国家公務員2種は「日本の癌」か ――労組の機関紙・記事・ブログを読む 「公務員」への風当たりがかつてなく強まっているいま、「国家公務員」と聞けば、官僚・安楽・徒食の輩みたいなイメージを持つ人は少なくなかろう。しかし、全国に13万5000人にのぼる「非常勤国家公務員」がいることをご存知だろうか。非常勤国家公務員は不安定雇用なのだ。それは地方の現業だけではないのか、と思う人もいるかもしれないが、霞が関の官庁街でも1万2000人が非常勤国家公務員として働いているのである。 ぼくは、ひょんなことこから国家公務員一般労働組合(国公一般)のニュースを定期的に送ってもらっているのだが、そのなかに入っていた「週刊金曜日」誌(07年3月30日付)の報道を読んでびっくりした。タイトルは「国家公務員の3分の1が『非正規雇用者』 ワーキングプアを生み出している霞が関の実態!」。筆者はルポライターの矢吹紀人だ。 この報道で冒頭に、特許庁で働いている「非常勤」からのメールが紹介される。 2年近く働いてきて有給休暇が一日もとれないというのだ。 国公一般の労組担当者が調べてみると、びっくりするような労働条件が最初にとりかわされていることが判明する。 〈給与・諸手当:日給七三〇〇円(税込み)。交通費等その他手当は支給しない。 休暇:年次有給休暇は付与されない。 社会保険等:健康保険、雇用保険には加入しない。……〉 こりゃーひどすぎるんじゃないのか、と思うだろう。なんでこんなことになっているのか、あるいは、なぜこんなことがまかりとおっているのか、と。たしかに国家公務員には労基法は適用されないんだが、それに準じる扱いはされるのだ。こんなことはできないはずである。先述の労組担当者のコメントが紹介されている。 〈「そこで、どの省庁も非常勤には日雇いの“日々雇用”を繰り返す形をとっていて、雇用期間は二五週以内。実際は継続雇用しているのに、半年たつと退職させた形をとる。それならばいつでも解雇ができるし、よけいな経費もかからない。労基法が適用されないから、やりたい放題。働く側の権利などはほとんど無視で、雇う側だけの都合だけで働かされているのが霞が関の非常勤職員の実態なんです」〉 日給7300円で交通費無しというのは、月収に直すと11万円程度にしかならず、しかも祝日などが入る月はさらに落ち込むのだ。「国が率先してワーキングプアを生み出そうとしているとしか思えないですよ」という先の担当者の声はまったくそのとおりである。 この問題にかかわって、朝日新聞でも「社会保険 非常勤270人加入漏れ 特許庁 指摘受け是正へ」と大々的に報じられたが(06年11月27日付)、特許庁がとった態度は「過去2年間の保険料要求」「勤務時間減で適用外に」(同紙07年2月8日付)という驚くべきものだった。つまり、「保険に加入させるけど、そんなら過去の保険料を払え」「とことんパートにしてしまえば加入させなくて済む」という態度。働く人の生活を守るというのではなくて、あくまで法律をのがれようとする卑劣な態度なのだ。過去の保険料は多い人で35万円になる。 この「過去の保険料を払わせる」という件で、国公一般から送られてきたニュースにはこの問題を国会でとりあげた共産党議員(吉川春子)の質問が載っていた。 〈吉川議員は、1600人の加入漏れがあった東京ディズニーランドでは、労働者負担分を会社が肩代わりしたことを指摘し、「自分たちの落ち度があるのに身勝手だ。国ならミスを許されるのか」と厳しく追及〉 ディズニーランドで働いていた若い人たちが同じように、社会保険加入のがれをさせられていて、ある日突然何年分も払えとヤラれた例があるのだが、ものすごい低賃金で働かされている身分で、ある日突然何十万円も払えるわけがない。突然強いられる巨額の出費は過大な負担なのだ。これは結局共産党のところに相談して、会社が払うことになったらしい。 先の担当者が「社保のがれのような働かせ方を指摘されたのに、再び社保のがれを繰り返す。これがメ再チャレンジモを唱える、国のやることでしょうか」とコメントしているのはまったく共感する。安倍首相は「いわゆるワーキングプアといわれる人たちを前提に、いわばコストあるいは生産の現状が確立されているのであれば、それは大変な問題であろうと思います」(06年10月14日参院予算委)と国会で答えているが、政府自身がまさに「率先して」ワーキングプアを生み出しているのである。 さて。 この国公一般のブログがある(ブログ「がぶり寄り」)。それがなかなか面白い。やっぱり組織がもっているブログは、無人称でノッペラボーの「一般的存在」がブログをやるのは面白くない。このブログのように、担当者を前に出して、担当者の喜怒哀楽が伝わってこないといけない。他の組織も参考にするといい。 で、この「がぶり寄り」のなかで、2月27日にコメントしてきている人のコメントがすごかった。 http://kokkoippan.cocolog-nifty.com/gappuri/2007/02/3_be08.html
この、なんつうか、にじみ出るエリート意識と、ナイーブすぎる民間信仰が実に香ばしい。くわえて、「日本の…」とか「国を救う」とか「志」とか、ナショナリスティックな心情と論理がじわりとシミ出ているあたりが、香りをいっそうひきたてている。 国家公務員1種というのは「国の各省庁の幹部候補生として行政の中枢を担う重要な役割を果た」す(サイト「ライセンスワールド」より)役職で、いわゆるキャリアだと思ってもらっていい(それだけじゃないが)。我々のイメージする「官僚」である。んでもって2種というのは、「中央省庁や地方機関で中堅的な役割を果た」す、というまあわかったようなわからないような説明なんだが。 このコメント主は、「私たちは、国家公務員志望をやめ、『民間』を志望しています」とあるので、おそらく学生か院生なのだろう。あるいは少し働いて民間に移ろうとしている若いキャリアかどちらかだろうと推測できる。この人の「国家公務員志望」というのは「1種」のことである。「1種」を志望するという視点から、「2種」「3種」「非常勤」の「あなた方」を罵倒するという構図になっている。 まだ学生or駆け出しというのに、一丁前の選民思想だけはできあがっているというのがまた……。 それにしても「日本の癌」ですか。 あるいは「能力も志もないあなた方」ですか。 まあ、藻前も漏れも落ち着け。深呼吸。 一旦この人の頭になってみて、表現をまろやかにしてみるとどうなるだろうか。 「民間では死ぬ気でがんばって働いてそれが国の経済を支えている。公務員は、自分の労働条件のことばっかり言うのではなくて、民間みたくぎりぎりまで働いて国=国民のために奉仕しろよ」。 うむ、だいぶまろやかになった。これなら、少しは賛同者が出るかもしれない(笑)。これくらいにすれば、対話可能な相手のようにみえてくるなあ。 この人に対話をするとすれば、次の2点だ。 (1)非常勤の待遇を底上げする 「まず本人ががんばっているかどうか、の評価はおいておこう。しかし、がんばってもらうためにも、非常勤の方の生活の最低限を保障してあげてはどうかなあ。いやね、ゴールドマンサックスの平均年収は7300万円っていうじゃない? いやいやわかっているって。それはトップ報酬の人が平均を釣り上げてるってことぐらいはね。でも初任給でもゴールドマンサックスなら800万はもらうというからね。成績が出ないとすぐ辞めさせられる? うん、ある種の公正なルールがあって、それでがんばり次第でそうなるんだったら、ありえるかもしれないね。いや、もし非常勤でそういうシステム入れてくれて、成果次第で7300万もらえるんだったら、どうだろうね。いや、そんなこといいたいんじゃないんだ(笑) じゃあリクルートでもいい。あそこは40歳で年収1200万円というわけなんだが。それぐらいあれば、毎晩4時とかもするかもねえ。まあ、それはおいといて。やはり、月11万円でいつクビきられるかどうかというんじゃあ、身が入んないんじゃねえの?」 (2)労働ルールに従った方が経済が活性化する 「時期によっては遅くまでがんばって働くっていうのはあるよね。それに強制としての仕事という要素以外に、たしかに仕事に熱を入れてそれくらい遅くまでやっちゃうってのはある。確かにある。それから、個別資本ってのは、どうしても目の前の最大利潤の追求に頭がいっぱいになるから、もう働け働けってなるだろうね。そういうときに、個別資本のアタマじゃなくて、もっと総資本の立場から、つまりもっと長くて大きなスケールでモノを考える存在がないといけないわけで、それが資本主義における『国家』=総資本の役割じゃないのかなあ。労基法つくって労働時間の規制を設けて労働者に休みをつくるのは、労働者がワガママでとった取り分、ってわけじゃなくて、そうやって休ませる方のが長い目で見ると労働力がリフレッシュして経済に活力を生み出すからだろう? つまり健全な国民経済の発展に寄与する、というわけだよ。たとえば有休も買い取っちゃいけないのが現行法だろ? それはムリヤリにでも休ませるという制度にすることで、リフレッシュをさせようとするからなわけだよ。頭のいい上司っていうのは、やっぱり部下を休ませることを考えるだろう? 無理にでも。1日2時間睡眠って、まあそういう日が続くこともあるだろうけど、ホントに毎日続いたら死ぬでしょ(笑) そしてそんなふうに使っている奴がもしいたとしたら、個別資本の立場から見ても、相当なアホだと思う。ましてや国家全体の視点にたつ官僚だったらそんな視野狭窄なことじゃダメでしょ。うん、あんた民間志望に変えて正解だよ」 結局ケンカになっているがw つまりこのあたりの切り口ならこの人とわかりあえるんじゃねーかなーと思うのである。 余談だが、送られてきた機関紙(「国公いっぱん」)の発行日の日付が「4月40日」だったのが妙に可笑しかった。 |
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