桜井淳所長から横須賀市民へのメッセージ-原子力空母"ジョージ・ワシントン"の原子炉安全への懸念-
テーマ:ブログ横須賀市民の皆様へ
日本政府は、日米安全保障条約に基づき、米軍に基地を提供しなければなりません。横須賀港もそのひとつに位置づけられております。
最近、原子力空母"ジョージ・ワシントン"が寄港いたしました。日本政府は、米政府からの情報を基に、原子力空母の原子炉の安全性に懸念すべきことがないと受け止め、横須賀市民にも、その旨を伝えてまいりました。しかし、米政府は、軍事機密を盾に、原子炉の安全性について、真実を公表するはずはなく、日本は、米国からの一方的な情報を鵜呑みにすべきではありません。いまのところ何もわかっていないというのが真実です(原子炉運転日誌と制御室のプラント各種記録計の運転記録が公開されないと、何もわかりません)。
それにもかかわらず、江畑謙介のような原子炉の安全性に対する見識のない軍事評論家が、無責任にも、軍事用原子炉の信頼性を強調するコメントを発表しておりますが、的外れもよいところです。
いくら、日米安全保障条約に基づき、基地を提供しなければならないといっても、軍事機密を盾に、すべてが"ブラックボックス"のままでよいはずはなく、横須賀市民が安心して生活できる最低限の情報は、公開すべきであり、横須賀市民は、生活と安全を確保するため、その程度の最低限の要求は、できるはずであり、情報が公開されない場合には、訴訟で対抗すべきです。日本政府も米政府も安全を保証してくれません。自身の命は自身で守る以外に方法はありません。
私は、ここで、原子力空母の原子炉について知り得るほんの二、三のことについて、問題提起いたします。ひとつは、燃料被覆管に利用しているステンレススチールの信頼性について、もうひとつは、約20年間も燃焼し続けてきた燃料棒に蓄積されている毒物(一般的には、すべての放射性核種ですが、特に、問題にすべきは、事故時に、長期にわたり深刻な影響を与えるセシウム137等)の絶対量についてです。
まず、前者から・・・、原子力空母"ジョージ・ワシントン"の原子炉に利用されているステンレススチールについても、商業用軽水炉での1960-1970年代の苦い経験を反映させ、信頼性の高いステンレススチール、具体的には、SUS316Lかそれ相当の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking; SCC)に強い材質が採用されているものと推察いたしますが、軽水炉での1980年から今日までの経験からわかるとおり、SUS316Lを採用しても、SCCは解決できておらず(たとえば、1990年代に発生した福島第二や柏崎刈羽の炉心シュラウドのSCC)、沸騰水型原子炉と異なり、いくら加圧水型原子炉の一次系の溶存酸素量が少ないといっても、SCCによる亀裂は、数多く発生し、一次冷却水は、漏洩した放射性物質で高く汚染していることが推定でき、さらに、緊急軍事行動への対応のために、過去に、原子炉熱出力の急上昇等、原子炉システムに大きな熱衝撃を加えるような運転を何度も繰り返してきたため(運転日誌が公開されていないため、判断できませんが、最悪の場合、このように解釈すべきです)、被覆管は、軽水炉よりも桁外れに損傷が大きいと推定でき、信頼性そのものが疑問です。
後者の問題について・・・、原子力空母"ジョージ・ワシントン"の原子炉は、軽水炉と異なり、連続的に運転しているわけではありませんが、それでも、軽水炉の燃料集合体が3年間で取り替えられているのに対し、20年間も取り替えられておらず、搭載されているふたつの原子炉と熱出力からして、燃料棒に蓄積されている放射性核種の絶対量は、最悪の場合、軽水炉以上になり、事故時の環境被ばく評価もこれまでの常識的な被ばく手法が適用できない可能性もあり、特に、人間の骨に蓄積し、癌を誘発する半減期の長いセシウム137等の影響が懸念されます。
以上、ふたつの問題は、原子炉運転日誌と制御室のプラント各種記録計の運転記録が公開されていないため、正確なことは、何もわかりませんが、最悪の場合には、寄港を許容できない不確定要因になるものと推察されます。
桜井淳