この本のタイトル、「サバイバル朝鮮語」とすべきでしたね。「ハハハ。いきなり渡されたのは日本製の会話ブック1冊だけ。辞典をくれと迫ったら、しぶしぶ出してきたのが韓日辞典。<韓>を削って、<朝>にしてあった」。北朝鮮に拉致されて24年間、生き抜くために言葉を習得していくプロセスが生々しい。
専門の語学教師もいない、文法書もない。不自由な招待所暮らしにもかかわらず、ほぼ1年で読み、書き、話すことができるまでになった。ささやかな抵抗もした。「わざと尊敬語を間違えてね。指導員には『召し上がって』と言わず『食べて』とぞんざいな表現を使ったり。この野郎って思っている人間ですから」
拉致問題は暗礁に乗り上げたまま、いたずらに時間が流れていく。「日本政府にリーダーシップがあるかどうかを見極めているはずです。そして問題の解決が向こうにとって得になるんだと理解させないといけない。後継者の基盤を安定させるためにもお金をほしがっているのは間違いありませんよ。機会はきっと訪れます」。戦略を描いて交渉に臨め、との注文である。
いつか体験のすべてを語りますか? 「まだ帰られていない方がおられますから。いま公開することはマイナスでしょう。でも、解決されれば、みなさんに知っていただきたい。私の義務だと思っています」
【鈴木琢磨】
【略歴】蓮池薫(はすいけ・かおる)さん 翻訳家。新潟産業大特任講師。中央大3年在学中に拉致された。韓国語入門は文春新書として刊行。51歳。
毎日新聞 2008年11月2日 0時43分
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