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過酷な産科医師勤務 ベッド満床「緊急受け入れ困難」 (1/3ページ)
東京都内で妊婦が8病院に受け入れを拒否され死亡した問題を機に、産科救急医療の窮状がクローズアップされた。緊急処置の必要な妊婦や赤ちゃんを受け入れる都内の「総合周産期母子医療センター」のひとつ、昭和大病院(品川区)の一晩に密着すると、産科医の厳しい勤務や絶対数の不足、慢性的にベッドが足りないといった切実な声が聞かれた。母子の命を救う「最後のとりで」といえるセンターは“綱渡り”を余儀なくされていた。(神庭芳久)
【午後5時台】
ナースステーションに、今夜の宿直当番の長島稔医師(27)が駆け込んできた。医師になり3年目。昭和大病院に大学院生として所属している。「当直手当はでますが、給料はなし」。この日は、朝から大学病院の病棟回診などをこなした。同病院の総合周産期母子医療センターには、6つの母体・胎児集中治療室(MFICU)と、9つの新生児集中治療室(NICU)が備わる。
産婦人科医師は30人。医師3人と助産師資格を持つ看護師4人が夜間や休日の当直に入る。産婦人科学教室の岡井崇教授は「他の母子医療センターよりも恵まれた体制だ」という。
【午後6時台】
長島医師に先輩医師から痛みを訴え、自分で救急外来に来た妊婦に対応するよう指示が出た。
「流産だ」。分娩着に着替え、診察室に。「胎児はすでに死亡。私が診たときには、ほとんど母胎から排出されていた」。母は無事だがひとつの命が消えた。長島医師は言葉少なだ。
3人当直の医師、看護師らがMFICU、NICUを巡回。ベッドは、未熟児、先天性の障害などリスクの高い出産となる妊婦で、慢性的にすべて埋まっている。緊急の受け入れ要請への対応は困難で、この日も要請が2件あったが断らざるを得なかった。いずれも妊婦の妊娠週数が短く、未熟児が生まれる可能性が高かった。
同病院では平成19年度、232件の受け入れ要請があったが、実際に搬送されたのは62件しかない。