2008年10月15日 (水)時論公論 「金融危機に揺れる欧州とロシア」

(アナ)

ニュース解説・時論公論です。アメリカ発の金融危機は、同じように問題債権を多く抱えるといわれるヨーロッパやオイルマネーで経済発展を続けてきたロシアにも波及しています。百瀬解説委員と石川解説委員がお伝えします。

(百瀬)

今回の金融危機は、アメリカの問題だと突き放してきたヨーロッパや、新興国の代表・ロシアを瞬く間に呑み込み、株価は暴落、金融システムの機能不全を引き起こしました。グローバル化した経済の中で起こる金融危機の凄まじいスピードと衝撃力を示したものだと思います。今夜はこの金融危機がヨーロッパとロシアに与えた影響について、石川解説委員とともに見ていきます。

 

まずヨーロッパの状況です。

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今月に入って、イギリスやドイツ、フランスなどで金融機関の経営危機が次々に表面化し、各国がその都度問題を処理してきました。その後イギリスを筆頭に、ドイツ、フランスが御覧の様に相次いで大規模な公的資金の注入、銀行間の取引に対する政府保証を柱にした具体策を発表しました。その理由は、対策にもたつくアメリカの背中を押すという意味のほかに、ヨーロッパが金融危機の第2の震源地になる事を避ける狙いがあったと思います。サブプライム関連の問題債権の保有規模は、ヨーロッパ系の金融機関の方がアメリカ系よりも多いという推計もあって金融機関への不安が燻っていたからです。

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3カ国を合わせ対策の規模は160兆円近くになり、最初にアメリカが打ち出した70兆円規模を上回った事も各国の危機感を反映していると思います。


石川さん、今回の金融危機、ロシアにも深刻な影響を与えているようですね?

(石川)

ロシアにとってヨーロッパ・EUの経済が如何に大きな存在かを如実に示し、ロシアは金融危機の衝撃の大きさに青ざめています。

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ロシアの株式市場はこの三年間で三倍以上上昇しました。この原動力となったのはヨーロッパを中心とした外国人投資家による外資の流入です。しかし八月ロシアが軍事介入したグルジア危機をきっかけに外国人投資家の流出が始まりさらに先月アメリカ発の金融危機で、世界中でもっとも暴落したのはロシアの市場でした。五月の最高値の時と比較しますと三分の一近く指数が下落し、ロシアの証券市場はこの三年間で獲得した資金を一挙に失いました。

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特に深刻なのはヨーロッパの金融市場が機能しなくなったことです。ロシアでは銀行の規模がまだ小さく企業や金融機関はヨーロッパで債権を発行したり、融資を受けたりして事業拡大や海外企業を買収するための資金を確保してきました。民間の対外債務は去年初めから2000億ドル20兆円近く増えて現在では総額4500億ドル45兆円に達しています。

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これまではヨーロッパから資源という強みを持つロシアの会社に潤沢な資金が供給されてきましたが既にヨーロッパにはその余裕はありません。
つまりロシア経済の成長を動かしていたヨーロッパからの血液が絶たれた状況になっているのです。来年三月までにおよそ6兆円が返済期限を迎えますが、ロシアの有力企業でも資金繰りに困ることころが出るのではないかという憶測がさらにロシアの株式を売る動きを加速しています。

(百瀬)

今の話を聞くとヨーロッパのマネーが大量にロシアに流れていたという事ですね。今回の金融危機はアメリカ流のマネーゲームの結果と批判されますが、程度の差はあれヨーロッパでも金融バブルは生まれていたと思います。イギリスでは15年も好景気が続きましたが住宅市場の拡大が支えになっていました。この住宅バブルの破裂とアメリカ発の金融危機が重なった事もあって、イギリスの打撃は他の国よりも深刻だといわれます。
預金や貸付が中心で堅実といわれたヨーロッパの大銀行も、証券を扱う投資部門を強化してアメリカでも積極的にビジネスを展開していた事は先ほど触れた通りです。
今度の金融危機でアイスランドが破たん寸前に陥っていますが、私には今回の危機を象徴しているように思われます。

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人口31万のアイスランドには、高金利につられて世界から資金が集まり、気がつくと銀行全体の借入額が国内総生産の5倍以上に膨れあがっていました。今回の危機で銀行は資金繰りに行き詰まり、ついには国がIMFやロシアに資金援助を求めるまでに至りました。小さな国に経済規模の数倍のマネーが集中した事を考えますと、金融危機の背景として、世界にはカネ余りによる巨大なバブルの存在が指摘できると思います。その意味でも、金融危機の先行きは楽観できないと思います。
ロシアも10年前に、同じような国家的危機を経験していますね。

(石川)

国際的な信用不安から外資の流出という基本的な構図は似ています。
その当時と比べて今のロシアは8兆円を超える巨額の財政黒字、さらに55兆円と世界第三位の外貨準備を持ち、また原油価格の下落に備えた政府の基金も14兆円を超えるなど国家財政は格段に強化されています。
しかし今回の国際的金融危機の規模は10年前とは比較にならない大きさと深さです。

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ロシア政府は3兆8千億円の融資を金融機関に供与するなど流動性を確保するため総額10兆円の資金を金融システムに投入しています。まず金融システムを守り強化する言う姿勢を明確にしています。


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そしてロシア政府はロシアを支える石油ガス会社などが抱える対外債務の問題について今月五兆円ほどの資金を準備し民間の対外債務についてはこの資金をもとに国営銀行を通じて借り換えに応じるとの措置を取りました。

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巨額の資金を投じて何とか危機の広がりを食い止めたいとのロシア政府の危機感が現れています。

(百瀬)

さて、今回の金融危機が実体経済にどんな影響を与えるかが大きな問題です。ヨーロッパは原油高にも耐えて、今年初めまでは景気も堅調さを保っていました。しかし、ご覧のように春から夏にかけて、主な国の景気に急ブレーキが掛かり、すでに景気後退局面にあるという声も聞かれるほどです。

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今後一番心配されるのは銀行の貸し渋りです。一般の企業が苦境に陥ると、せっかく脱皮しかけたヨーロッパが「低成長と失業」という、かつての「欧州病」に逆戻りする恐れがあります。
ヨーロッパの景気後退が新興国に及ぼす影響も軽視できません。EUは中国にとっての最大の輸出市場ですし、ロシアにとっては最大のエネルギー市場です。ヨーロッパ経済が低迷すれば、世界経済の成長の担い手の新興国の足を引っ張るおそれもあります。その意味でも、ヨーロッパの景気動向は要注意です。
石川さん、ロシアにとって気になるのは、やはり原油価格の行方でしょうか?

(石川)

ロシアの国家予算は原油価格を七十ドルから八十ドルと見込んでいます。従いましてもしも原油価格が七十ドルを切る状態が長期間続きますと潤沢だった予算も削減を迫られることになります。ロシア経済は今のところ今年に入っても七点七パーセントの成長を維持するなど数字だけを見ると堅調ですが、陰りも見え始めています。これまで成長を牽引してきた設備投資の伸びが大幅に鈍り、また都市開発など建設部門でも資金不足から建設が中止されるプロジェクトが相次いでいます。
ロシアは世界経済の拡大の中でヨーロッパからの潤沢な資金の供給を受けるなどいわば順風の吹いている中で楽な経済成長を続けたと言えます。しかし今世界経済の乱気流の中に巻き込まれ、大きく揺らいでいます。ヨーロッパの冷え込みがロシアを減速させさらにヨーロッパを冷え込ませるという負の連鎖に陥る怖れも出ています。

(百瀬)

こうして見てきますと、金融危機の行方はまだまだ不透明ですし、景気の先行きを考えますと、厳しい事態を覚悟せざるをえないと思います。今夜は金融危機に揺れるヨーロッパとロシアについてお伝えしました。

投稿者:百瀬 好道 | 投稿時間:23:59

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