げを行う可能性もある。
各国の協調姿勢が鮮明になったことが円高の歯止めになり、東京市場の株価急落がとりあえず止まった経緯もある。今後も金融危機の深刻化を阻止する上で、各国の一致した協調行動が一層重要になろう。
麻生太郎首相は追加経済対策の発表時に国際的な危機対処策に言及し、金融機関の監督強化や、証券化商品、格付け会社の問題性などを指摘した。主要国と新興国が集い今月中旬に米国で開かれる金融危機対処の首脳会合(サミット)で、検討を働きかけるという。
米国は危機の発端であり、欧州の金融機関も米国流の金融資本主義の流れに乗って損失を拡大、景気減速が深刻化しつつある。一方、日本の金融システムの傷は米欧に比べて浅いといわれる。相対的に日本経済が健全で、しかも金利低下の心配が少ない円に資金が逃避したことが円高進行の要因とされる。
日本は一段の国際協調へ先導的な役割を果たす立場にあるといえよう。不良債権問題の経験を基にサミットで対処策を提案したり、その前に各国足並みをそろえた需要喚起策を促すことなども考えられる。
戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」で、横浜地裁は治安維持法違反の罪で有罪となった元改造社編集部員だった元被告に対する第四次再審請求について再審開始を決定した。
事件は、神奈川県の特高警察が「共産主義を広めた」などとして、雑誌「改造」などの編集者ら約六十人を治安維持法違反容疑で逮捕。三十人余りが起訴され、多くは終戦直後に有罪判決を受けた。四人が獄死した。
横浜地裁は、決定理由で拷問で虚偽の自白をしたとする元被告の口述書などを「無罪を言い渡すべき新証拠」と認定した。
取り調べの警察官が横浜事件の別の関係者に拷問を加えたとして有罪が確定している点を重視し、「元被告らの自白は信用性がないことが顕著。自白だけが証拠だった確定判決の事実認定が揺らぐ」と結論付けた。
摘発の根拠とされた改造論文についても「共産主義を宣伝するものか疑問」と判断。共産党再建の謀議とされた会合は「慰労会」と認定するなど、事件が特高警察によってつくり上げられた虚構である可能性にも踏み込んでいる。
注目すべきは、一九四五年九月に有罪判決を言い渡した横浜地裁の審理を「拙速でずさんな事件処理」と批判した点だ。裁判記録が残されていないことについて検事局を含む裁判所が「不都合な事実を隠そうとして記録を破棄した可能性がある」と指摘し、司法の責任にも触れている。虚偽の自白を迫られた元被告の名誉回復に配慮したものといえよう。
横浜事件は、国家による言論弾圧の恐ろしさを物語る。司法手続きは当時とは大きく変わったが、密室の取り調べによるえん罪事件は後を絶たない。横浜事件を風化させず教訓とする姿勢が重要だ。
(2008年11月1日掲載)