MMFに飛び火したリーマン騒動
リーマン・ブラザーズ破綻の影響は、さまざまなところに及んだ。特に大きな影響を被ったのは「現金に準じる安全な金融資産」とされる米国のMMF(※)だ。にもかかわらずMMFにはこれまで保険のシステムがなかった。それは、MMFが破綻することはないと信じられていたからである。そのため「不要不急のお金はMMFに置いておきたい」「リスクの高いものを狙わないときは、とりあえずMMF」と人々は安心してMMFに預けていた。
※ Money Market Fundの略。公社債などで運用する投資信託の一種
ところがMMFでリーマン・ブラザーズの社債に投資していて損失を出し、元本割れしたファンドが出てきたのだ。安全と信じられてきたMMFの破綻が現実化すると、パニックが走る。そこで米国の財務省は、MMFの払い戻しを保証する臨時の保険制度を発表した。何しろMMFに置かれているお金の額は大きい。パニックが起これば相当な規模になることは容易に想像がつくからだ。
この手のパニックは過去にも起こった。そしてその都度、一企業の倒産どころでは済まない甚大な被害を発生させた。第二次世界大戦につながった1929年の世界恐慌も、元はといえばパニックが引き金であったのだ。だからパニックを起こすわけにはいかないと、米国政府はMMFの元本保証のために動いたわけである。
「皮肉なことに」と言うべきか「怪我の功名」と言うべきか、米国の一連の金融騒動でさまざまな錯覚が明らかになったことは明記しておきたい。
例えば「MMFが安全」というのも錯覚だった。「ファニーメイやフレディーマックは米国債に次いで安全なもの」というのも錯覚だった(当連載第139回 『米国はバブル崩壊後の日本をなぞるのか』参照)。両社とも昔は公社で、民営化後は国家による保証はなくなっていたのに、何となく大丈夫だと錯覚していて、人々は債券を買い求めていた。この債券の流通量は非常に多く、だから所有者が全員売りに出してしまっていたらとてつもない大暴落になっていただろう。本当はジニーメイという元本保証のある債券もあったのだが、誰もその違いに気がついていない。
あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください
この連載のバックナンバー
- 「禁じ手」を使わざるを得ない米国 (2008/10/29)
- グルジア紛争にマケインの影 (2008/10/22)
- 世界に広がるチャイナフリーの動き (2008/10/15)
- 最初にやるべきことを最初に (2008/10/10)
- ポールソン案は額不足、手順も誤り (2008/10/09)