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「産業突然死」の時代の人生論

ベアー・スターンズが教訓になってリーマン・ブラザーズは見捨てられた

 今年(2008年)3月に世間を騒がせたベアー・スターンズも、リーマン・ブラザーズと似たような状況だった。

 ベアー・スターンズもまた投資銀行である。同行の場合、3月の週末についにどこからも資金調達ができなくなり、経営危機に陥った。事態を重く見たポールソン財務長官は強引にJPモルガンを巻き込んで資金を調達させた。

 ポールソン財務長官がJPモルガンを巻き込んだのは、グラス・スティーガル法のためにFRB(連邦準備制度理事会)は投資銀行を直接救済することができないからだ。そこで一般銀行であるJPモルガンを経由して、ベアー・スターンズに資金を届けたわけだ(このあたりの詳細については当連載の第132回 『米国の行く手に第2、第3の金融危機』をご一読いただきたい)。

 この強引な手法は議会でひどく非難されたが(そのためFRBが判断すれば、投資銀行も救済できるというように法律を変えた)、ともあれそのおかげでベアー・スターンズは、からくも破綻は免れたのである。逆にいえば、資金調達ができなければ間違いなく月曜日に破綻していた。

 ではなぜベアー・スターンズが生き延びて、リーマン・ブラザーズは破綻することになったのか。なぜ今回は財務長官は動かなかったのか。簡単にいえば、ベアー・スターンズは破綻を迎えた第1号だったからだ。

 もしあのときベアー・スターンズが破綻していたら、他の金融機関にもパニックは飛び火し、ズルズルと連鎖的に破綻していったことも考えられた。突然の破綻騒ぎでポールソン財務長官も心の準備ができていない状態での対応だったのだろう。パニックというものは何事も最初が大きい。

 基本的に米国政府は、ベアー・スターンズを救う気はなかったのだろうとわたしは思っている。そもそも現政権の共和党はマーケット主義・市場主義者が多い。そういう立場からすると「市場に任せるというマーケットメカニズムでは、悪いことをした企業はしかるべきとがめを受ける」ことになる。だから歴史的な伝統として、共和党は一般の企業を救うことはしない。ましてベアー・スターンズはサブプライムローンを小口債券化し、CDOという紛らわしい債券を世界中にばらまき始めた張本人である。

 FRBにとってベアー・スターンズは一つの教訓になった。いまでは金融機関が破綻した場合はどう対処すればいいのか、政府も心の準備ができている。これからは手際よくつぶすこともできる。その第1号がリーマン・ブラザーズだったというわけだ。

 今では矢継ぎ早に法律が変わり、FRBの判断で銀行でも証券会社でも救済できるようになっている。

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