病院の診察室で、白衣の医師に面と向かうと、誰しも少なからず緊張するだろう。気持ちまで弱っている患者の身になればなおさらで、難しい医療用語を耳にすると戸惑うのは無理ない▲医師と患者を隔てる言葉の壁がある。国立国語研究所の「病院の言葉」委員会が医療現場の専門用語や患者が誤解しやすい57語の言い換え例をまとめた。聞きなれない「寛解(かんかい)」は「症状が落ち着いて安定した状態」という日常語に改めるなどだ。医師の助言も患者に伝わらなければ意味がない▲緊張の種は、診察室の閉塞(へいそく)感にも宿る。そこに、人間そっくりのアンドロイドと呼ばれるロボットが同席したとしよう。とっぴな話ではない。大阪大学の研究チームが整形外科を訪れた年配の患者60人余りに試みた▲腰痛などを訴える患者に、看護師役のアンドロイドがうなずいてみせたり、ほほ笑んだりする。患者はリラックスし受診の満足度が増したという。逆に、アンドロイドが表情一つ変えなければ、不安に駆られるらしい▲自分の窮状が伝わっていないと思えば、患者は医師の話に得心がいかない。研究チームの一人で、ロボット工学者の石黒浩さんは「第三者が加わった人間関係の中でコミュニケーションが円滑になる。一対一より同調者が増えれば、人は一層、安心し納得する」という▲「『鉄腕アトム』は好きか」。石黒さんは意識したことがないのに、外国の記者からよく聞かれるらしい。80年前のあす3日は、手塚治虫が生まれた日だ。人に寄り添うロボットの研究で、日本は群を抜いている。医療や介護の現場で、ロボットが人の心を和ませてくれる日は遠くなさそうだ。
毎日新聞 2008年11月2日 0時31分
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