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最近の中国(東北部)事情=(1)巨大国家の存亡

最近の中国(東北部)事情=(1)巨大国家の存亡
瀋陽市内の目抜き通りには、巨大な毛沢東の銅像が建てられ、あたりを睥睨(へいげい)している。(撮影:今藤泰資) 写真一覧(7件)
【PJ 2008年10月31日】− 思いがけない機会を得て、中国東北部へ旅をした。大連、旅順、瀋陽の秋風の中、わずか4日間ではあったが、あらためて隣国の発展成長とそれにも増す混乱と不統一をかいま見ることになった。成田空港から1500キロ離れた大連空港までは、わずか3時間少々。そこはわたしたち世代にとっては「満州」と呼ぶほうが親しみやすい土地なのであった。大連へ行くと聞いた友人の一人は「食の安全についての調査じゃないでしょ?」と冷やかしたが、前回は、在瀋陽日本領事館に脱北者が駆け込んだ直後。時と共に話題も変化するもののだ。

 遼寧省には、日本帝国主義の面影を残す構造物が多数存在する。傀儡国家の満州国を成立させ、いわゆる「満州経営」を画策したのは、わが国の軍部であった。南満州鉄道(略称:満鉄)は、88超の系列企業を抱えるマンモス会社で、現職官僚や軍人が民間に職を得ることを容認する体制をとっていた。植民地政策の重点はインフラ整備であったが、朝鮮半島に残存する旧跡と異なる点は、現在でも健在な構造物であることが特徴だ。

 韓国では「恥辱にまみれた文化」としてその多くを破壊し、中国では「利便性の高いものは活用するため」その多くを残しているのだ。上野駅の模倣である大連駅舎や、「満州経営」の中核であった「ヤマトホテル」がそれである。このホテルには、1909年、ハルピン駅頭で朝鮮人安重根に暗殺された伊藤博文が最後に泊まった部屋が残され、2・26事件の首謀者甘粕大尉や、女優李香蘭こと山口淑子など、日本人でさえ忘れかけた歴史の一端を思い出させる。

 日露戦争の旧跡は、その多くを旅順市内で発見することができる。ロシア東洋艦隊の主力が集積していた旅順港と、それを見下ろす203高地は日露戦争の主戦場であった。その後、ロシア帝国は崩壊し、第二次世界大戦に日本帝国は惨敗した。主権を取り戻した中華人民共和国では、この戦跡を「二度と屈辱を経験しないため」貴重な構造物として、維持保管しているのであった。

 云(い)うまでなく、中華人民共和国は巨大国家である。3000年以上にわたる国家を制圧した満州民族の清王朝は、1840年に始まったアヘン戦争やその後の日清戦争に敗れ、欧米列強と日本による植民地化が進行した。こうした時代背景は、映画「ラストエンペラー」に詳しく説明されている。

 1912年、ようやく成立した中華民国も、フランスやドイツ、イギリスなどの局地的支配は継続し、ロシアや日本の厳しい干渉に加え、軍閥の跋扈(ばっこ)は国家統一の機会を制限してきたのであった。その後も断続的に戦われてきた国共内戦(国軍と八路軍)を制圧したのは、卓越した指導者・毛沢東の力量によることに異論は出ないだろう。

 瀋陽市内の目抜き通りには、巨大な毛沢東の銅像が建てられ、あたりを睥睨(へいげい)している。「これが我々の国家だ」と言わんばかりの温和な笑顔には、威喝感が漂う。共産主義以外を認めない一党独裁、偏った政治スタンス、「盲民(統計外の人民)」を含むと14億もの人口、漢族を中心とする55もの他民族国家、それでいながら資本主義国家との協調を余儀なくされる現状…矛盾に満ちた国家の存亡が、わたしには気になってならない。

 2カット目の写真は、大連駅前駐車場、早朝の風景だ。マイカーで乗りつける客は少ないと見えるが、客待ちするタクシーの車種に注目したい。ほとんどが、旧型ワーゲンのサンタナであり、6年前の光景とほとんど変化はない。ここに中国という巨大な発展途上国の姿が見事に表現されている。

 遼寧省の人口は4200万人、韓国に近い人間が住む地域なのだ。内16%は、チワン族、モンゴル族、回族、シホ族などの少数民族であり、最も少ないとされる朝鮮族ですら200万人という多民族国家でもある。在日朝鮮・韓国人の総数約60万人と比較すれば、この国の異様さが明確になる。異質な言葉や風俗、文化や歴史を有する「中華人民」の乗るタクシーでさえ、あるメーカーの一車種であるのと同様に、ある一定の価値観や思想によって拘束されることが、今後ともこの国では継続されうるのだろうか。単純な疑問を払拭(ふっしょく)するのは、なかなか容易なことではなかった。【つづく】

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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 今藤 泰資【 茨城県 】
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